第4話 全校生徒の下校を促すチャイムが
そこで、全校生徒の下校を促すチャイムが鳴り出した。
「達也、もう、下校時間になったよ。一緒に帰ろうか?」
「そうだな。愛、今日も一日楽しんだ。そろそろ帰ろうか」
そうして、二人は、仲良く家路に向かう。
「達也、家に着く前に、今日撮ったローズ先生の写真、私のスマホに送信して、その後、データは確実に消しておくのよ。今夜のおかずに使えないようにね」
「ギクッ、そんなことに使わないって」
「そう? だったら消してもなんの支障もないよね。できないんだったら私がしてあげる」
そう言うと、達也が抱えていたタブレットを取り上げ、チャチャと操作すると、達也にタブレットを投げてよこした。
「ばか、いいかげんにしろよ。このタブレットには、貴重なFGCシステムが仕込んであるんだから。それから、お前に送ったローズ先生のヌード写真。お前はなんに使うんだよ。お前こそ、女が一人ぼっちで使うなんて、非生産的だぞ」
「非生産的って何よ。あの教師、大体怪しいでしょう。県教からじゃなくて、政府から派遣されて来ているところからして。だから、弱みを握っておこうと思って」
「ローズ先生が怪しいだって?」
「だって、ローズ先生が来てからよ。たった二人しかいない光学研究会に部室があてがわれ、私たちが欲しいといった機材が、どんどん部室を埋め尽くすようになったんだから」
「確かに、そうだよな」
「ねっ、きっと、政府から派遣された産業スパイなのよ。私たちの研究成果を横取りするためにこの学校にやってきたのよ」
「そうかな? あんな色っぽいスパイなんているかな?」
「あのね。女スパイは色っぽいものなの。男をたぶらかして、手玉に取るんだから。彼女らの武器は、性技に名器なんだから。達也も油断するんじゃないわよ」
「愛、お前、何か悪いマンガでも読んでるんじゃないか? そんなこと在りえないだろ。いや、それならそれでうれしいかも? 俺も健全な高校生だから、あの美人相手に童貞が捨てられるなら」
「ふん。そこまで言うなら、あんたなんて、あの女にとっ捕まって、某研究所に送り込まれて、死ぬまで奴隷のようにこき使われればいいのよ」
そう吐き捨てると、愛は自分の家に入ってしまった。
そう、二人は、くだらない話をしながら、いつも間にか、愛と達也が住んでいる新興住宅街に戻って来ていたのだ。
(愛には、ひどいことを言ったかな。確かに、あのローズ先生は怪しいよな。やたら、私を実験台に使えって、最初は、俺に気が在るのかと思ったんだけど……。それは、絶対ないか。愛の推測の方がよっぽど現実的だよな。
今みたいに、愛を標的にした愛との攻防がすごく楽しいのに、愛が言っているような研究所なんかに放り込まれたら、好きな研究もできずに、俺は野垂れ死ぬだけだよ)
達也はそう考えながら、家の中に入った愛を見届け、自分も、三軒隣の家に入って帰っていくのだった。
なんだかんだ言って、達也もローズ先生の怪しさには気が付いている。だから、今日、部室でローズ先生に研究の成果を尋ねられた時、愛に脇を突っつかれて、話題をすり替えたのだった。
ただし、ローズ先生も話題をすり替えられたことには、気が付いていたのだ。
あの二人は、なにか重大な研究が完成した。その中身が今だわからない。そのことを伝えるために、携帯を取り出し、どこかに電話をかけ始めたのだが、その内容は英語で会話を始めるのであった。
達也が、家の中に入ると、母親が出迎えてくれる。
「お帰りなさい。今日も、色々な人から、光子グラビティの発生方法について電話が有ったわよ。うるさいったらないわよ」
「ただいま、その話なら、俺のメールにもたくさん入って来ていたよ。まったく、偶然、発見しただけなのに、教えろってやかましくってさ」
「偶然発見したの?」
「母さん、そりゃそうだろう。クリスタルは元々、核分裂反応をするような放射性元素じゃないんだから、俺だって、あの時、なんでクリスタルが核分裂して、放射能を発したのか分からないよ。俺は光学研究者なんだから、そんなことは、元素を研究する化学者で考えてくれって思うよ」
「わかったわ。今度電話があったら、「うちの息子では畑違いです。そちらで何人も抱えている化学者にお任せします」と答えておくわ」
「母さん。そう言っといてくれるとありがたい」
「うん。じゃ食事の用意ができているから、さっさと食べなさい」
「はいはい」
このような状況は、愛の家でも同じようなものだった。とにかく、数か月前、達也が光子グラビティの存在を論文として、科学雑誌に発表してから、その問い合わせが、最近になって遅ればせながら、日本の政府や企業からひっきりなしに連絡してくるようになっていたのだ。
達也は晩御飯を食って、風呂に入った後、いつものように、ネットサーフィンをして、午前〇時に布団に潜り込んだ。
「それにしても、世の中、スケベな奴が多すぎるな。光子グラビティなんて、盗撮以外になんの役に立つんだよ。それにこんなおいしい技術は自分だけの物にしておいて、他人に使すわけがないだろう」
そう、達也はパンチラ以外のことに頭を使わないバカであった。
光子グラビティのコントロールが実用化されれば、どんなことに応用されるか分かったものではない。しかし、達也は、己(おの)が欲望のために、自分だけが楽しむ権利を放棄するようなたまではなかったのだ。
そのころ、愛もベッドに潜りこんで、達也が遂に完成させたFGCについて考えていた。
「達也のやつ、遂にやっちゃたんだから……。FGCの応用範囲なんて無限に広がるわ。まして、軍事技術にだって、応用される可能性もあるわよね。
私と達也だけの秘密に留めておかないと、大変なことになりそうな予感がする。洒落じゃなく軍事研究所に連行され、情報が漏れないように隔離され、死ぬまでこき使われる可能性だってあるのよね」
悪い方にばかり考えが巡る。おかげで愛は翌日寝過ごし、達也を先に学校に行かせるという痛恨のミスを犯すのであった。
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