第3話 先生、また、達也が変な装置を作って

「先生、また、達也が変な装置を作って、私を実験台にしようとしたんです!」

「違います。ローズ先生。一方的に愛にいじめられていたんです。いじめ反対! 愛をしっかり叱ってください」

「何を言っているのよ! 達也がバカだから……」

「はいはい、そこまでナノヨ。光坂君、いつも言っているデショウ。新しい装置が出来たら、光学研究会の顧問である私に原理を説明シナサイト。そうしたら、先生が実験台になって挙げると言っているハズデスヨ」

「いや、ローズ先生、いい線まで行ってるんです。でも、愛が邪魔して」

 そこに、愛が達也とローズ先生の会話に無理やり捻じりこんできた。

「だって、達也ったら酷いんです。透明メガネを作ったって言って、そのメガネで私を覗こうとしたんです。でも、その怪しげなメガネ、サングラスの裏に、女性の裸体の写真が張り付けているだけで、私をアイコラの道具にしようとしたんで、今、絞めていたところなんです」

「ホントにそうナノ?」

 ローズ先生の問いに対して反論しようとした達也だったが、隣に並んでいる愛に脇を突っつかれて考えなおしたようだった。

「先生、そうなんです。ちょっとふざけたら、愛のやつ、関節技で俺を閉め落とそうとしたんです」

「はいはい、分かったデス。そんな、エロ雑誌の広告に乗っているような怪しげなグッズを研究するために、この部室を使ってはイケマセン」

「「はい……」」

 達也と愛は、二人で首をうなだれて、愁傷な態度をローズ先生に見せている。

「まったく、ここにある機材は、企業や政府が寄付してくれて、あなたたちのために揃えているんだから、まともな、研究もしてクダサイ」

「「はい」」

「いいですか? 達也君が、この前発見した光子グラビティの発生メカニズムと有効活用を、しっかり研究スルノデス」

「「はい」」

「光坂くん。それであれば、私が実験台になることもやぶさかではアリマセン」

 ローズ先生は、達也に向かって、ウインクをすると、腰をクネクネさせながら、部室を出て行った。


「相変わらず、完璧なモンローウォークだな。エローズ先生」

「ローズ先生! わざと間違えるな」

 ローズ先生の色っぽい後ろ姿を見送りながら、達也と愛はさっきまでの修羅場は興ざめとでも言うように、平常心を取り戻していた。

「ところで、愛、さっき、俺が研究成果をローズ先生に話そうとして止めたろう。どうしてなんだ」

「だって、あれ、有効活用と言うより、私以外は防御不可能な盗撮アイテムよね。達也を犯罪者にしたくないのよ。私としては!」

「盗撮といえば、これ見ろよ。さすが、欧米人だよな。この白い肌に、腰の高さ。それに、クッとアップしたヒップライン」

「あんた。ローズ先生の後ろ姿を盗撮したの?」

「だって、俺の実験台になりたがっていたから……」

 達也が持っているタブレットのモニターには、生まれたままのローズ先生の後ろ姿が写っていた。

「達也、あんた!」

 タブレットを持った手首を握って締め上げる愛。

「痛い。手首が折れる! 愛待てって、視てくれよ。ローズ先生の肩のところ、教職者なのに、入れ墨を入れてるぞ」

「えっ、ホントだ。S.EX? セックスって、何か意味があるのかしら」

 締め上げた腕が緩んだ隙をついて、達也は、愛の拘束からやっとのことで逃れ、手首をさすりながら言った。

「このバカ力が! 大体、いつもローズ先生は言っているだろう。「私を実験台にして」って。これは合意の上の撮影だ」

「それが、そもそもおかしいのよ。盗撮されて喜ぶなんてありえない。私だって、達也に一生懸命お願いされたのならヌード撮影も、少しは考えるかも、いやいくら何でも……」

「お願いしたら撮らせてくれるのか?」

「そんなわけないでしょ。少しは考えるっていっただけなんだから。達也のご都合的妄想には付き合いきれないわ。もうローズ先生の入れ墨のことはこちらで調べるわ」

(あの色気ババアのエローズが、まさか、達也に気が在るなんてありえないでしょ。きっと、何か裏があるに決まっている。大変なことに巻き込まれないうちに、何とか手を打っておく必要があるわね。達也はこういう事にはまったく疎いから)

