第37話 そこにローズが話し掛ける
そこにローズが話し掛ける。
「光坂君は、緊張から解放されて、腰が抜けてしまったノヨ。さあ、外に出てみましょう。今まで見たことも無いような壮大な流星群を、見ることができるわよ」
そう言って、へたり込んでいる達也の腕を引っ張って立ち上がらせる。
そして、外へと続く重く厚い扉を開(ひら)くのだ。
そして、空を見上げる三人は、青空の下、数千、数万の流れ星が降り注ぐ光景を目の当たりにした。
「きれいね」
「愛、本当にやったんだな。こんな光景が見られるということは……」
「当たり前でしょ。これはバラバラになった隕石が大気圏で燃え尽きる寸前の光景よ」
「ああっ、本当にきれいだ……。キラキラと太陽光を乱反射して、FGCで写真に撮りたいな。もっと綺麗に映るだろうな」
「でも、達也、あなたのタブレット、クリスタルUSBキーの核爆発と一緒に、粉々に吹き飛んでいるわよ」
「そうだった。せっかく、芸術的写真を撮りたいと思ったのに」
「あんた、カメラマンのくせに、風景に感動したことが無かったんだ」
「あれ、言われてみればそうだな。初めて、風景を撮りたいって気持ちになったな」
そこで、その景色に感動していたローズが達也に向かって言った。
「光坂君、この流星群の中には、燃え尽きないで地上に達するクリスタルもあるハズヨ。だから、光彩市全域に避難命令を出していたんですが、その後、地上に落ちて来たクリスタルはこちらで回収する予定になってイマス。
そのクリスタルは、今度の功績により、光坂君にすべて進呈することになるはずデス」
「それ、本当ですか?」
「ええ」
「達也、よかったじゃない」
「やった、これで愛のエロい写真が撮れるぞ。愛、約束だからな!」
「ダメよ。あの時の会話をよく思い出してよ。その代りに……してって言ったのに、して貰ってない」
「えっ、そうか。じゃあ今ここで」
達也は、右横に立っていた愛を抱きしめようとするが、そこで、愛に溝打ちに正拳をぶちもまれたのだ。溝打ちを押さえながら、困惑する達也。
「ゴホン、ゴホン。ちょっと、なんで正拳突き?」
「あっ、なんか条件反射で。私はダメよ。ローズ先生にお願いしたら」
今度は、左横に立っているローズの方を見る達也。しかし、ローズは手を横に振りながら、
「ダメですよ、ダメ。私にFGCを使ってはイケマセン!」
「だって、先生、いつでも、実験台にしてって言ってましたよね」
「あれは、任務のためですから、そのためなら、ひと肌もふた肌も脱ぎますけど、もう、あなた達の監視という任務は解任されました」
「そ・ん・な~」
達也の嘆きが、吹き飛んだ台地に、こだまする。
***************
その日の夕方、テレビは隕石の地球への衝突を回避したニュースで持ちきりだった。
達也たちが見た軍事衛星が捉えた隕石爆破の瞬間や、粉々になった隕石が大気圏に降り注ぐ流星群が、なんどもテレビで流れていた。
そして、パニックにならないようにするために、政府は沈黙を守り、その間に、隕石を破壊するための作戦が水面化で行われていたことも報道された。
そして、隕石は、核爆弾で爆破したため、その破片が地上に落ちていることを発見した場合、放射能の危険があり、速やかに、政府に申し出るように、報道もされている。
当然、有識者と言われる批判家が、情報公開について、色々言っているが、「何の決断も行動もできそうにないやつが、うだうだ言うな」と達也は少し怒りを感じながら、ニュースを見ていたのだ。
(俺だって、自暴自棄になって犯罪に走るところだったんだから)
そんなことを考えている達也に、同じようにテレビを見ていた母親が、声を掛けるのだ。
「地球に隕石が衝突だって、ホントに映画みたいなことが起こるなんて、オッタマゲよね」
「かーちゃん。おったまげっていつの時代の人間なんだよ」
「あら、私の青春時代は、バブル真っただ中だったのよ。それにしても、私、男の人と映画で見たことがあるのよ。今の父ちゃんと違ってイケメンだったのよ」
「ふーん。映画って、昔からこういうこと予想されていたんだ。こういうジャイアントインパクト?」
「そうそう、見た映画の題名、なんちゃらインパクトだったような? でも、実際に起こる確率は低いって」
「でも、愛の計算じゃ、かなりの確率があるようだよ。ポールシフトの方が起こる確率のほうが低いって」
「だったら、達也が告白される確率よりは、ずーっと高いってことね。今回起こったこと、納得だわ」
「かーちゃん。その話、どこで聞いたんだよ!」
すでに、光坂家では、通常運転が始まっているようだ。
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