第35話 達也はローズと愛に向かって

 達也はローズと愛に向かって、光子グラビティの発生原理と、宇宙まで飛ばす手段を紙に書いて説明をする。

「達也、それじゃあ核を破壊できるだけの光子が足らないよ。」

「そこで、愛の出番だ。光子ブラックホールのフォトンフラッシュを使うんだ。最低でも一週間は、光子を溜めて吐き出せば、なんとかならないか?」

 達也は、紙に考えを追加して書き加える。

「どうだ、これなら、行けるんじゃないか?」

「そうね。実際はやってみないとわからないけど、クリスタルの核が破壊されるだけのパワーが出るかもしれない」

「FGCってホントにスゴイノネ」

 ローズが感心して頷く。そして、達也は愛に向かって檄を飛ばす。

「愛、光子ブラックホールの準備、何とかなるか?」

「たぶん、大丈夫、光の速さは、秒速三〇万キロ、隕石は秒速一五キロ、成層圏二〇〇キロの場所で撃ち落とすにしても、地球衝突まで一五秒あれば撃ち落せる。

それに、光子ブラックホールは、布じゃなく染料なの。うちの工場の生産を止めても、いまある在庫の布全部、染め上げて、絶対に完成させて見せるわ」

「よろしく頼む」

「ほんとうに、光坂君、橘さん、お願いね」

「ローズ先生、もろもろの交渉はそちらにまかせてもいいかな?」

「ええっ、場所の手配に、愛さんの工場の手配。政府を動かしてなんとかしてミル。あなたたち高校生ではどうにもならないデショウカラ」


 そして、その日から愛の両親の勤めるアパレルメーカーの生産が完全にストップして、在庫にあった布は、すべて、つなぎあわされ、直径五〇〇メートルほどの円形にされる。

 そして、その布は、得体の知れない真っ黒な染料で染め上げられ、漆黒の布、いや、すでにその存在さえ確認できない影のような物が出来上がった。

 ローズの交渉は上手くいき、これらの費用は、すべて政府からでているのだ。


 さらに、その布を張る場所は、これまた天翔学園のすぐ近くにある、メガソーラ発電所の建設予定地である広大な土地が用意された。

 そこに、直径四〇〇メートルの円形状に、電信柱のような杭を打ち、その杭に光子ブラックホールの性質を持つ布を張り、パラボラアンテナのように、半球上に整形していく。

 そして、そのパラボナアンテナの中心、いわゆるコンバーター部分に、小さな台が設置されている。

 やはり、これらの費用もすべて政府から出ているのだ。

 

 ここまでに要した日数は二〇日。すでにたくさんのアマチュア天文観測者から、地球に向かう隕石の発見も報告されていたが、各国はずっと沈黙を守ったままであった。

 自暴自棄になった国民が、暴動や略奪を始めたら、もはやどうにもならない。政府自身が、隕石の衝突の前に、国家消滅の危機にあることを知っていたからだ。

 否定も肯定も出来ない重苦しい時間が過ぎて行く。

 各国政府の期待は、現在、落下地点で進められている極秘プロジェクトの成功だけなのだ。


そして、予定より若干早めに完成したパラボラは、光子ブラックホールに蓄積できる光子が、一日分増えた。これは嬉しい誤算であった。


 それまでの間、達也と愛は、NASAから隕石の軌道データを貰い、必死で軌道計算を行う。もし、外したら、そして、外さないまでも、隕石の中心でなければ、この計画は失敗に終わる。

 地上から二〇〇キロ、そこに、焦点距離を合わせるレンズの厚み、そして、タイミングすべてが合わなければ、ここまでの努力が水の泡である。

 軌道修正に合わせて、なんども、シュミレーションする。それは、NASAにも依頼し、また、愛には日本一のスーパーコンピューターにアクセスする権限を与えられ、何度も演算を繰り返すのだ。

 

 そして、いよいよ、衝突当日、空は真っ青な快晴である。そして、この快晴は、八日間も続いていた。

「達也、いよいよね」

「ああっ、光子ブラックホールを設置してからずっと快晴。まさに、天はわれに味方したというところかな」

「うん。私は初めて神様に祈ったよ。それで、神様の存在を信じた」

「俺は幼い時から神の存在を疑ったことなんかないぞ。ここに俺の女神が降臨しているんだから」

 いつになく真剣な眼差しの達也に愛は思わず話題を変えた。

「しかし、政府も凄いわね。隕石衝突を隠し通しながら、光彩市で不発爆弾が見つかったって、光彩市全域に避難命令を出して立ち入り禁止にするなんて」

「まあ、隕石を破壊しても、この辺一体に破片が降り注ぐことは避けられないからな。でも、俺たちが失敗したら、どのみちどこに逃げても助からないんだけどな」

「それで、達也、本当に大丈夫なの?」

「さあ、隕石を破壊できるほどの核爆発が起こるかどうかは俺にもわからない。ただ、自分の最後の瞬間まで足掻いていないと、自暴自棄になって、透明人間になったり、全裸写真を撮りまくったりして、最低な人間に成るだろ。俺の性格からして……。おかげで、そんなこと、まったく考える暇がなかったよ」

「じゃあ、未練はないんだ?」

 なぜか、愛は瞳を潤ませ、達也をまっすぐに見つめている。

「いや、未練たらたらだよ。愛のエロい写真が撮れなかった」

 愛の背中に走る悪寒が心地よい。

「相変わらずバカね。このごに及んで考えること? じゃあ、達也がやる気が出るように……。もし、私たちが生きていたら、私のエロい写真撮らせてあげるわよ」

「愛、本当か?」

「ええっ、いいわ。その代り、今、私にキスして」

「愛、いいのか?」

「うん。なんか私も、今まではトップギアーで足掻いてみた。そして、この後におよんだら私も達也以外のことはどうでもいいみたい」


 達也は、愛の肩を持って引き寄せた。

 愛は、静かに瞳を閉じる。


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