第7話 そんなことが在ったことも知らない達也と愛は
そんなことが在ったことも知らない達也と愛は、その日一日を無難に過ごし、放課後、いつものように、光学研究部の部室で、お互いの研究に没頭していた。
そんな部室に、カメラのレンズを交換してもらった和田が、やって来た。
「光坂、居るか? 今朝、お前に交換してもらったレンズ、どう角度を変えて撮っても、服が透けて写らないんだけど?」
部室に入って来るなり、大声でクレームをつける和田。愛が居るのにお構いなしだ。
「えっ、なに、ちょっとその話はまずいって……」
そのクレームに焦ったのは、達也だったが、すでに愛に聞かれた後だった。
突如、愛の回し蹴りが、達也の顎先にクリーンヒットして、正拳突きが和田の溝打ちにめり込んでいた。
「達也、それから和田君、今の話は何かな。今、ちらっと服が透けるとかなんとか言ってなかったけ?」
「まったく、愛は口の前に、手足が出るから……」
脳を揺らされた達也は、愛の習性を思い出しながら意識を手放してしまった。
そして、達也から尋問の相手に変えられた和田は、溝打ちを押さえ悶絶しながらも、なぜか、苦悶の表情とは別に、薄ら笑いを浮かべているのだ。どうやら、和田は真性のMになりつつあるようで、愛の居る所で、ワザとあんなことを言ったのは、こうなることを内心では期待していたようなのだ。
それが証拠に、愛の尋問にもスラスラ答え、更なる仕打ちを待っている。口調がなぜか悪事がばれた代官ぽくなっているのはご愛敬だ。
「じゃあ、和田君、あなたに聞こうかしら。さっき、どうしたら、服が透けた写真が撮れるって?」
「はい、橘様、今朝、カメラのレンズが割れたので、光坂にレンズを取り換えて貰ったのでございます」
「それで?」
「そのレンズは、特殊な屈折率で、撮る角度と屈折率が会えば、服が透けた写真が撮れると言われたのでございます」
「それで、あなたは、この達也(バカ)の言葉を信じちゃったんだ?」
「でも、光坂が撮った最初の写真では、確かに服が透けて、裸の写真が写っていたのでございます」
「へーっ、その写真はまだあるの?」
「いえ、野郎のだったんで、すぐ消去してしまいました。橘様がお望みなら残しておくべきでございました」
「はーっ、そんな写真、観たいわけないでしょ。それで、どんなに写真を撮っても服が透けないから、達也に屈折率と撮る角度について聞きに来たというところかしら」
「女王様のご推察の通りでございます。すでに、四〇〇枚ぐらい色々な角度で撮ったんですが全然ダメだったんです」
「こら、女王様って呼ぶな。それになにその言葉遣い、おかしいでしょう?」
あまりに、和田が従順な態度なので、愛は気味が悪くなって少し引き出したのだ。
そこに、やっと、意識を回復した達也が、ふらふらしながら椅子に腰かけて、ふーっとため息を吐(つ)きながら、話始めた。
「そうか、和田。あれから四〇〇枚も写真を撮ったのか。やれば出来るじゃないか。お前最近、カメラ小僧としての情熱が、どっかに行ってしまったようだっただろ。だから、お前に服が透けるレンズだと嘘をついて、お前をその気にさせたんだ。最初の写真、あれは、アプリを使った合成写真だったんだ……」
「光坂、そうだったのか? 確かに、最近は、こんなに熱心に写真を撮ったことがない」
「だろう。お前が、写真に対する情熱を取り戻すことがでたみたいで良かった」
達也と和田は、お互いに視線を交わし、口角を上げる。しかし、愛はそんな二人を覚めた目で見ていた。
「こらこら、あんたら、なに恥ずかしい話題を熱く語っているのよ。BLなら他所でやってよ。それから、この部室、高価な機材が色々おいてあるから、部外者は立ち入り禁止だから」
シッシッと和田に向かって手を振る愛、自分が高価な機材の真ん中で、派手に立ち回ったことは、当然、棚の上に上げて、さらに封印するという念の入れようだ。
愛は、すごすごと部室から出ていく和田をしり目に、残った達也に鋭い視線を向けた。
「さて、達也。あの和田君に見せた写真、FGCを使ったでしょう」
「いや、それは……」
「使ったのよね!」
「はい」
「和田君、その写真はスグに削除したと言っていたけど、他には使ってない?」
「うーん。えーと……」
「使ったのね? いつ、どこで、だれに、なぜ、どのようにFGCを使ったのでしょう?」
「そんな、5W1Hみたいな尋問の仕方」
「こうでもしないと、達也、色々と隠すでしょうが!」
「はい……」
「まず、いつ?」
「今朝、授業が始まる前」
「次、どこで?」
「教室で」
「本題よ。嘘はつかないでよ。私には達也の嘘を見破ることなんてたやすいんだから。だれに?」
「隣の席の、篁さん」
「なに、篁さんのヌードを撮ろうとしたの! ふざけないでよ。私以外の女にFGC(光子グラビティコントロール)を使うなんて。あんた、昨日の誓いはなんだったのよ!」
「待てよ。俺なんか、お前に誓ったか?」
「昨日、私にいったでしょ。「お前だからこそ俺は燃えるんだ。愛以外には使う気になれないんだ」って、結局、可愛ければ、誰にだって使っているんじゃない!」
「いや、それは、俺の本心だぞ」
「本心? そうよ。私だってそう言われて、達也の愛の告白だと思ったんだから」
「愛の告白? お前に何か告白したのか? 俺にはさっぱりわからないだけど……。それより、お前の怒っている方向、さっきとずいぶん変ってないか? 次は、なぜじゃあないのか? 」
そんな疑問を口にし、さらに、愛の様子を観察する達也。
「あれ、愛。お前、顔が赤いぞ」
愛は、達也に指摘されて顔を真っ赤になってしまった。光学的に言えば、赤外線のみが顔面から反射しているように顔が熱い。達也のやつ、そんな言い方したら、私が達也に告白したみたいだろうが。
もう、ここは、話題を変えるしかこの羞恥プレイを終わらせる術(すべ)はない。ここで、
達也に追い打ちを掛けられたが、そんなことに構う義務はない。
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