 愛は、ローズ先生の存在を完全に疑いだしていた。


「まあ、ローズ先生の事は、愛に任せるわ。なっ、天才ハッカー様」

「そうね。政府あたりの人材バンクにでも潜りこんでみようかしら。それにしても、達也、なんでローズ先生の写真は後ろ姿だったの?」

「いや、だって、前から撮ると色々と問題があるような……。ほら、一八禁に引っかからないように色々、俺も考えて……」

「なに言ってるのか分かんない。でも、達也、後ろ姿で正解だったよ。この入れ墨、趣味で入れてるのとは違うような……、なんか怪しい」

「だろ。このフォトングラビティコントローラー、俺はFGCって呼んでるけど。こいつは、上下左右、三六〇度、どの角度からでも狙えるんだ。

でも、成熟女性の前からの全裸写真だと刺激が強すぎるから、アイドルグラビアに良くあるような後ろ姿にしたんだ」

「やっぱり、あらゆる角度から盗撮が可能なのか……。だったらそろそろ原理の答え合わせをしない。私の光子ブラックホールはね……」

 愛はそう言うと、達也の耳元に息がかかるほど近づいて、コショコショと内緒話を始めた。

「愛、ちょっとそこは俺の弱点なんだ。息を吹きかけるな」

「こら、嬉しそうに体をよじるな! あまり、人に聞かれたくないんだから。それで、私の光子ブラックホールはね、光子の光エネルギーを熱エネルギー変換して、貯め込むことが出来るの。

「なるほど、でも、そうなると、パンツが熱くなって大変だな。あそこを火傷しないようにしないと」

「ばか、そこまで、熱くなる前に、また、光エネルギーに変換して、放出できるのよ。冬場はすごく、便利なんだから、ミニスカ仕様の制服のスカートに生足でも寒くないんだからね」

「……うーん。なるほどそんな利点もあったのか。さすが、愛だな。俺のFGCは……。

そうだ、こないだ、政府から純度100%のクリスタルを貰っただろう」

「ああ、あれね。光子グラビティは、クリスタルの核を破壊する時に発生する。それを使って光子をコントロールできるかも知れないとか言って、駄々をこねて、政府から出させたやつね」

「そう、そのクリスタルの原子核から電子をはぎ取り陽子をぶつけ合わせて核分裂を起こさせ、光子グラビティを発生させる。そして、この三次元モニターに映し出したターゲットをクリックして、光子をどう動かすかを設定して、光子グラビティをコントロールする。まあ、半径5メートルほどの範囲だけど」

「なるほど、クリスタルの核の電子をはぎ取るのがミソなのね。ところで、そのタブレットに刺しているクリスタルのUSBが、そこクリスタルを使った光子グラビティの発生装置という訳ね」

「ご名答、USBで光子グラビティを発生させるんだ」

「その発生させた光子グラビティを放出するプログラムもUSBに入っている訳ね」

「そうなんだ。放出されたグラビティをコントロールするプログラムはこのタブレットに入っているんだ。しかも、このクリスタルUSBが、タブレットのキーになっていて、タブレットにUSBを刺さないと、FGCのプログラムは絶対にたちあがらない」

「よくそんなプログラムコードが組めたわね」

「まあ、ゲームとかMMDのコードを参考にさせてもらった」

「そっか、それなら、上手く動かすことができるかもね。でも、わからないことがあるの。そのクリスタルキー、なんでクリスタルの原子核の電子が剥ぎ取られて、原子が破壊されて核分裂が起こるの。クリスタルって放射能物質ってわけじゃないわよね」

「愛、それ以上は機密事項だ。原理だけは話すわけにはいかないな。まあ、そうやって、光子グラビティを使って、光子をターゲットまで誘導し、ターゲットから反射させた光子をレンズまで誘導して、レンズから取り込む。すると、あら不思議、こんな素晴らしい写真が撮れるというわけだ」

「なるほどね。レンズに入ってくる光だけをコントロールすれば、横で見ている人には、普通に見えるから、なにが起こっているか分からないという事ね。それでコントロール時間は?」

「座標の指定を解除するまでは、ずっと継続する。写真だけじゃなく、動画もOKだ」

「半径5メートルね。達也の周り一〇メートルには、女の子を立ち入らせないわ」

「いや、お前以外に、FGCは使わないって」

「そんなの信用できないよ」

「いや、お前だからこそ俺は燃えるんだ。愛以外には使う気になれないんだ」

 たしかに、今までの発明品が、愛以外の生徒に使われたことはない。しかし、今回の物は、いままでと技術レベルが違う。現にローズ先生には、何の躊躇もなく使っていた。そう考えた愛は、(光子ブラビティの発生を感知するセンサーだけは造っておいた方がいいわね)そう決意するのであった。


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