第8話 やかましい!
「やかましい! それで、なんで篁さんに光子グラビティコントローラーを使ったのよ?」
「いや、篁さん、今度、演劇部で、劇をやるそうで、メークの仕方について尋ねられたんだ」
「それで、光子グラビティコントロールを使ったのね。でも、どうやって」
「それに、ついては、実際に見て貰った方がわかると思うんだ」
達也はそう言うと、タブレットの画面をみながら、キーボードを動かしている。
「微妙な調整が難しいんだ。この写真は。……よし出来た」
そして、タブレットを愛に向けて見せた。
そこには、いまでも十分美しい愛が、さらに一段美しくなって写し出されているのだ。
(あら、美しさには、上限ってないんだ。って自分で感動してどうするのよ。これは?)
愛は、一瞬、自分の姿を自画自賛したが、すぐに冷静になって、その液晶画面を見つめる。
「達也、なるほどね。それぞれのパーツがもっとも美しく見える反射光子だけをレンズに取り込んだのね」
「ご名答。一応、画像修正アプリを使ったということに、篁さんにはしてある」
「そうだ。わたしにもこの画像、メールで送ってよ」
(あれ、感動して、この画像を手元に置きたいと思ったんだけど? 普通の女の子が、自分のこんな画像を見たら、手元に保存しておきたいと思うわよね。普通)
「達也、あなた、篁さんにも、作った画像をあげた?」
「そうだな。欲しいって言われてメールで送ったな」
「バカ、達也! それは、めちゃくちゃまずいわよ」
「えーっ、なんで? 画像修正アプリを使ったと思っているはずだぞ」
「確かに、コンピューターに詳しくない人はね。でも、コンピューターに詳しい人なら、画像に残ったログを解析すれば、この写真には、修正箇所が無いってばれるのよ」
「ばれたらどうなるんだ?」
「それぞれのパーツから、もっとも美しくみせる角度から反射した光子だけをレンズに集める。そんなことができるのは、光子グラビティをコントロールするしかできないっていう結論にたどり着くわ」
「それは、まずいかも?」
「まずいなんてもんじゃないわよ。そこにたどり着く人が居ないとも限らない。早く、その写真を回収しなきゃ。達也、演劇部に行くわよ!」
「よっしゃ」
二人は、部室を飛び出し、演劇部が練習しているレッスンルームに向かった。
そして、レッスンルームに飛び込んだ二人は、大声を掛ける。
「「篁さん」」
鏡の前で、演技のチェックに余念がない篁は大声で呼びかけられて驚いた。
「えーっ、なになに、あれ、光坂君に橘さん」
「篁さん。今朝、俺が渡した写真、あれからどうした?」
「あれ、ライングループにアップしたら、凄い反響で、もう「いいね」の連打よ。それがどうかしたの?」
「ライングループ以外には?」
「えっと、フェイスブックやツイッターにはあげてないわよ。さすがに、不特定多数の相手に素顔をさらすのは誰がみているか分からないから、ちょっと怖いよ」
「知り合いだけだったら、大丈夫か?」
達也は、愛の方を見た。しかし、愛は達也に向かって首を振った。
「篁さん。あなたのライングループって、みんな知っている人なの?」
「そうよ。知っている人よ」
「顔とか住所とかもわかる?」
「そんなわけないよ。ラインだけで仲良くなった人とか居るもの」
「ああ、だめだ……」
「えっ、橘さん何がダメなの?」
「橘さん。あなたが、ライングループに上げた写真、グループの誰かが別のグループのラインに上げたり、SNSに上げたりしたら、もう、削除することは不可能なの。一旦、SNSに乗せた情報は、二度と消すことはできない。もし、私たちの問題に、あなたを巻き込んでしまったらごめんなさい。でも、そんなことも考えないで、ラインにアップするあなたにも責任があるんだからね」
「なによ? あなた達の問題って? なに脅かしているのよ」
「ごめんね。でも、こんなの脅かしにならない。これから、もっと脅かされることになると思うから」
「愛、そんな言い方ないだろう。俺にも責任があるんだから」
達也は愛が放った冷たい物言いに、食って掛かったのだが、その気持ちは、篁も同じ出会った。
「そうよ、一体全体、私がラインして何が悪いのよ」
「篁さん。あのね、あなたの写真を修整したアプリ、詳しくは言えないけど、軍事技術にも応用できる最先端技術が使われているの」
「「はあ、軍事技術!」」
達也と篁は二人で、あっけに取られて大声を上げた。
「そう、軍事技術。直進する光を捻じ曲げることで、なにが起こるのかわかる? 目に見えるものが、全て、幻になるんだから」
「……うーん……、愛、なるほど、そういうことか! それなら、篁さんを巻き込まないように、俺は、ローズ先生に言って、このFGCについて、公に発表する。そうすれば、もう、秘密でもなんでもなくなるんだ」
「あっ、そうだ、ローズ先生にも、あの写真をメールで送った」
「篁さん、ローズ先生にも、写真を見せたの? ……そっか……」
「どうしたんだ? 愛」
「もう、手遅れかもしれない。よりによって一番厄介な人に見られたかな? でも、返ってよかったかも」
「何が返ってよかったんだよ?」
「達也! とにかく、ローズ先生のところに行くよ。もう、光子グラビティコントローラーの事を話して、科学雑誌に論文を発表するしかないよ」
「だな、原理を知ったからって、実用化できるのとは別問題だからな」
「そうよ。クリスタルから放射能のように、光子グラビティを発生させるなんて、簡単にはできないでしょ」
「仕方ない。断腸の思いで、秘密にしていた自分だけの楽しみを手放すか……」
「お前が、あちこちで、使うからだろうが!!」
愛の上段前蹴りが、達也の顎を狙うが、達也は、間一髪で、ダッキングでケリを躱した。
「な、なんで?!」
「愛、今までは、お前のパンチラに一瞬目を奪われて喰らっていたが、お前は、今や光子ブラックホールのために、その隙を突くことが出来ん」
「ああっ、そう」
「グヘッ!」
愛の正拳突きが、溝打ちに突き刺さる。
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