第36話 そこで、パンパンと手を叩く音が聞こえた
そこで、パンパンと手を叩く音が聞こえた。せっかくのロマンチックな雰囲気も台無しだ。
「はいはい、そこの二人。そんなことは仕事が終わった後にやってクダサイ。それとも、自信がないのデスカ」
「まったく、ローズ先生たら、せっかくの雰囲気を台無しにしてくれるわね」
「橘さん、何を言っているのですか? 私だって、地球最後の日、本当は、恋人と一緒にベッドの上で過ごしたかったデス。でも、あなた達を信じてここにいるのデス」
「ローズ先生って、恋人いるんですか?」
「……うーん……、良く考えるといませんね。これから出会う予定ですから、光坂君、橘さん、絶対に成功させてください」
「「はい!!」」
「いや、ここはジャークでわらうところだから」
二人の憐みの混じった真剣な目にローズは思わずこけそうになって言い訳をした。そこにスッタフが声を掛けてきたのだ。
「作戦、決行まで、あと三〇分、そろそろ、スタンバイをお願いします」
この場に残っているスタッフは数人しかいない。
「愛、ここはスタンバイ、オールグリーンって返せばいいのか?」
「達也、あんた、アニメの見過ぎよ」
「アニメも、この一か月まったく見てないな。くそ、これが終わったら、撮り貯めしたビデオをゆっくり見るぞ」
「あんた、色々と未練が出てきているみたいなんだけど」
「そこは突っ込むな。さっきはなんか、人生やり切った感があったんだ」
達也はそう言うと、クレーンに乗り、パラボナアンテナのコンバーターの部分にクリスタルUSBキーを差したタブレットを装着する。
そして、装着が終われば、今度は、スタッフ全員が核シェルターに避難した。
なぜ、避難が必要か? それは、この場所で核分裂による核爆発が起こるのだ。ただし、核爆発を起こすのは、クリスタルUSBキーのクリスタルが核分裂を起こしておきるため、放射性物質のように、その後放射能が発生することは無い。
それに、ほんの十数グラムのクリスタルのため、爆発も小規模である。それでも、危険回避のため、核シェルターに避難しているのだ。
それでは、達也たちは、何をしようとしているのか?
それは、光子グラビティの発生原理を利用しようとしているのだ。光子グラビティは、クリスタルの性質を利用したものだ。達也が持っているクリスタルUSBキーは、精密に計算して、結晶の核に直射光を屈折により集めるようにカットしている。
これは、クリスタルが他の鉱物のように、外部に焦点を持つのではなく、内部に焦点を持つことができる性質を利用するものだ。そして、核に集められてた光子は、単結晶のクリスタル内部で無限反射が起こり、内部に閉じ込められ、外に出ることができずに、光子同士激しく衝突をする。
その衝突により、光子が激しく振動して、その超振動によって核の内部を、とりわけ電子を破壊する。そのとき、電子を無くした陽子が飛び出し、陽子同士衝突することで、核分裂を起こした結果、クリスタルUSBの周りに重力波である光子グラビティが発生する。
達也は、発生した光子グラビティを電波に変換してPCなどのスピカーから方向性を持たせコントロールするプログラムを開発したのだ。
そして、今回はクリスタルの隕石のもっとも大きい単結晶の核に大量の光子をぶち込み、核分裂を誘導し、さらにまわりの単結晶に連鎖的に核分裂を引き起こさせ、クリスタル自身を核爆弾に変身させようとしているのだ。
「じゃあいいか。いよいよだぞ」
達也は秒読みを開始する。
「隕石迎撃ポイントまで後、三〇〇キロ、秒読みを開始します。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、発射!」
「フォトンフラッシュ!!」
愛が叫ぶとともにスイッチを入れる。パラボラ状になった光子ブラックホールから、八日間ために貯めた光子が迸(ほとばし)る。
そして、それを受けるのがFGCで創った焦点距離二〇〇キロ、直径二〇〇メートルの巨大なレンズのような空間。そして、その空間の中心にはコンバーターに乗っている達也のタブレットがある。
この、タブレットのFGCの有効範囲は、直径一〇メートルと達也は言っていたが、それは、自然光を調節した場合であり、クリスタルが強力な光子を受ければ、暴走してその有効範囲は半径一〇〇メートルを超えるのだ。
しかし、クリスタルの核分裂が暴走しているため、その耐久時間はわずか一秒足らず。
すぐさま、核爆発を起こして、いままで、作り上げたパラボラアンテナは完全に跡形もなく吹き飛んでしまった。
そして、FGCが創った空間を通った光子は、FGCに誘導され、集束しながら秒速三〇万キロで宇宙空間を突き進む。
そして、一万分の三秒後、まさに、刹那の瞬間に、隕石に到達している。
ここからは、まったく未知の世界である。不純物の混じる隕石のクリスタルの内部を光子が減少することなく進み、中心の単結晶に達し、中心核から出ることなく無限反射を繰り返す。只の光子の直射光で直進ならばFGCで透過を指定すれば、物体をすり抜けて、どこまでも、一直線に突き進むことが理論上では確かめられている。しかし、地球上で二〇〇キロ進むかどうかを確かめる術(すべ)などない。それに愛が計算した単結晶の中心部の位置と距離が正しくなければ、光子はクリスタルの中心核を外し通り過ぎてしまう。
「どうか、隕石のクリスタルの単結晶の核に光子が衝突しますように……」
愛が祈る中、息を飲む達也たち。そして、レーダーを凝視するスタッフたち。
そのスタッフが大声をあげた。
「隕石、消滅しました!!」
そして、無線にNASAからも連絡が入る。
「軍事衛星の光学望遠鏡でも、隕石の消滅を確認しました。今、からその映像を送ります」
映し出された映像を凝視する達也、愛そしてローズ。
その映像には、光子が届いた瞬間、直径二〇キロの隕石が大爆発を起こし、水平線を走る爆風と光が映し出されていた。
「「「「やった!!やったぞ!!」」」
スタッフが飛びあがり、周りの誰かれかまわず握手を始める。そして、愛も達也に抱きついて涙を流している。
「達也。やった、やったね」
感極まる愛とは、違って、達也は、放心状態で立ち尽くしている。まるで、他人ごとのようだ。
「達也。どうしたのよ?」
「ああっ、愛、やっちゃたよ」
達也はそう言うと、その場で床にへたり込んでしまった。
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