1の二 そんなの知らないよ…
アメリアイアハート魔法学園の学生寮は二人で使う形式になっている。
学習机とベットだけが個室にあり、その他の水回りは共有スペースなのだ。
入学式から戻ったライラは、自室での荷解きを終え---持ってきた私物がほとんどなかったため、すぐに終わった---少し早いが食事に行こうと個人スペースの扉を開けると、共有スペースにいつの間にか置かれたソファに一人の小柄な生徒と、使用人のような人物が立っていた。
そのさらされたうなじに浮かぶ
ライラが出てきたことに気づいた生徒ーーーフィメル生徒が、ライラの目の前に立ち、返事をしないライラに訝しげな顔を浮かべるまで、ライラは動けずにいた。
慌てて表情を取り繕うものの、彼女は驚きの理由がわかるらしく、苦笑いを浮かべていた。
「あなたがライラックさん?初めまして、ミシェーラ=ビリンガムです…フィメルがいて驚いた?」
「いえ、---失礼しました。その通りです、不快な気持ちにさせたならすみません。」
「新入生はみんな同じような反応をするから大丈夫よ。それに、私もあなたの髪の色には驚いてしまったからおあいこね。」
うなじにそっと手を当てた後、ライラの方を見てニコニコと笑う彼女に改めて謝罪しつつ、こちらも自己紹介する。
「ライラックーーーあっ、魔法使いって、真名言っちゃいけないんだっけ!?」
魔法使いは名前を言わないらしい、これは初等部の教師が教えてくれたことだ。
ライラのために彼は本当に色々と調べてくれたのだ。
その言葉を思い出し、どうしようかとライラが固まり、内心でパニックになっているとーーー笑顔を浮かべているミシェーラがフォローしてくれた。
「真名は魔法言語で教えなければ平気よ?術にかけられるから、気をつけましょうね。…一般言語でなら、名乗って大丈夫。王族に仕えるってなると、一部の人はコードネームを名乗る人もいるみたいだけどね。」
ミシェーラの言葉で、ライラはほっと息をつく、
そして、一人で慌ててしまったことが恥ずかしくなった。
幸い、ミシェーラはライラのたどたどしい自己紹介を笑顔で聞いてくれたが。
ミシェーラと握手した後、ライラは改めてミシェーラをマジマジと見てしまった。
---12歳でフィメル…つまり、女性がいることはかなり珍しい。
この世界が前世と大きく異なる点として、一つ目が魔法、そして二つ目が…この、性の違いだ。
なんと、人間は中性、つまりニュートで生まれてきて、パートナーになりたい相手を見つけると性分化が起きる。
「愛」で性別が決まるなんて言われていて---初めて聞いた時には衝撃を受けた。
自分が前世でフィメルだったかマスキラだったかは思いだせないのだが…愛で性分化なんて、ずいぶんとロマンチックな世界だと思った。
ちなみに、同性愛は普通にあるらしい。
性分化するかは自分の感情次第らしく、相手に断られると結婚できないため…結果として同性をパートナーとして選ぶものも多いらしい。
ミシェーラに話を戻すと、「彼女」は12歳にして結婚したいような相手を見つけているということになる。
使用人さんなんているし、ずいぶんといいところのお嬢様なのかもしれないとライラは思った。
「---ところで、ライラは筋トレは一日にどれくらいする?」
「---はい?すみません、今なんて?」
お人形さんのような彼女が、大きな瞳を輝かせていきなりそんなことを言ったため、ライラは思わず聞き返してしまった。
聞き間違いかと思ったのだ。
「ふふふ、同級生なんだからもっと砕けた喋り方でいいのに。---だから、筋トレの時間よ。出身、得意魔法…次に筋トレの時間が大事よ。」
ーーーえ、何言っているのこの子?
残念ながらライラの聴覚が異常をきたしたわけではなかったらしい。
一見常識人に見えるのに、突然筋トレの時間について質問され、ライラは非常に困惑してしまった。
---もしかして、上流階級では筋トレが嗜みなのか!?魔法、ダンス、勉学、筋トレ…ってこと??
他の人の反応が知りたくなったライラは、バッと使用人さんの方を見る。
彼女は、処置無しと言わんばかりに顔を覆っている。
目が合うと、すみませんと手振りで謝られた。
---どうやら、おかしいのはミシェーラの方らしい。
筋トレはしていないと言うと、ミシェーラはスンっと真顔になり---その後、筋肉のすばらしさについて語り始めた。
使用人さん---クーガンというらしい、クーガンが止めるまで筋肉談話をし続けた彼女は、話を
「---つまりね、毎日鍛えればライラもマッチョになれると思うの!」
「いや、マッチョになる予定ないし。」
間髪入れずに返すと、ミシェーラはこの世の終わりのような顔をした。
同室のマッチョとの学園ラブが夢だったらしい。
そこでライラにはまた新たなる疑問が浮かんだ。
「---え、ミシェーラは誰かを思ってフィメルになったわけじゃないの?」
「私は筋肉全般を愛しているの!気づいたらフィメルだったけど、お相手はいつも募集中よ!」
ーーーそ、そんなことあるの!?
