第20話 達也と愛が歩くこと一五分

 そして、達也と愛が歩くこと一五分。目的の廃ビルまでやって来たのだった。

 この廃ビル、ところどころで壁が剥がれ落ち、鉄骨がむき出しになっている。すでに、建設途中で工事が中止になってから、一五年ぐらいが経過していて、周りは、高いバリケードに囲まれ、人の立ち入りを拒絶するような雰囲気が漂っている。

 噂では、ここで、肝試しをしていた若い男女が、剥がれ落ちた壁から落下して、それ以来夜な夜な幽霊がでるとも言われている廃ビルなのだ。


「メールを受け取ってから一五分か。これは、一番おいしい場面に遭遇できるかもしれない」

「バカ言ってないで、バリケードのあそこのカギが壊れている。あそこから入ればいいんじゃない?」

「メールによると、この廃ビルの五階が待ち合わせ場所だ。地上げの途中で、バブルがはじけたみたいで、周りに何もないし、凌辱プレイにはもってこいだな」

「達也、あんた能天気なこと言ってるけど、私たちが拉致されて、恥辱プレイの餌食になる可能性だってあるのよ」

「愛が、恥辱プレイの餌食になるだって!! それは絶対に阻止する。そうなったら、手段を選らんでなんかいられないな」

 達也のこの発言は、愛だけは特別なのだという宣言なのだが、達也自身は、そこまで深く考えていない。自分だけが遊んでいい、特別なおもちゃの感覚なのだ。

「達也、あんたいつまで経っても子どものままなんだから……。早く、自分の気持ちに気が付きなさいよ!」

「愛、なんのことだ?」

「なんでも無いわよ。そろそろ、五階よ。気合を入れなさいよ」

 カツカツとコンクリートの階段を響かせ、階段を昇っていく二人。相手が何ものかも、何人居るのかもわからない状態で、大胆不敵な行動を採る二人であった。

 五階に上がると、部屋の仕切りもなく、五階全体がワンフロアーになっている一番奥に、ローズとその周りを固める黒ずくめのスーツにサングラスを掛けた三人の男が、居たのだった。

 ローズは、達也の狙い通り、すでに、上着は脱がされ、着ているシャツやその下のランジェリーやスカート、それに、タイツはボロボロにされ、半裸状態で、胸を強調するように縄で縛られ、そのまま、後ろ手に縛り上げられていて、猿ぐつわをかまされていたのだ。

「うーん。緊縛プレイとは、俺の予想の上を行かれた」

「ああ、もう少しゆっくり来れば、この女にぶち込んでやっていたノニヨウ」

 ローズの髪を掴み、無理やり、上を向かせる黒ずくめ野郎。ローズの胸が仰け反ることで、さらに強調されバツグンの眺めになっている。

「ああっ、お前ら、欧米人のフニャチンなんかで、ローズ先生が喜ぶはずないだろ。男は硬さと角度なんだよ。まだ、一七歳の俺なら自信がある。あれがへその引っ付くのは、一〇代までだ」

「はあっ、俺たちはマフィアなんだよ。薬(やく)でも打ちゃ女はメロメロになるんダヨ」

「薬でいかせるなんて、お前ら最低だな」

 

 ローズはフガフガいいながら、何か怒っている。さらに、愛はこめかみを押さえて、下を向いたままだ。

 しかし、ついに怒りが爆発したのか、キッとした表情で、大声で言い放った。

「あんたたち、なにこの会話、この状態で、言葉嬲りを聞かされるなんて、なんの羞恥プレイなのよ!! もう付き合ってらんない。達也。行くわよ!あの三人かなりの手だれだから気を付けなさいよ」

「愛、イクって、俺、まだ何もしてないのに」

 ローズの思っていたよりも色っぽい半裸姿に、我を失っていた、もとい、本性がむき出しになっていた達也は、いまだ現実には戻って来ていないようだった。

 しかし、愛は、スカートに手を掛け、自ら捲り上げようとしたのだ。

 欧米人にとっても、女子高生のミニスカートの制服姿は刺激的なのか? はたまた、外国人にとって、制服はコスプレの延長になるのか? 思わず、三人は愛の行動を凝視してしまう。

「フォトンフラッシュー!!!」

 叫び声をあげて、つまんだスカートを捲りあげた愛。

 スカートに中からは、昔なつかしいマグネシュウムウムを一〇倍以上燃やして焚かれたようなカメラのフラッシュが眩しい閃光を放ち、凝視していた三人の網膜を焼き尽くす。


 その隙に、愛と、愛の必殺技を叫ぶという恥ずかしい行為を目の当たり見て、やっと現実に帰ってきた達也は愛と一緒になって、椅子に座っていたローズを両側から抱えて助け出したのだ。

「しっかり、走って! ローズ先生」

 しかし、ローズも縛られている上に、愛のフォトンフラッシュをまともに浴びて、目も開けていられない状況なのだ。強烈な光を浴びて、三半規管にダメージを受け、目が回っている。


 それは、フォトンフラッシュを浴びた三人の男も同じようで、サングラスを掛けている分、回復も早いのだが、いきなり拳銃を抜いて、威嚇射撃を始めるのだ。

「お前らトマレ!! 止まらんと撃つゾ!! ゴラッー」

 しかし、そのくらいの脅しで、三人の足は止まらない。ふらつくローズを両脇から抱えて、必死で階段の方に走って行くのだ。


「くそ、足を撃ち抜いてもかまワン。あいつ等をトメロ!」

 上司の命令に、今度は、逃げる三人に拳銃の標準を合わせ、引き金を引く。その距離およそ五メートル。射撃の腕に覚えのある連中である。決して外す距離ではない。

しかし、銃弾は、三人には当たらない。それどころか、まるで銃弾は、体をすり抜けているようなのだ。

「ばかな?!」

「この間抜けガ?! 追っかけて捕マエロ! 奴らはほとんど、逃げられていないぞ」

 三人が一斉に駆け出し、達也、愛そしてローズを追っかける。

 この三人、そうとう身体能力が高いらしく、すぐさま達也たちに追いつき、手を伸ばし、肩に手を掛けようとしたところで、スカッと空振りをする。まるで、蜃気楼の逃げ水を追いかけているようだ。

さらに、追っかけていた三人は、腕を伸ばし、もう一度つかもうとしたところで、崩れ落ちた壁の無い空間に向かって、手を伸ばしたまま飛び出し、落ちていく。高さ一五メートル以上、下は、崩れ落ちた瓦礫の山だ。


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