第19話 会場では授賞式が行われている
会場では授賞式が行われている。光彩学園は見事、金賞を受賞。全国大会への切符を手に入れた。
演劇部の部員たちは、感極まって泣いている。
「ああっ、もうしばらくは、演劇部の臨時部員か」
「仕方ないわね。でも、達也、結構頑張っていたじゃない」
「まあ、これだけ、みんなが喜んでくれると、頑張った甲斐が在ったよ。金賞も取れたし」
「そうだね。演劇部のみんなが舞台から降りてきたら、恋さんに抱きつかれるわよ」
「ばか、愛、そんなことあるはずないだろ。そんなつもりで、FGCを使ったわけじゃ・・・・・」
「だったら、すぐに、会場からドロンする?」
そこで、達也の携帯が鳴ったのだ。
「あれ、ローズ先生からだ」
「早く、出なさいよ」
愛に促されて、携帯に出てみると、ローズ先生ではなく、片言の日本語を話す男が出たのだった。
「光坂達也カ?」
「ああ、そうだが?」
「ミス.ローズを預かっている。返してほしかったら、今から携帯に送る場所に、篁愛の写真を撮ったタブレットをモッテコイ」
「ローズ先生を預かっている? どういう事なんだ? お前は誰なんだ?」
「ワカラナイノカ? 拉致シテルトイウコトダ。イイカ、ワレワレに対する質問は一切許可シナイ。早く来ないと、ミス.ローズは大変な恥ずかしめに会うことにナルゾ」
「なんだ? 恥ずかしめって!」
「オマエの想像する通りダ。ミス.ローズはいいからだをしてヤガル。オマエが来なければ、明日、ミス.ローズの裸の死体が、その辺の水路に浮んでいるダケダ」
「ちょっと待て、本当に、そこにローズ先生がいるのか?」
「ふん。少しミス.ローズと話をさせてヤル」
「高坂君、来ちゃダメ。この人たち、アナタの研究が目当てナンダカラ。モウ、上着やスカートは引き裂かれチャッタケド、ワタシのことは、気にしなくてイイノ。キャアー!」
最後は、ほほを打たれたような音がして、悲鳴が聞こえた。
その叫びを聞いて、達也の頭に血がのぼる。
「わかった。すぐ行く。それまで、ローズ先生に手をだすな!」
「ワレワレに指図をスルナ! これから、五分経つごとに、ミス。ローズの服を一枚ずつ切り裂いてイク」
「わかった……。少し遅れて行くかもしんない。正義のヒーローらしく、一番いい場面で助け出したい」
「ハン、勝手にシロ。タブレットを忘れるなよ!」
そう言うと、乱暴に携帯を切られた。そして今度は、タブレットにメールが入る。
達也は、メールを開けて、場所を確認すると、愛に話しかけた。
「愛、ここから、一〇分ぐらい離れた、解体途中で放り捨てられている廃ビルが指定場所だ」
「達也……。行くの?」
「ああっ、当然だろ。俺の軽はずみな行動が、ローズ先生を危険な目に遭わせてしまった。俺が行って、ローズ先生が助かるなら行くしかないだろう」
「なら、私も行く。だって、達也は私より弱っちいし。それに、さっきの外国人といい、ローズ先生といい、芝居がかっていたわ。しかも、セリフ、めちゃくちゃ棒読みだし。達也、あんた自分のセリフにちょっと酔っていたでしょ」
「いや、そんなことはない。あれは、片言の日本語だから、そう聞こえただけだろう。愛は、ついてくるな。やっぱり危険だ」
目を泳がせながら愛に返事をする達也。
「そんなことないって。スケベ以外に頭の回らない達也より、私の方がだいぶましよ。わたし、最近はずーっと、FGCの応用の仕方について考えていたんだから」
「なんだ、お前、そんなことを考えていたのか? 愛って、見かけによらず好き者なんだな」
「誰が、あんたが考えるようなこと考えるか!!」
思い切り、達也の頭をひっぱたき、ため息を吐(つ)き話しを続ける愛。
「あんたと話しているのは時間の無駄ね。歩きながら説明するわね」
「ああ、そうしてくれ。これで蹴りが出て、俺が失神したら、間に合わなくなってしまう。洋もの恥辱プレイ、これは見逃せないからな」
思わず、蹴りが出そうになった愛だったが、思い直して深呼吸をする。
(このまま、達也に合わせて、巻き込まれると、只の暴力ビッチに成り下がってしまう。ここは、可憐な美少女なら赤面して、恥じらう場面だろうが!)
そうして、愛は自問自答を繰り返す。
(私は成績優秀。私は可憐な美少女。私は達也の……、えっと、保護者兼……、それから、達也を真っ当な人間に導く女神)、達也の前をすたすたと歩きながら、自分に言い聞かせる愛。
達也は仕方なく、なにかブツブツ言っている愛に付いて行く。
「そうだ、達也、さっきのFGCの話だけど……」
しばらく付いて行くと、いきなり、達也の方に振り返った愛は、面白いいたずらを思いついた子供のように、おもいっきり満面の笑みを浮かべながら、達也になにやら耳打ちするのだった。
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