第1話
「アマガサ! アンタまたサボってるでしょ!」
バンッ! と勢いよく部屋の扉が開かれた。
「な、なんのことやら……?」
ベッドに寝転がっていたアマガサはそう言うと、手に持っていたゲーム機を腹の下に隠した。
「隠したって無駄よ!」
そう言うとクラウディアはアマガサのゲーム機を強引に奪い取った。
「ああ…… まだセーブしてないから電源は切らないで……」
「やかましいわ! ほら、さっさと仕事場に行くわよ」
アマガサと呼ばれた少女。外見は高校生ぐらいの顔だちで整った美少女である。が、残念なことに瞳は死んだ魚のように濁っており、さらに眼の下に隈が出来ており、顔全体に覇気が無い。また黒髪の腰まで伸びた髪はボサボサというありさまであり、美少女というプラスポイントを打ち消している。
もう一人の少女はクラウディアという。アマガサと同年代である。外見は灰色がかった髪ツインテールにし、雲の形のヘアピンをしている。顔つきは目つきが鋭く、機嫌が悪そうな少しキツイ印象を受けるが、こちらもアマガサ同様かなりの美少女である。
「私が雲を出したのに、肝心のあんたが雨降らさなきゃ意味無いでしょーが」
クラウディアはいまだにベッドに寝転がり、起き上がるのを渋っているアマガサの首根っこを掴む。
「ら、乱暴はやめて~……」
そのままずるずるとアマガサを引きずって歩き出す。
「く、クラウディアちゃん! 痛い痛い!」
アマガサがバタバタと暴れだす。
「自分で歩くから! ちゃんと歩くから! 引っ張らないで~!」
「まったくもう……」
クラウディアが手を離すとアマガサが地面に落ちた。「痛い……」と呟きながらアマガサが首筋をさすりながら起き上がる。
「わざわざテンペストホールからあんたの家まで迎えに来てあげたんだからねっ! 感謝しなさいよ!」
「感謝してるよ~。感謝感謝……」
アマガサは不満げな口調で答えた。するとクラウディアがギロリと睨む。アマガサは慌てて付け加えた。
「い、いや本当に感謝してるってぇ……。あのままだったら、たぶん今日テンペストホールに行かなかったし……」
「ちゃんと来なさいよねまったく……。 ほら、さっさと行くわよ」
クラウディアが再び歩き始める。その後ろにアマガサが慌てて追いかけていく。
◇
「は~相変わらず凄い広いトコだねぇ、ここは」
自宅から出たアマガサは周りを見渡しながら呟く。
「あんた、何年ここで暮らしてると思ってんのよ」
ここはウェザーリゾートと呼ばれている世界。あらゆる異世界の天候を管理、調整している世界である。
そのウェザーリゾートには天候を司る気象精霊と呼ばれる者たちが生活しており、異世界の天気をそれぞれが担当する天候に変える仕事を行っている。アマガサたちもその気象精霊の一人である。
異世界によっては生物が生息しない世界もあれば、「ニンゲン」と呼ばれる生物が生息している世界もある。異世界の数が尋常ではないほど多いため、一人の気象精霊が複数の世界を担当することはよくあることである。
アマガサは雨を司る気象精霊、クラウディアは雲を司る気象精霊であり、二人は基本的にペアで仕事をすることが多かった。
「ほら、さっさと車に乗りなさいな。私がテンペストホールまで運転してあげるから」
〈テンペストホール〉
クラウディアが言ったその場所は彼女たち気象精霊の仕事場であり、天候操作を行う場所である。外見はオシャレなビルのような形をしており、ウェザーリゾートの世界にあちこちに建てられている。
「乗ったわね。それじゃあ超特急で行くわよ!」
「あ、安全運転でお願いしますぅ……」
◇
「よしっ。着いたわよ」
「うぷっ……。酔った……」
ものの十数分でアマガサたちはテンペストボールに着いた。だが、アマガサはグロッキー状態になっており、クラウディアの運転がいかに酷かったかが窺える。
「クラウディアちゃん……。もうちょっと運転の練習した方がいいよ……」
「や、やかましいわね! 今日はちょっと調子が悪かっただけよ!」
「いつも送ってくれる時と変わらないと思うんだけど……」
アマガサ的にはかなりオブラートに包んで注意をしたつもりであったが、クラウディアは敏感に反応した。
「さあほら、さっさと仕事に移るわよ。今日はたくさん雨降らせなきゃいけないんだから!」
「えぇ……。つかれそうだなぁ……。嫌だなぁ……」
ズンズンとテンペストホールに歩いていくクラウディアに続いて、アマガサは肩をがっくりと落としている。
今日も気象精霊の仕事が始まる。
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