第32話 愛は何やらモバイルを操作して確認を始めた

 門を入るとき、愛は何やらモバイルを操作して確認を始めた。


「ローズ先生、道、間違ってません? ここ、アメリカ大使館です」

「そうだよ。ローズ先生、こんなところに迷い込んだら、問答無用で撃ち殺されちゃうよ。ここ、日本に在って日本じゃないんだから。」

「おかしいですね? カーナビ通りにきたのに?」


 車はそのまま駐車場に入っていくと、後ろを車両で、ふさがれてしまった。

 車の前には、全身黒ずくめの屈強な五人の男たちが、拳銃を構えている。


「愛、光子ブラックホールのフォトンフラッシュで、隙を作れ」

「達也、なに言っているのよ。私は、今日、光子ブラックホールの面積の少ない下着を履いているのよ。しかも、裏地だからほとんど光を吸収していないよ」

「大丈夫だ。パンツを膝まで下げて裏向けてから、やればいいんだよ。もう、その場面を想像するだけで興奮ものだな」

 愛は問答無用で、達也の頭を引っ叩いた。

 この緊張感のかけらもないどつくき漫才に、ローズも顔を引きつらせている。

「あなたたち二人でなにバカな話をしているノヨ。相手は銃を持っているノヨ」


 その間に5人の男たちは、車を取り囲み、ドアの横に立って、支持を出してくる。

「タブレットを置いて、手を挙げて、車から降りてコイ!」

 達也はタブレットを置くと、両手を上げる。ローズは車のロックを外すと、外から車のドアに手を掛けられた。

その時だ。愛がすぐさま、モバイルのFGCを起動させる。送信先はすでにSEXのメンバーと思われる連中に指定済みだ。


一瞬で、五人の男たちの周りに、四次元ホールが出現する。

男たちの動きが止まったようだ。おそらく視界は歪み、目を開けているだけで吐き気をもよおす状態だろう。


 達也と愛は、ドアを強引に開けて、外に立っていた男たちを吹っ飛ばす。

「達也、逃げるわよ」

「愛、やっぱり、お前に持たせておいて正解だったな。俺のタブレットに注意が引きつけられた」

「安心しないでよ。まだ、わからないわよ。敵の真っただ中なんだから」

 愛の言う通り、大使館から警備員が飛び出してきた。この普段からいる警備員たちは、SEXのメンバーではないのだろう。四次元ホールが出現していない。

 さらに、ローズも叫んでいる。

「スマホよ。スマホを壊すの。この光子グラビティはスマホから出でてイルノヨ」

 さすがに、アメリカの機密組織と思われるSEXだ。愛が仕込んだマルウエアの存在に気づいたのだ。


「愛、どうする? カラクリがばれているみたいだ」

「こうなったら、透明人間になるのよ!」

「だから、透明人間にはなれないんだって」

「違うの! 発想を変えるのよ。反射光をコントロールするんじゃなくて、直射光を透過するのよ! クリスタルキーを刺しこんで」


 愛は、黒服の男たちがスマホを叩き壊して光子グラビティの存在が無くなったのを、確認すると、クリスタルUSBキーを達也に渡す。

「透過? なるほど、そう言う事か!」

 達也のFGCを起動させたタブレットには、今の状況がモニターのように客観的に映し出されている。達也と愛にカーソルを合わせ、透過100%に設定して、エンターキーを叩く。

 その瞬間、二人の姿が消えた。


 そう、達也は、写真の原理に精通しすぎていた。そのため、カメラのレンズから自分を消すために、反射光をコントロールすることばかり考えていたのだ。しかし、人間が消える原理は、もっと簡単である。レントゲンを考えればいいのだ。その人間に当たる光を全て反射させずに透過させれば、人間は目やレンズの前から消えることができる。

 

 スマホを叩きつぶした男たちや大使館の警備員たちの目の前で、達也と愛が消えた。

「慌てるな! 奴らは、この中からは出られん。それに、見えないだけで、消えてなくなったわけじゃない。捜索範囲を狭(せば)めていくんだ」

 男たちのリーダーと思われる男が叫んでいる。


 しかし、愛はこの要塞からの脱出方法について、すでに考えていたのだ。

(入ったら、出ることを考えるのは当たり前でしょ。さっき調べたら、ここのゲートもやっぱりコンピューター制御だったのよね。しかも、Wi―Fiを使っているなんてこっちのものよ)

 愛は、モバイルからゲートのコンピューターにアクセスすると、ゲートを簡単に開けるのだった。


「おい、ゲートがかってに開いたゾ!」

「奴らが開けたんダ!」

「「オッカケロ!」」

 ばたばたとゲートに向かって走り出すのだ。


「ま、待て! お前ら、ここから出て行った透明人間をどうやって探すというンダ!」

 リーダーらしき男の一喝に、ゲートを飛び出そうとしていた男たちの足が止まる。

「しかし……。ボス」

「もう、あいつ等とのお遊びはここまでダ。作戦は失敗シタノダ……。最後のチャンスだったノダガ……」

「なぜです。奴らが消えたのを見たデショ。FGCはレーダーからじゃなく、目視でも完全に消えることがデキルンデス。我が祖国が手に入れれば他の国に抜きんでて、大きなアドバンテージが得られるのに……」

 アメリカは、アメリカで行われたFGCのデモンストレーションを解析することで、光子グラビティが発生させる周波数によって一定の音波に干渉して、レーダーから消えることが分かったのだ。このことは達也だけではなく愛も知らなかった。

 目にもレーダーにも映らない完全なステルスが完成するのだ。この事実が国家を上げてここまで動かしていたのだ。


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