第15話 ほんとうにすてき。こんな演出見たことないわ
「ほんとうにすてき。こんな演出見たことないわ」
演劇部の部員たちは、みんな感嘆の声をあげた。
「なるほどね。達也。ナイスアイデアだわ。でも、これを発表したら、もうFGCの存在は隠せない」
「でも、同級生に頼まれたら、いやとは言えなくって」
「仕方ないわね。それが達也だもんね。まったく、私以外には結構優しいところがあるんだから」
愛が、ため息を吐(つ)く。
(いや、私にも、やさしさを時々は見せてくれているか……)愛が達也をちょっと見直していると、そこに、恋がやって来て達也に飛び付いた。
「達也君、ありがとう。大感激だわ。こんなにきれいな衣装って信じられない!」
いきなり、恋に抱きつかれた達也は、女の子特有の柔らかさや細い体の線にドギマギしてしまう。愛の痛さを伴う抱擁(関節技)と違って、その心臓に響く衝撃力は別格なのだ。
「恋さん。ちょっと、その恰好、実際は下着姿とほとんど変わらないんだから!」
「えっ、そ、そうだった。私ってなんてはしたないことを……」
あわてて、達也から体を離す恋。そして、真っ赤になって、下を向いている。どうやら、女優魂のスイッチがオフになったようだった。
「この恰好、やっぱり、恥かしい……」
「だよね。まあ、見ている人にはわからないんだけど、やっぱり、下着姿で舞台で演じるのは本人には耐えられないか?」
「えっと、多分そこは大丈夫。王子様役は、女の子だし、私、演劇のスイッチが入ると、恥かしさなんか感じないから」
愛の言葉を聞きながら、達也は若干、前かがみになりながら答えている。
「大丈夫だよ。変身の瞬間は一瞬だから。魔法少女も変身の時には、服が消えるのは定番だから」
「達也(バカ)。あんなのは、視聴率を上げるための演出でしょ。ストーリーにはまったく関係ないんだから。だったら、レオタードがいいよ。それも肌色のやつ」
「はあ、愛。なんかそれ、見方によったら、もっとエロっぽく見えないか」
「違うのよ。まさに、魔法少女の変身シーンよ」
「なるほど、確かに、変身シーンは、全裸を思わせるが、たしかに、見た目の質感は、レオタードみたいなものでおおわれている感じがする。肝心な胸のポッチがスロー再生しても、コマ割り再生しても、消えてるもんな」
「私は、変身シーンをじっくりスローで再生したことないから、よくわからないけど……。だから、恋さん決まりね。その衣装の下には、肌色のレオタード。うちの会社から提供してあげるから」
「そうかな。それの方がいいかな。じゃあ、愛さん。お願いするわ」
「おい、愛、お前、相撲取りに変身する着ぐるみを持ってくるなよ」
「ばかね。それじゃあ、トン(豚)デレラになるでしょ」
「もう、愛さんたら、まともなのにしてよ」
恋さんが笑いながら、愛に話かける。
「さあ、衣装の問題もクリアー出来たし、今度の公演、金賞を狙うわよ」
「「「「はい!」」」」
部長の激に、部員たちの気合の入った返事とはうらはらに、達也と愛は、間の抜けた返事をしてしまう。
「「はあ、金賞だって?」」
「あれ、光坂君と橘さんには、言ってなかったの? 今度の公演会は、県下の高校が集まる演劇コンクールなのよ。そこで、金賞をとったら、今度は、東京で全国大会があるのよ」
「そうそう、東京の会場は武道館で、極秘情報だけど、芸能プロダクションのスカウトも見に来るらしいの。そこで注目されれば、女優としてデビューできるかも知れないの」
部長の説明に、女優に憧れている恋が、夢見るような瞳で、達也と愛に自分の希望をぶつけてくる。
達也と愛は、お互いに顔を見合わせてしまった。
小声で、達也は愛に話かける。
「どうしよう。そんな大げさなコンクールだったなんて」
「確かに、まだ、学園祭の時期じゃあないしね」
「しょせん、関係者とか、身内の人が来るぐらいだと思っていたんだ」
「やってしまったものは、仕方ないでしょ。覚悟を決めなさい」
「覚悟ってなんだよ?」
「FGCの争奪戦が始まるということよ。いままで私たちに投資してくれていた政府や企業のね」
「嘘だろう?」
「いいんじゃない。FGCを渡して、一生遊べるだけのお金を貰って、遊んでくらせば?」
「そんな、今でも遊んで暮らすつもりなのに、FGCを取り上げられたら、遊んで暮らせないじゃないか!」
「あんたのその発想、良くわからないけど、FGCがないと遊べないということね」
「うん」
「まったく、自由が無くなる可能性だってあるのに、あなたってどこまでもお気楽よね」
「うん。愛といっしょなら、研究所のタコ部屋でも別にいいかなと思って」
「だれが、タコ部屋に入るか!!」
達也を怒鳴りつける愛。でもその表情は、ちょっぴり嬉しそうだった。
愛の大声に、周りの部員がびっくりする。
「どうしたの。橘さん、大声出して」
「いえ、コンクールだと聞いていなかったもので、いろいろと心の準備がね……」
「そうか、橘さんも、臨時部員として頑張って貰うのよ」
「あっ、はい、大丈夫です。頑張ります」
こうなれば、愛も達也も流れて身を任せてしまうしかない。愛は腹をくくったのだ。
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