後程わかったのだが、彼女はかなり特殊な例だった。
質問した相手に、「それ重度の変態じゃない?」と言われたのはミシェーラのために聞かなかったことにした。
まあ、叶わぬ恋をしているよりはいいのだろう。
たとえ、筋肉を愛しすぎるばかりにお目付け役としてクーガンが実家から派遣される事態になっているからといって、悪いことではないのだ。彼女自身は幸せそうだし。
その後、あまりのミシェーラの情熱に負け、ライラは一時間ほど筋トレすることが日課となる。
ライラは筋肉が付きづらい体質らしく、ミシェーラを満足させるには至らなかったのだが、それは自分のせいでないと反論したライラを誰も責めることはできないだろう。
◯
入学式の翌日からは早速授業が始まった。
授業開始日、空は快晴。
一年生は、朝から芝生の植えられた実技場に集められた。
HRよりも、何よりも先に行われたのがーーー防衛魔法の取得だ。
イアハート校長が実技場の中心に立っている。
イアハートの横には副校長が立っており、名簿を片手に入ってくる一年生の出席確認をしていた。彼は神経質そうな見た目を裏切らず、時間ギリギリまで集まらない生徒に、苛立ちを見せている。
一年生たちは、戸惑いながらも校長の周りに集まった。
「あのおっさん誰?ーーー校長!?」
「昨日と別人じゃん!」
口々に囁く声が聞こえているのか、イアハートは口元に笑みをうかべている。
イアハートの白髪まじりの濃紫の髪は、ぴっちりと後ろに撫でつけられ、目元には刃物で切られたような傷がある。
白いローブに身を包み、右腕にはグレイトブリテン王国の魔法使いの頂点ーーー黒竜団の団長の身がつけることを許されている金の腕章が輝いている。
ピンとした姿勢で立つ姿は、生徒たちに映画の中で見るような歴戦の軍人を彷彿とさせた。
ちなみにライラはこの学園長のことをすでに大好きだ。
というのも、入学試験の面接でライラが「黒竜さまを助けたいんです」と言っても、馬鹿にすることもなく真剣に
最後の生徒が入ってきた後、副校長が静かにするように!と叫んだ。
生徒たちが口をつぐんだのを見てーーーイアハートが前に一歩進み出た。
「防衛魔法を一番にお前らに教える理由ーーーそれは、この学園内では『事故』が頻繁に起こるからだ。…わかっていない奴も多そうだな。一般人ーーーいわゆる白の人々の世界で生きてきたお前らは、目にしたことがないだろうが魔法の誤発で起きる事故は普通の事故とレベルが違う。ーーー副校長、去年ふっとんだ建物の数は?」
挨拶もなく、突然始まった学園長の話。
生徒たちは怪訝な顔をしていたがーーー副校長が告げた数字に顔色をなくした。
「一階建ての建物が三棟。三階以上が五棟ですね。」
「う、嘘だ…。」
「だって、建設現場なんてどこにもなかったぞ?」
ざわつき始めた生徒たち。
しかし、学園長は彼らを一喝することで黙らせた。
「まず第一に!ーーーこうやって、教師が話しているときは、最後まで口を開かないこと。…注意事項はとても大事だ。死にたくなけりゃあ、話を聞け。そして、どんなに気を付けても事故は起きる。学園の教師たちは、建築魔法の免許持ちが多いから、建物は直せるが死んだ奴は戻ってこない。ーーーだから、まずお前らには、防衛魔法を教える!死ななきゃ治癒専門のやつがどうにかするから、即死だけでも防げるようになれ。」
イアハートがそこまでいうとーーー隣に立っていた副校長が、空間魔法の施された箱から、ホワイトボードのようなものを取り出した。
ホワイトボードに向けてーーーイアハートが魔力でいくつかの文字を書きつけた。
ーーーPROTECTION
「ーーー魔法言語で、防御の意味だ。ここにある箱に、俺が作った魔道具の一種…魔法ペンがあるから、それを使って書け。俺の魔力を練ってあるからどんな魔力が弱い奴でも自分の魔力を混ぜてシールドって叫べば、魔法壁が展開できるようになる。」
取りにきなさい、という副学園長の指示に合わせて、ぞろぞろと一年生が前に集まっていく。
ライラも立ち上がって、魔法ペンを受け取りに行った。
透明なガラスのようなペンの中に紫色の液体が入っている。
紫色の液体がイアハートの魔力だろうな、などと考えながら、せっせとマントの隅に魔法言語を綴っていく。
ーーーこの魔法ペンがあれば、私でも魔力だ使えるなあ。
ライラは、ほとんどインクのなくなってしまったペンを見ながら、そんなことを思った。
あとからミシェーラに、たったの数文字書くだけで家が一つ分くらい買えるような魔道具だと聞かされて、諦めざるを得なくなるのだが。
