第4話

「やっほー、アーちゃんとクーちゃん」

その日の仕事終わり。疲労困憊といった表情のアマガサとまだ余裕があるクラウディアの二人はテンペストホールから出てきたところで声をかけられた。

「あら、ハレノヒじゃない。こんな所で待ってたの?」

「やっほー……、ハーちゃん……」

「あはは……。だいぶ疲れてるねアーちゃんは」

二人に声をかけたのは晴れを司る気象精霊、名前はハレノヒ。オレンジ色のショートカットの髪型をしており、非常に明るい性格をした少女である。

「きいてよ~ハーちゃん。クラウディアちゃんが私をイジメるの~」

「ええー。ダメだよクーちゃん。アーちゃんイジメたりしたら」

「こいつが仕事してないのを注意しただけだっての。そもそも仕事をサボろうとしてたのよこいつ」

「痛い……」

クラウディアが乱暴にアマガサの頭を小突く。

「暴力はダメだよクーちゃん。アーちゃんだってちゃんと話せばわかってくれるよ」

「そうだよそうだよ! なのにクラウディアちゃんったらここに連れてくるのにも力づくで引っ張てきてさぁ~」

「ええ~。かわいそうだよクーちゃん」

「アンタ……。車で送ってやったのに随分な言い草ね」

ギロリとクラウディアがアマガサを睨む。するとアマガサがハレノヒの後ろに隠れた。

「ぼ、暴力反対……」

「だめだよ~。ちゃんと優しくしなきゃ」

「ハレノヒ……、アンタ甘やかしすぎでしょ……」

実は一番甘やかしているのはクラウディアだということは本人が気付いていなかった。

「わ、私は優しくされれば、ちゃんと働くから……」

「あんたいつだったかもそんなこと言って私が優しくしたら調子乗ってたじゃない」

前にアマガサがクラウディアに優しく接してくれればちゃんと仕事をすると言ったことがあったのだが、結果的にアマガサの堕落ペースが急激に増加しただけであった。つまり意味が無いのである。

「あはは……。そんなことあったんだ」

ハレノヒが困ったように苦笑する。

「まあそれはそうと。ハレノヒ、アンタも今日の仕事は終わったの?」

「うん。今日は三件の世界しか担当なかったからね。一つ一つの〈晴れ〉の時間も短かったし」

「あら凄いじゃない。どっかのダメ気象精霊はたった一つの世界だけでヒーヒー言ってたのに」

クラウディアはアマガサの方をジロリと睨む。

「わ、私はその一つの担当時間が長かったからセーフってことで……」

「何がセーフなのよ」

アマガサはいまだにハレノヒの背中に隠れている。そんなアマガサをほっといて、クラウディアはハレノヒの方に向き直る。

「なんか今日は朝から晴れの気象精霊がバタバタしてたからてっきりハレノヒも忙しいかと思ってたわ」

「そうなんだよ~。私は今日ラッキーで晴れの時間が短い世界担当だったんだけど、一日中快晴の世界が多いみたいでさ~。私のお姉ちゃんも忙しそうにしてたよ」

「クラートさんが? なら今日は機嫌が悪そうね……」

「そうだね、今日は機嫌悪いと思うよ~。あっ、でも今日は終業の時間遅いから会わないと思うよ」

「そ。なら安心だわ。あの人ちょっと苦手だし、機嫌悪いと何言われるかわかったもんじゃないからね」

「クラウディアちゃんは昔からお姉ちゃん苦手だったよねー」

クラウディアは安心したように胸を撫でおろす。身内を「苦手」と言われてもハレノヒが嫌な顔をしないのは、本人も苦手だと考えているからであろうか。

「で、今日はどうするの? この後どっか夕飯でも食べに行く?」

「そうだね~、せっかくだし三人でご飯食べに行こうよ。クーちゃんに会うの一週間ぶりだし、いろいろ話したいよ~」

「そのアンタにしがみついているやつとは会ってたの?」

クラウディアがアマガサを指差す。すると油断してスマホをいじっていたアマガサはビクッとした。

「うん。一昨日テンペストホールで会ったよ。ねー、アーちゃん」

「そ、そうだね……」

急に話題の中心にされたことにもビックリしたが、仕事の手を抜いていたことがクラウディアにバレていないかについてもビクビクしていた。

「フーン。まあ、アンタたちがテンペストホールで会うなんて偶然じゃないとないしねぇ」

「そうなんだよ~。二人とは一緒に仕事が出来なくて寂しいよ~」

ハレノヒは晴れを司っているだけあり、雨、雲を司る、アマガサとクラウディアとはよほどのことが無いと一緒に仕事をすることが無い。偶然同じテンペストホールで仕事をしていないと会うことはないのである。

「このダメ気象精霊と仕事しててもこっちが疲れるだけよ」

「ひ、酷い……」

アマガサがショックを受けたような顔になる。

「まあまあ、二人とも。今日はパーッと食べて、ワーッとはしゃごうよ!」

ハレノヒが笑顔でオーッと腕を上げる。そのまま駐車場の方向に歩いていく。

「ハーちゃん!? 疲れるって部分は否定してよ!」

アマガサはさらにショックを受けた顔になる。

「残念だったわね。ほら、行くわよ」

呆然としているアマガサをしり目にクラウディアがハレノヒについて行く。

「さー今日は食べるわよー!!」

クラウディアが笑顔でそう言った。

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