第2話

「さあさあ、仕事を始めるわよ!」

クラウディアとアマガサはテンペストホール内のとある部屋の中にいた。目の前には景色が映し出された水晶玉、テンペストボールが浮かんでいる。

「しょうがないな~」

アマガサは相変わらずやる気が無さそうにしていた。

「ほらアタシが雲を出すから、さっさと雨降らしてよね」

クラウディアがテンペストボールに手をかざすと、映し出されている景色に雲が現れ始めた。雲はテンペストボールに映し出された世界の広範囲に広がっていく。

「ほらっ。早く雨降らして。この世界はしばらく日照りで水不足だから暮らしている人たちが困ってるのよ」

クラウディアが目の前の世界の情報をアマガサに伝える。

「……ちょっと待ってクラウディアちゃん」

するとアマガサが怪訝そうな表情でクラウディアを見る。

「なんでわざわざ私が雨を降らせなきゃいけないの……?」

「あんた、今のアタシの話聞いてた!?」

クラウディアがツッコむ。

「いや別に日照りが続いててもよくない? 何か問題ある?」

「あるわッ! 大アリよ!」

クラウディアはアマガサに詰め寄る。

「ここの世界の人たちが困ってるって言ってんでしょうが! 早く雨を降らせてあげないと死んじゃうわよ!」

「ちょっと待ってクラウディアちゃん! ここの世界ってニンゲンが暮らしてるんだよね?」

「え? そ、そうだけど……」

普段は弱気なアマガサであるが珍しくクラウディアに食い下がった。するとクラウディアが驚いて一歩下がる。

「ここのニンゲンの文明レベルは!?」

「えっ!? ……ええと、確かいろんな民族が狩りをしたりして暮らしてるような感じだけど……」

「じゃあだめだ。やっぱりここの世界には滅んでもらおう」

「だからなんでよッ!」

キッパリ言い切ったアマガサに、やっと調子を取り戻してきたクラウディアがツッコむ。

「ゲームも作れないような文化レベルのニンゲンなんて、救う価値なしッ!!」

腰に手を当ててアマガサがそう言い切った。

「なんて無茶苦茶な!」

もはやクラウディアは怒りを通り越してあきれ果てていた。もともとアマガサに対してはダメ気象精霊の烙印を押していたクラウディアであるが、ここまでダメだとは思っていなかった。

「そんなのアンタの私事でしょうが! 私たちは仕事でやってるのよ!」

「そんなの誰が決めてるの!」

「『上司』が決めてんのよ! どこの世界のどの場所をどの天気にするかをねッ! アンタも気象精霊なんだから知ってるでしょ!」

それは気象精霊にとって当たり前の事であった。天気を操作する気象精霊は自分の意思で天気を操ることはご法度である。きちんと『上司』のような存在がおり、その人物から命令を受けて天候操作を行っているのだ。

「そんなの知らない知らないッ! ゲームも作れない生物なんて滅べばいいんだ!」

「ええい、めんどくさいわね!」

いい加減、堪忍袋の緒が切れたクラウディアはアマガサの腕を掴み、無理やりテンペストボールの方に手を向けさせる。

「離してクラウディアちゃん! 暴力反対!」

「アンタが黙って仕事すればこんなことしないわよ!」

「私は生産性の無いことはしたくないの!」

「やかましい! そもそも私たちが天候操作以外で他の世界に干渉することは────って!」

「きゃあ!」

二人でもみ合いになったからか、バランスを崩して折り重なるように倒れてしまう。

「いたた……」

「……クラウディアちゃん、ちょっと大胆……」

「へっ……?」

よく見るとクラウディアの手が倒れた拍子にアマガサの胸を鷲掴みになる形となってしまっていた。そのことに気づいたクラウディアが慌てて手を離す。

「ご、ごめんっ! 別にワザとじゃ……。ってか、アンタが抵抗したせいでしょうがッ!」

「そんな、クラウディアちゃん……。抵抗だなんて……。……エッチ」

アマガサがわざとらしく胸元を隠す。落ち着いてきたクラウディアは呆れた口調で返す。

「そもそも私たちは女同士でしょーが。少しくらい触れ合ったくらいでごちゃごちゃ言わないでよね」

落ち着いてはいるが、クラウディアも内心では少しドキドキしてしまっていた。

「セクハラされたので、今日は帰りまーす」

「待ちなさい! 逃がすわけないでしょうが!」

帰ろうとしているアマガサをクラウディアが捕まえる。

「ちゃんと仕事するまでここで見張ってるからね! なんなら帰り、家まで送ってあげないから!」

「ええ……。それは酷いよクラウディアちゃん……。こんなとこまで連れ出しておいて」

「だから仕事なんだからしょうがないって言ってるでしょ! ちゃんとやれば家まで送るから!」

「しょうがないなぁ、クラウディアちゃんは」

「はっ倒すわよアンタ」

睨みつけてくるクラウディアを横目に、アマガサはしぶしぶテンペストボールの方に向き直った。

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