第23話 アナタたち、この刑事さんが話を聞きたいって

「アナタたち、この刑事さんが話を聞きたいって」

「本庁、捜査第一課の佐藤です。大体の話は、ローズさんから聞いたのですが、お二人にも訊きたいことが」

「はい、なんですか。私たちでわかることであれば?」

 まず、答えたのは愛である。達也は基本、駆け引きができない見た目の通り浅はか思慮無しのため、こういう場面では常に愛が受け答えをする。


「まあ、この三人が、なぜ、あそこから落ちたかなんだが。ローズさんも強力な光に目をやられて何も見ていなかったらしい。

 なんでも、君のスカートの中から強烈な光がでたらしいが……」

「そうですね。スカートの中にストロボを仕込んでおくのは、乙女のたしなみでしょう」

「なんか、他にもジャックナイフとか出て来たようだけど?」

「乙女は家から一歩出ると、七人の痴漢がいると教育されてきました、すべて護身用ですけど、なにか?」

「まあ、君のスカートの中身については詮索しまい。興味のあるところではあるが」

「そうですね。それが無難でしょう。タランチュラやサソリの毒は、日本ではなかなか解毒剤が手に入らないと聞いていますから」

「そんなものまで、スカートの中に居るのか?」

「もちろん冗談です。そろそろ本題に入ってもらえませんか?」

「そうだった。君たちは三人が落ちたところを見たのか?」

「えっと、あれは確か、「動くと撃つぞ」とか言いながら、いえ、実際に撃ってきたんですけど、フラッシュで目を押さえながら、フラフラと壁の方に歩いていって落っこちた?」

「そこは、なんで疑問形なんだ」

「だって、私たちもなぜそっちにいくのか分からなかったんです」

「君たちを追っかけていた?」

「そうだと思うんですけど、私たちの方にこないで、向こうに……。あっ、刑事さんわかりました。あの廃ビル、音が凄く反響していたんですよ。それで、私たちの足音を頼りに進んだ先が、床の無い空間だったと」

 ポンと手を叩き、納得したように刑事に説明する愛。

「しかし、あの連中、こういう拉致とか誘拐を専門にしている裏稼業屋だと思われる。目が見えないだけで、そんな軽率な行動を採るとは思えん。目が見えなかったのは数秒だったろうし?」

「刑事さんは、私たちが後ろから押したとでも?」

「そうじゃないんだ。君たちが無事だったのは奇跡に近い。あの証拠隠滅のために、仲間の口を封じた手口からも、そのことは断言できる。だからこそ、あそこから落ちるなんて不自然なんだ」

(あれって、やっぱり口封じだったんだ。だとしたら、FGCをスナイパーに見せたのは失敗だったかな)

愛はそう考えたが、考えたこととは別のことを尋ねた。もちろん落ちた理由をこれ以上追及されないようにするためだ。

「えーっ、私たちそんな、危険な人たちに狙われたんですか? でも、どうして私たちが狙われるんですか?」

「相手は、自分たちをマフィアだと名乗ったらしいんだが」

「確かに、達也とのやり取りの中で、そう言っていました。ねえ、達也」

「うん。確かにそう言った」

 話を振られて、ここで初めて達也が口を開いたのだ。

「そうだ。君も話を聞かせてくれ。君は、あの三人が落ちたところを見ていたのか?」

「すみません。ローズ先生の胸の谷間ばかり見ていました。あの状況では、少し前かがみになっていたもので。ダメだとわかっていても、目がそこにいっちゃって」

 そう言いながら、ローズ先生の腕を抱え、前かがみになっている状況を、身振り手振りで説明する。

「ああ、ごめん。君に聞くだけ無駄だった。そう言う人間だって知っていたのに」

「えへへっ……」

 決まりが悪そうに頭を掻く達也に対して、愛は違和感を感じた。だが、それがなぜだかわからない。

 愛が思考モードに入ろうとすると、それを遮るように佐藤刑事が言った。

「さて、事情を聴くのもここまでにしようか? また、後日聞くこともあるかも知れないけど、 今日はもう遅いから、君たちはパトカーで送らせるから」

「佐藤刑事、この子たちは、まだ高校生デス。私を通して出頭させるようにしてクダサイ」

「そうだな。君たちが重要参考人であることは間違いないけど……。なるべく、ローズさんの意向に沿うように考えるよ」

「ところで、刑事さん。それで、あの人たちの目的はなんだったんですか?」

 愛は本当はFGCが目的だと分かっているのに、わからないふりをして聞いてみるのだ。

 刑事が知らないことを、わざわざこちらから言って、墓穴を掘ることはない。この刑事だってローズの知り合いなら信用できない。かまを掛けるつもりで言ったのだ。

「さあ、それはこれから現場検証で調べることになると思う。今の段階では、何ともいえないな~」

 はぐらかすように、軽い口調で答えられて、むっとする愛であったが、ここで食い下がっても仕方ないのは分かっている。

「そうですか……」

 納得するように返事をする愛に向かって、叱責するように諭すローズ。

「橘さん。無理を言わないの。これから、警察も必死に捜査してくれるんだから」

「……はい……」

 ローズ、お前も知っているんだろうが、というツッコミは脇に置いて置くのである。


「それじゃ、送らせますので。おい、この人たちを家まで頼む」

「佐藤刑事、わかりました。では、みなさんはこちらに」

 そうやって促されて、パトカーに乗る。

「アナタたち、あす、放課後は、絶対に部室に来るヨウニネ」

「わかりました。俺たちも、ローズ先生に話そうと思ったことがあります」

「やっと。話す気になったのね。二人とも今日は、ゆっくりやすみなさい」


 三人は、そのまま無言で過ごしたが、なにしろ、市民会館から歩いて一五分程度、天翔学園からも近く、一番遠いローズ先生のマンションまででも四キロ程度。車を置きっぱなしにしているローズ先生は学校で降ろして貰って、その後、わずか五分ほどで達也と愛が住んでいる住宅街に着く。

わずかな時間では、多くの事は話せない。無言のまま三人は考えていた。

「「「どちらにしても、明日、FGCについて話してからだな」」」



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