第5話 翌日、愛を迎えに行った達也は

 さて、翌日、愛を迎えに行った達也は「髪の毛のセットに、後三〇分は掛かる」と言われた。

 まったく女は、出かけるのに時間が掛かる。髪なんて、寝癖がついていようがそのまま学校に行けばいいんだ。愛に付き合っていたら俺が遅刻してしまうとばかりに、愛を置いて、天翔学園に向かっていたのだ。


 そして、校門近くで、達也は同じクラスの和田に声を掛けられた。

「おい、光坂。お前、カメラに詳しかったよな?」

「なんだ、和田? カメラがどうかしたのか」

「いや、ちょっと、カメラを落としちゃって、レンズを割っちゃったんだ。お前ならなんとかならないかと思って」

「レンズを割っただと! お前、またパンチラ写真を撮ろうとして、女子にどつかれたんだろう?」

「いや、まあ、その通りなんだけど」

「そうだろう。そうだろう。お前も、そういうの好きだからな。という事は、壊れたカメラと言うのは、結構、暗闇でも取れる例の暗視カメラか?」

「ああ、そうなんだ。昨日テニス部が練習しているところを撮ろうとして、お前の幼馴染の橘に、横からいきなり、とび蹴りを食らわされた。その時、カメラを落としてしまって」

「俺たち二人、愛にマークされているからな」

「実は、俺、あの蹴りを喰らうのが、わりと快感になって」

「わかる。わかる。俺たち、一時期、愛の目にわざと付くように、アクションカメラ小僧をしていたからな」

「そうなんだ。昨日もそれを目当てにって、何を言わせているんだ!」


 この和田という男、達也とカメラという趣味で仲良くなったのだが、達也のいたずらに付き合う内に、達也と同じく、橘愛のパンチラをカメラで付け狙うようになったのだ。

 当然、達也と同じように、愛の合気道の洗礼を受け、何度も叩きのめされているうちに、パンチラよりも、愛のムチに心頭しているようなのだ。


 そこで達也は気が付いた。こいつ、パンチラ愛が薄れてきていやがる。愛に調教されて、M男君になっているんじゃないか? テニス部のアンスコなどという見せパンを撮ろうとするのがその証拠だ。

 和田に愛の洗礼の呪縛から解き放ち、パンチラ愛を再び思い出させるためには……。よし、こいつには刺激が必要だ。そう達也は判断した。自分の事は棚に上げて、まったく、傍で見ているものから見れば、この二人、似た者同士であるのだ。


「和田、今から、部室にこい。いいレンズが部室に在ったはずだ」

「なに、これ、直してもらえるのか?」

「ああっ、お前に免じて、最高級のレンズを進呈しよう」

「そっか。それは助かる」

 達也と和田は会話をしながら、さっさと光学研究会の部室に向かう。

 そして、部室のカギを開けると、二人で、こそこそとなにやら作業を始めたのだ。

 一〇分ほど、時間が経過しただろうか。達也が口を開いたのだ。

「和田、出来たぞ。このレンズは俺が作成した物で、その辺のレンズと屈折率が違う。屈折率が違うとどう写るかと言えば、そうだな……」

 そこで、偶然、廊下側の窓から部室の前を通りかかった男子生徒に向けて、達也はシャッターを押した。

 そして、デジカメの液晶部分に、窓ガラス越しに、裸の男子生徒が写っていたのだ。

 これは、もちろん、達也が仕掛けたいたずらである。自分の持っているタブレットで、光子グラビティをコントロールして、男子生徒を照らしている光を捻じ曲げ、服を透過して肌から反射した光をレンズに集めて、カメラに上半身裸の男子生徒を写し出したのだ。

 液晶部分を覗き込んでいた和田は、驚嘆の声を上げる。

「な、なんだ。これは、どういうことなんだ?」

「いや、このカメラに付けた特製レンズ、特殊な屈折率のおかげで、服を透視できるんだよ」

「光坂ああっ!! お、お前、なんてものを作り出したんだ。俺は、今猛烈に感動している。

さらに、お前に対して、大いなる怒りも感じている。こんな偉大な発明の処女写真が野郎のはだかとは。だが、こんなものはスグに削除できる。

 光坂、俺は今、猛烈な創作意欲が湧いている。絶対に、橘愛以外の女に関心を持たないお前でさえ、感動させる写真を撮る自信に満ち溢れている」

 和田は、何を言っているのか分からないことを叫びながら、部室を飛び出して行く。

「おーい。和田、そのレンズの屈折率を有効にする撮影角度はわずかしかないから、とりあえず何百枚も取って、試行錯誤しろよ」

 達也は、口から出まかせを言って、和田を送りだした。

「あーっ、可笑しい。でも、これで、和田もカメラ小僧の魂を呼び戻しただろう」

 そういうと、達也は一人満足するのであった。

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