第33話 しかし、隊長の表情は思わしくない

 しかし、隊長の表情は思わしくない。

「我々は新たに大きな問題に直面した。いまさら、奴らのFGCを手に入れたところでどうにもナラン」

「しかし、我らの仲間が、一人犠牲になっています」

「確かに、マフィアに潜入させた奴は、S.EXが止めを刺した。しかし、あいつは潜入先で、私腹を肥やしてもいたんだ。あれは失敗に対する制裁とともに、我が組織の裏切りに対する制裁でもあったんだ」

「しかし、我々の任務を途中で投げ出すなんて?」

「さらに、緊急性がある問題が発生した……」

「ボス、新たな問題トハ?」

「昨日連絡があったんだが、この作戦があったから黙ってイタ。もっとも、われわれではどうにもナラン。しかし、我々は最後まで最善を尽くさねばナラン……。しかし、新たな敵も、FGCと同じステルスだったとは……」

「ステルス? ボス、新たな敵とは何なんデスカ?」

「それはな――」

 そうして、ボスと呼ばれた男は、ローズたちに向かって静かに新たな指令を出すのだ。 



 一方、アメリカ大使館を出た達也と愛は、慎重に姿を消したままバスと電車を乗り継ぎ、光彩市に帰ろうとしている。

 新幹線に乗り、一息ついた達也と愛は、人がめったに来ないグリーン車の通路に立ち、ラインでやり取りをする。

「バスも電車も透明人間になれば、乗り放題だぞ」

「でも、他の話にでてくる透明人間のように素っ裸にならなくていいから、いいよね。あれ、見えてなくても、絶対に恥ずかしいもの」

「そういえば、愛の下着は、光子ブラックホールの部分だけは、透過しなくて真っ黒なはずだよな」

「えっとね、私には、いつか透明人間に成らないといけないっていう予感が在ったの。これって、FGCの切り札だからね。そして、軍事技術にも応用できる。なるべく、他の人にも見せたくなかった。それでも使う機会は必ず出てくる、今日みたいにね。それで光子ブラックホールの部分は、布地が少なくしてすぐに取り外せるようにしていたのよ」

「なるほど、そういう訳だったんだ」

「でも、改札の赤外線センサーもうまく通り抜けられるなんてすごいよね?」

「愛、すべての光を透過させるんだから、赤外線センサーだって引っ掛からないさ」

「そうか。なるほどね」

「それにしても、ローズ先生の野郎、やっぱり、アメリカの組織と繋がってやがった」

「その件については、私もやっと合点がいったのよ」

「合点がいった? なんのことだ」

「要するにSEXという組織がなんの組織か」

「本当にか?」

「ええっ、SEXじゃなくS.EXなのよね」

「はあっ?」

「あのね、こういうことなのよ」


 愛は、達也に、アメリカ政府のサーバーにも繰り込んで得た情報を話すのだった。

 そして、光彩市に帰って来たところで、FGCを解除する。

 家まで帰って来た愛は、達也に向かって釘を刺すのだ。

「達也、FGCを使って透明人間になるのは、今日みたいに命が掛かった時だけだからね!」

「愛、わかっているって」


 そう返事をして、家の中に入っていく達也。実は頭の中はエロい妄想でいっぱいだった。

 殆どすべての男が望む能力、透明人間になれたら……、あれやこれや考えていたはずだが、いざ、透明人間に成れるとなれば、妄想の中だけで満足し、実行するとなればやはり躊躇する小心者だった。


 ***************


 翌日、達也と愛は学校に出ていく。

 そして、そこで、二人は朝のホームルームの時、に担任からローズの退職を知ったのだった。

「急なんですが、ELTのローズ先生は、都合のためアメリカに帰ることになりました。それで、色々準備が在って今日は学校に来ていないのですが、光坂君と橘さんとは、光学研究会の顧問として、最後、挨拶がしたいとのことで、放課後、光学研究会の部室に来るようにとのことです。その時だけ、学校に来るそうですから。分かりましたか?」

「「はい」」

 さらに、担任は、演劇部の銀賞受賞の話をして、恋や達也、そして愛の活躍に対して、賞賛を送り、ねぎらうのであった。


 達也と愛はホームルームが終わった後、こそこそと話を始める。

「愛、どういうことだ? もう、俺たちを監視することを止めたのか?」

「さあ、どうだか? でも、ローズ先生、作戦の失敗の責任を取って、組織に消されちゃうのかも」

「それは、かわいそうじゃないか」

「アメリカの組織ってその辺のところ、非情じゃないかしら」

「俺たち、別に悪いこととをしている訳じゃないのに、そのことで人が死ぬなんて、気がめいるな」


 達也は愛にそう言うと、黙り込んでしまった。

 それは、愛にとっても同じことだ。仕方無いとはいえ、何ともやりきれない気持ちになる。

 そうして、放課後を待ちながら、授業時間を過ごすのであった。


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