第6話 光学研究室から自分のクラスにやって来ると

 そうして、光学研究室から自分のクラスにやって来ると、今度は、隣の席に座る学園でNO.2と言われている(NO.1は橘愛ということらしい)ツインテールにまとめた茶色がかった髪と瞳を持つ、美少女と誉れの高い篁恋(たかむられん)に声を掛けられた。

 そう、達也の変態ぶりは、愛にしか発揮されないため、他のクラスメートとは普通に接してもらっていたのだ。

「光坂君。あなた、写真屋の息子だったよね」

「確かに、そうだが、それがなにか?」

「えっとね。今度、演劇部で劇をするんだけど、私、美少女の役ってことで、綺麗になる化粧の仕方を知りたいんだよね。ほら、写真屋さんって、記念撮影で、色々、被写体を修正するでしょ?」

「そうだな。お見合い写真なんかで、人間離れした妖怪ばばあを、別人にさせられることもあるからな」

「そういう訳で、私はどう修正したらもっと綺麗になるかを、光坂君に相談したいのよ」

「なるほど、じゃあちょっとやってみるか」

 達也は、タブレットを取り出すと、篁恋にレンズを向け、しばらく、液晶を覗いていたが、満足したように、シャッターを切った。

 そうして、出来上がった写真を篁恋に見せた。

 それを見て感動する篁恋。

「凄い、目鼻立ちがよりくっきりして、目も大きくなってるし、鼻も筋が通って高くなったみたい。それに、顎も引き締まって。今度の劇はシンデレラなの。だからこの西洋風メイク、今度の劇にピッタリよ」

「まあ、篁さんもともと、西洋風な顔立ちをしているから」

「でも、ここまで、印象が変わるなんて」

「ああ、よく美術部でデッサンに使う頭だけの石膏像があるだろう」

「えっと、クニドルのアフロディーテーの像のことかな?」

「名前は、良く知らない。それを色々角度から光を当てて、写真を撮ったことが在るんだけど、あれ、光を当てる角度によって、印象が結構変わるんだよ」

「ふーん。その話と私の修正写真と、なんの関係があるの」

「えっと、だから、顔にある目とか鼻とか唇とか、それぞれのパーツをもっとも美しく見せる反射光の角度に調整して撮った写真がこれなんだ」

「それぞれのパーツごとに、ベストに見える光源を当てて写真を撮ったってこと?」

「まあ、これは修正写真だから、実際の化粧の時は、陰影に気を付けて化粧すれば、このくらいにはなると思う」

「嘘、ありがとう。光坂君、その写真を参考にお化粧の練習をするから、私のスマホにその写真を送ってよ。私のメールアドレスは、×××.△△△@¥&#・COMだから」

 そうして、メールアドレスの交換をして、達也が篁恋に写真を送付したところで、授業の予鈴が鳴った。そうして、そこに、髪の毛を振り乱して、愛が教室を駆け込んできた。

 愛は、達也の前の席に息を荒げながら座ると、ブラシを鞄から出して、一生懸命髪をブラッシングしているのだ。

「なんだよ。愛。お前、髪の毛をセットするって、遅れたのに、結局バラバラじゃないか」

「うるさい。達也。家から学校まで走って来たのよ。私の華麗なる内申書にキズが付かないように」

「それは、御愁傷さま。俺なら内申書なんてどうでもいいから歩いてくるな」

「ガルルルッ」

 今にも、達也に噛みつきそうな愛であったが、その時、達也のタブレットにメールの着信を知らせるランプが点灯した。

 そのメールは、篁恋からのお礼のメールだったのだが。

 メールの着信音に気が付いた愛は、少し冷静になって達也の顔を見た。

 達也は気まずそうに、愛の視線から目を逸らせた。

 それを見て、愛が何か言おうとしたところで、本鈴が鳴り、教師が教室に入ってきた。

 そして、教師はいつものように、日直に号令を掛けさせ、淡々と授業を進めるのであった。

 そして、授業に没頭しだした愛は、達也に何を言おうとしたのかをすっかり忘れてしまった。これが、愛の二つ目の痛恨のミスであった。


 さて、授業が終わったところで、篁恋は、別のクラスの演劇部の友達に会いに行っていた。

 達也に撮って貰った写真を、演劇部のメーク担当者の雅佳奈(みやびかな)を廊下に呼び出して、直接見てもらおうとを思ったのだ。

「佳奈、どう、この光坂君に撮って貰った写真?」

「恋、凄いね。これ、陰影だけでここまで、印象が変わるんだ」

「でしょ。なんか写真の修正用アプリを使ったらしいんだけど。こんなメークできるかな」

「たぶん、大丈夫。こんな見本が在るんだから」

「じゃあ、この写真、佳奈のスマホに送るね。しっかり研究してよ」

「任せてよ」

 どんと、胸を叩く佳奈。たまたま、そこにELTの授業を終えたローズ先生が、通りがかり、二人の会話を聞いていたのだ。

「篁さん。それに雅さん。今、光坂君の話をしてイタデショウ?」

「あっ、ローズ先生。光坂君の写真の出来栄えが凄いから、二人でメークの参考にしようと思って」

「光坂君が撮った写真デスカ? ワタシにも見せてクダサイ」

「別にいいですけど。これなんです」

 篁恋は、スマホをローズ先生に見せる。ローズ先生は少し難しい顔をしているが、ふっと笑顔になり、優しく篁恋に言ったのだ。

「篁さん。この写真、先生にクレマセンカ?」

「別にいいですけど、ローズ先生は、光坂君のいる光学研究会に居るんだから、いつでも、撮って貰えるじゃないかしら?」

「あのね、ワタシは被写体として、光坂君にとって魅力がないミタイデス。篁さんが羨マシイデス」

「そうなんだ。私ってプロの写真家の眼鏡にかなうほど美人ってことよね。女優目指して、今は演劇部に居るけど、まずはグラドルでも目指してみようなあ~」

「篁さん。あなたなら、大丈夫よ。ガンバッテネ」

(まったく、色気のないガキが調子に乗りやがって、アンタをおだてたのは、光坂が撮った写真を手に入れたいだけナノヨデス)ローズは、そこまで、内心では毒づいていたのだが、心の声が外部に漏れだす前に、気を取り直した。

「篁さん、早く写真をワタシのスマホに転送してクダサイ」

「そうだった。じゃあローズ先生、送りますから」

 そう言って、篁とローズは、メアドを交換して、高坂が撮った写真をローズに渡したのだ。

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