第22話 そっか、これでも答えられない?
「そっか、これでも答えられない?」
愛はそう言うと、折れた手を無理やり捻じりあげようとする。
「ううっ」うめき声をあげる首謀者。
「橘サン!」
「ローズ先生、大丈夫、大丈夫。現場は荒らさないから。早く言いなさいよ。このゲス」
「ま、待て。止めてくれ」
「うるさい。こっちも命が掛かってるんだから。早く言いなさいよ!」
さらに、腕をねじり上げようとして、後ろからローズに羽交い絞めにされた愛。
「ちょっと、先生じゃましないで」
ローズの方に体を捻って、しゃがみ込み、羽交い絞めを外すと、愛はローズに言ったのだが、その瞬間、愛の顔の横を、シューという音が一迅の風とともに通り過ぎた。
「えっ」
愛が、その音を追って振り返ると、さっき愛がゲスと呼んだ首謀者の額には、弾痕の跡が残り、息絶えていたのだった。
「なに、どういうこと、まだ、仲間が居る? 先生、達也、隠れて」
三人は、瓦礫に隠れて身を伏せている。そして、弾道の痕跡を辿りながら、撃ってきた方向を見るが、さらに追撃の気配はない。
「達也、念のためお願い!」
「愛、さっきからやっている。でも、向こうから見たら、かなり不思議な情景だろうな」
「そうね。でも、これほど、正確なスナイパーなら、理由がわかれば、返って狙いやすいんじゃない」
「分からなければいいんだけど」
そうやって、三人が息をひそめること、一五分ぐらいが経ったのか。数台のパトカーがサイレンを鳴り響びかせながら、この廃ビルの前に止まった。
三人は、ほっとしたが、まだ、警戒を怠らない達也や愛と違って、ローズは立ち上がり、弾の撃ってきた方向に向かってすたすたと歩きだしていたのだ。
そして、何か、ブロックサインを出すように、頭、腰、肩を触っている。
「ローズ先生なにをしているんですか? まだ、危険ですよ」
「もう、大丈夫よ。警察も来たし」
ちょうど、達也から十数メートルぐらい離れていただろうか。達也に呼びかけられ、振り返ったローズは、そこに驚愕の風景を見た。
「あわわわわっ、なに、これどういうこと?」
その声に、ピンときた愛は、達也に声を掛ける。
「達也、解除! FGCの解除よ」
「あっ、そうか!」
あわてて、達也はタブレットを操作し、光子グラビティコントロールを解除する。そこに、警察官や刑事が、駆けてきたのだ。
「ローズさん。怪我は在りませんか?」
私服の刑事が、ローズに話しかけてきた。どうやら、この刑事が、ローズの知り合いらしい。
ローズと刑事が話している間、達也と愛は小声で話し合っていた。
「達也、刑事さんたちには、見られなかったようだけど、ローズ先生には見られただろうね」
「ああっ、あの驚いた表情、絶対に見ている」
「じゃあ、後で、ローズ先生には、説明するしかないよね?」
「だろうな。もともと、話はする予定だったし」
「それより、達也、あの死んだ人の肩の部分、FGCで、写真を撮ってくれないかしら」
「なんで、あんな野郎の裸なんか?」
「気になることがあるのよ。やりなさいよ」
「ああ、わかったよ」
達也が撮った写真が、タブレットのモニターに写しだされた。その肩には、愛が思った通り、S.EXの入れ墨があったのだ。
「やはり……」
それを見た愛は、この死んだ人たちとローズ先生は繋がっているという、なんだかわからないが漠然とした予感が確信に変わった。
(S.EXっていったいなんなの? いずれにしても、ローズ先生にすべてを話すのは不味い。せめてS.EXがなにを意味しているのか分かるまでは)
愛はそう考えて、達也に命令する。
「そこで、相談なんだけど、FGCは、物体が反射した光だけを捻じ曲げることができる。それから有効範囲は五メートルということで説明して」
「えっ、光源の方になる光も、それを見ているレンズや瞳に入る光も指定して、コントロールできるのに」
「これは命令よ。全部言っちゃうと、アンタみたい悪いことに使おうとする人が出てくるでしょう。そのくらいが御遊び的にはちょうどいいのよ。それでも凄いことなんだから」
愛は、もともと、バカな目的でFGCを考え付いた達也では気が付かない、FGCの本当の恐ろしさを真剣に考えたことがあるのだ。。
「まあ、そうだな。俺の楽しみも取っておかないと、女の子がみんな愛みたいに、光子ブラックホール機能付きの下着をつけだしたら困るしな」
「あら、それもいいわね。お父さんの会社が儲かるかも?」
「やめてくれよ。そんな話」
「冗談よ。冗談。あくまで、FGCの威力は門外不出、口外無用。つまり、私と達也だけの秘密よ」
「だな」
そうやって、二人が打合せをしたところで、ローズと刑事がやって来た。
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