第2話 達也は愛に向かって叫んだ
達也は愛に向かって叫んだ。
「そう、そして、ついにその光子グラビティを制御して、コントロールする周波数と波形を見つけたんだ」
「いやな、予感しかしないんだけど……。まさか、それの写真技術への転用でも思いついた?」
「そうだ、まあ、こういうことなんだ」
そう言うと、机の上に放り投げていたタブレットを手に取り揚げ、操作をすると、どこからレンズを向けているのか? タブレットの画面上にはレンズを向けていない、清楚な制服姿の橘愛の全身を写しだした。
愛はなぜか背中に快感と不快感を併せ持つ悪寒が走ったのを感じた。
「ふはははっ、橘愛、今まで散々俺の研究の邪魔をしてくれたが、それも今日までだ。今日こそ、おまえとの不毛な戦いに終止符を打つ。悪いがパンチラどころじゃないぞ。お前の全裸写真を貰い受ける!」
そう叫ぶと、光坂達也は、タブレット上のエンターキーを押す。
「達也、それでどうなったのかしら?」
「いや、待て、なんだこれは?」
タブレットの画面には、確かに、着ている制服を透過した全裸の橘愛が映っている。ただし、胸と下腹部の部分は、真っ暗でそこには、何も無いかのように写っているのだ。
そう、橘愛は決して、真っ黒いランジェリーを身に付けているわけではない。
「これは……、ブラックホールか? 愛、お前、男の欲望すべてを飲み込むブラックホールを胸と股間に仕込んでいたのか?」
「ばか、違うわよ!! 達也!」
光坂の頭に、橘愛の回し蹴りがクリーンヒットする。先ほどの紹介で言い忘れたが、橘愛は合気道の有段者でもあるのだ。
薄れゆく意識の中で、蹴りあげた瞬間、制服のミニスカートからちらっと見えたスカートの中身は真っ暗な暗闇が広がっていたのだ。
「深淵を覗こうとしたら、真の暗闇に囚われることになった。by達也」
大の字に伸びている達也に向かって、勝ち誇ったように達也の股間を踏みつける愛。
下から見上げるようになった達也の目には、愛のスカートの中身は、やはり真っ暗でなにもない暗闇だった。
「くそ、何がどうなっているんだ? そこに何があるというんだ?」
思わず、暗闇に手を伸ばす達也。
愛は、その手にびっくりして、飛びずさり、大声を上げた。
「バカ! 見えなくても、ちゃんとそこには女の子の大事なものがあるんだから、勝手にさわらないで!!」
「えっ、今、一瞬触れたのは……」
「なに、手の匂いを嗅いでいるのよ。私はいつも清潔にしているんだから。
それより、あなたと私の戦いもこれで終わりよ。私は、すべての光子を100%吸収する塗料を開発したの。黒い色は光を吸収することにヒントを得てね。言葉にこそあるけど、だれも見たことがない漆黒の闇。その塗料で染め上げた生地で作ったランジェリーは、光を反射しないんだから、誰の目にも不可視になるのよ。もちろんカメラにも写らない」
「ば、ばかな、光を一切反射しない素材なんて、物体が反射した光を集束して写すカメラじゃ、写るはずがない。そんな素材が制作可能だなんて……」
やっと起き上がったところで、手と膝を付き四つん這いになったまま、達也の肩は震えていた。
「達也が、光子グラビティを見つけた段階で、ピンと来たのよ。いずれ、達也は光を通すはずがない物質さえ、体積も質量もないフォトンを捻じ曲げ、原子の間を無理やり押し通してくるって。どう、私の推測通り、光子グラビティをコントロールして、服を素通りさせてきた。
私が開発した光のみを吸収する素材、名付けて光子ブラックホールの威力はどう? 計算上は光子力ビームでさえ、吸収して無力化するはずよ」
「ふ、ふざけるな! くそ、こうなれば、クラスの女の子全員をターゲットに……」
達也は立ち上がり、出口をふさぎ、両手を腰に当て勝ち誇っている愛の横をすり抜け、タブレットを抱えて、部室を飛び出そうとした。しかし、愛は達也の首根っこを摑かまえて、達也の行動を阻止しようとする。
愛の手から無理やり逃れようと、体を捻った瞬間に、達也の肘が、愛のDカップの胸めり込んでしまった。
「痛い。達也。いい加減にしてよ。どさくさに紛れて私の胸に触ったでしょ!」
「ち、ちがう。ワザとじゃないんだ。だれが、お前の胸なんか」
「絶対ワザとだもんね。達也の私の対する執着は、変態の域に達しているもん」
「人を変態っていうな!!」
「変態に変態って言って何が悪いのよ!!」
愛は達也の背後を取り、右腕をねじり上げて、首をチョークで固める。
達也は背中に当たるまるく柔らかいものに、気を取られて、全身の神経を背中に集中させていた。
(愛は俺の背中に胸を押し付けていることを自覚しているのか?)
そんなことを達也は考えながら、抵抗を止(や)め、おとなしく後ろから羽交い絞めにされているのだが、愛はそんなことでは攻撃の手を緩めない。達也の背中にさらに自分の胸を押し付け、キリキリと達也の頸動脈を締め付ける。
達也の意識が幸福感の中で、朦朧とし、あと一息で落ちるというところで、部室のドアが開けられたのだ。
「あなたたち、相変わらず何やっているのデスカ? 仲がいいからって、独身の私に見せつけないでクダサイ」
片言の日本語で注意しながら、部室に入って来たのは、二十代半ばを過ぎた金髪の美女で、ボンキュボンの体形からは、色気を溢(た)れ流すエロスの女神と影で噂されている、光彩学園のELTの講師として派遣されているローズ先生であった。
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