第12話 愛が帰って行くのを見て

 愛が帰って行くのを見て、今度は大手を振って、達也は演劇部の部室に向かう。

 そこで、昼休みに言っていたティアラとガラスの靴を、篁から見せてもらうのだが、なるほど、透明なプラスチックでできた素材は、見た目は、割としっかりした作りで、それなりに輝きもあったのだった。

「篁さん。ほんとにこのティアラと靴っていい出来だね。ティアラのガラス玉もカットが入っていて、上手く反射を使っているし、靴も同様、ライトの当て方によっては、乱反射させて、キラキラさせることが出来そうだよ」

「光坂君、本当に?」

「ああっ、やってみようか。ところで、演劇の発表ってどこでやるんだ?」

「今度の舞台は、市民会館の大ホールよ。一〇〇〇人ぐらい入るところなんだから」

「市民会館の大ホールか。あそこなら舞台装置も色々そろっているし、ライトも沢山あるな」

「それってどういうこと?」

「前の写真と同様、見てもらった方が早いな。ちょっと用意してくる。ここで実験だ」

 達也はそういうと、部室を飛び出して行く。そうして、光学研究部の部室に入ると、今度は、電気スタンドを手に持てるだけ持って、と言っても五つほどなのだが、廊下を歩いている時に、ローズ先生に捕まってしまったのだ。


「光坂君。そんなに電気スタンドを持って、どこに行くのデスカ?」

「あっ、ローズ先生。ちょっと、演劇部を手伝いに行くんです」

「演劇部? それは、橘さんも行っているのデスカ?」

「いや、愛は帰りました。今日は用事があるとのことです」

「愛さんは居ないのデスカ? じゃあ、私が付いて行って手伝いまショウ」

「大丈夫です。今日は、試しにやってみるだけですから」

「試しって、なにか、光子グラビティに関する実験デスカ。なら私にまずしてクダサイ」

 わざと大きく開けた胸元を強調しながら、擦り寄ってくるローズ。

 それに対して、前かがみになって、腰を引き気味に対応してしまう達也。

「そ、そんな、大層なことじゃないですって。光によって、舞台衣装をどこまで綺麗に見せることができるか試すだけですから。光子グラビティは関係ないです」

「そうなの。でも、私も興味が在リマス。ついて行ってイイデスカ?」

「すみません。まだ、これから試行錯誤する段階なんで、舞台を見に来てください」

 そういって、ローズを置いて走り去って行く達也。

「舞台? 演劇部の演劇発表会は、一週間後の土曜日、市民会館だったハズデス。一応、見ておく必要がありますね」


 そう言うと、ローズ先生は、携帯を取り出し、いつもと違って日本語で電話をする。


「ハロー、ローズよ」

「ミス。ローズか? どうしたんだ、定期連絡以外に連絡をくれるなんて」

「ミスター佐藤、今度の土曜日、私たちが欲しかったものが見られるかもシレマセン」

「例の光子グラビティをコントロールできるようになったということか?」

「それは、ワカリマセン。でも、きっと素晴らしいことが起こると断言デキマス」

「なにか、掴んだのか?」

「そうです。フォトンをコントロールしてすばらしいものを見せてくれるはずです」

「それは、プロジェクトマッピングみたいなものや三次元映像とは違うんだろうな?」

「疑い深いデスネ。ミスター佐藤」

「まあ、光子グラビティが発見された後、それを意図的に発生させようと色々な科学者が挑んでいるが、いまだにきっかけさえ掴めないんだぞ。あんな高校生に何ができるというんだ」

「若い力をあまり見首らないコトネ。わたしの胸の谷間を見て、張るテントはなかなかの物よ。ミスター佐藤」

「ミス.ローズそれは、力の意味が違う。そんなことを言っているからエローズって陰でいわれているんだ」

「なによ! 貴方こそ、佐藤ってありきたりな苗字使って、いくら偽名でももう少し工夫したら」

 そう言い捨てると、ローズは、電話を切った。


「やはり、日本の公務員は、あそこも頭も固いです。だから、溜まって時々不祥事がおこるのです。息抜きのエロトークが通じまセン。やはり、同胞とのエロトークが最高です」


 ローズは独り言を言うと、再び、電話を掛ける。今度は、いつものように出た相手に、英語で話しかけるのだった。


 一方、ローズを振り切った達也は、演劇部の部室に戻り、篁を始めとする演劇部のみんなに自分の考えを披露する。

「いいか、こうやって、いろいろな角度から、光を当てると、透明な物質は、物質の内部の層で乱反射して、輝きを増す」

 そうやって、色々な角度で光が当たるように電気スタンドを設置して、ティアラと靴に光を当てる。もちろん、自分の持っているタブレットで、FGCを作動してティアラと靴の構造を利用して光を多層に乱反射させ、ダイヤモンドのブリリアンカットのようにキラキラと反射させているのだ。


 光の当たったティアラは、只のガラス玉が、ダイヤモンドのように、光輝き、見る角度によって七色の淡い光を発するようになる。そして、プラスチックの透明な靴も、同じように、ダイヤモンドの輝きを発するのだ。


「光坂君。凄い。これってまるで本物の宝石でできているみたい」

 演劇部のみんなは、ため息を吐いてその美しさに見惚れている。

「そうだろ。宝石はカットによって乱反射させるんだけど、所詮、一方向からの光りしか想定していないんだ。もちろん、宝石も色々な角度から当てれば、もっと凄く輝くように見えるんだろうけど。舞台だとこんな演出も可能だろ」

「確かにそうだわ。でも、それが、衣装となんの関係があるの?」

「だから、衣装が、透明で何層かになっていればいいのさ。各層で反射して、それは凄い輝きになるぞ」

「でも、そんなものを作る予算なんて。それに、魔法を掛けてもらってドレスに変身するのよ。早や着替えはどうするのよ。そんなビニールみたいな素材、着にくそうだし、何枚も重ね着するんでしょ」

 演劇部の一部からは不可能だと反論の声が上がっている。


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