防御魔法だけは、イアハートが特別な方法を用いて毎年教えているらしい。
普通の魔法はこれほど簡単に習得できないことをライラはこの先知っていく。
生徒たちは自分のマントに防御魔法をつづり終えたあと、ペアを組まされ、お互いのシールドが発動するかの確認をしあった。
ライラは昨日のうちに購買で買ってきた杖を取り出し、隣に座っていたミシェーラと一緒になって魔法をぶつけ合った。
魔法と言っても、魔法使いならくしゃみすると飛び出すような、本当に小さな球なのだがーーーシールドと叫びながら魔力を込めることで、自分たちの周りに金色のドームが現れること、シールドが魔力をはじき返すことを確認する。
イアハートは全員が防御魔法を覚えたことを確認したあとでーーー生徒たちを剣技場へと案内した。
普段は部活動で使われているというその場所でーーーまたもや、生徒の度肝を抜くようなことを言いはなった。
「よし、今からこの剣技場を爆破する。全力でシールドを貼れよ!3、2ーーー」
突然はじまったカウントダウン。
生徒たちはあんぐりと口を開けていたがーーーイアハートの真剣な表情と、副学園長が真っ先に防御魔法を展開したのを見て、慌ててシールド!と口々に叫んだ。
ライラも訳がわからぬまま、とりあえず、自分の中のありったけの魔素を動かして、防御魔法を発動させる。
全生徒が金色のドームに包まれた次の瞬間、イアハートがニヤリと笑ってーーー魔力を爆発させた。
ドッカーン!!!!
凄まじい衝撃波がライラたちを襲う。
副校長はいつも通りの神経質そうな表情で立っていたがーーーこっそりと、魔力の壁が薄かった生徒の補助をしていたようだ。
ライラは爆風の中で、右手で防御魔法を展開している副校長が、開いた左手を何度か手を振った後で、その方向にいた生徒の金色の壁の輝きが強くなるのを見た。
爆発自体は数秒間だったが、新入生にとっては永遠にも感じる時間が終わった後、剣技場だったその場所には、何一つ残されていなかった。
外壁の煉瓦から、建物を支えていた石の柱、窓ガラスに至るまでーーーイアハートが魔力で木っ端微塵にしたらしい。
見事な更地に、ライラは思わず感心してしまった。
晴天の下で、イアハートが「全員生き残ったなー」などと言っている。
ーーー多くの生徒は、いまだに衝撃から抜け出せていないようだ。泣き崩れている生徒もちらほらと見受けられる。
シールドを解除することもなく、ぽかんとした表情で、イアハートを見つめている生徒たち。
イアハートはそんな新入生たちを見ると、ニヤリと笑った。
「わかったと思うが、魔法の事故はとんでもない。今やったように、教師から防御魔法の指示が出たらーーーきちんとした、防御魔法を習う四年生までは今みたいにシールドを張りなさい。お前ら、わかったか?」
返事もできずに茫然とする生徒たちに向かってーーー副校長の叱責が飛ぶ。
「校長のお言葉がわかった生徒は返事。」
「「「は、はい!」」」
イアハートは、一年生たちの様子を満足そうに見やりーーー副校長から手渡された白い粘土のようなものを空中へと放るとパチンと指を鳴らした。
すると、イアハートから、大量の魔力が溢れ出す。
虹色に光を放ったイアハートの眩しさからライラが目を背けた。
そして、次の瞬間、信じられないというように目を見開くことになる。
太陽の光がさんさんと降り注いでいたはずのその場所は…一瞬で元の「剣技場」に戻った。
そして、肝心のイアハートは、いつの間にか姿を消しておりーーー副校長の一限の特別授業はこれで終わりとする!という声は、生徒たちのどよめきにかき消されたのだった。
◯
衝撃的な一限目の後。
授業の合間を縫って、部活動の紹介や生徒会の紹介などがあったのだがーーーライラはそのどれにも所属する気がなかったため、それらの説明を聞き流していた。
魔法学校なんて名前なので、どんな授業があるのかとライラはワクワクしていたのだが、蓋を開けてみると一年目は前世の学園生活とたいして変わらなかった。
1、2年のうちは8割が座学、残りの2割が実技といったところか。
ーーー3年からは実践の授業が増えるのか。魔法薬学とかーーー黒魔法なんてのもあったっけ。
魔法発動にだいぶ難のあるライラに高学年の授業が受けられるのかはさておき、ライラははじめに受けた説明で、高学年で行われるいかにも「魔法学校」らしい授業科目にワクワクとした気持ちになった。
そして、流行もライラのいた一般生徒が大半を占めていた初等部の学校とは大きく異なっていた。
そのうちの一つが魔石を埋めこんだ、サークルペンダント。
自分の一番得意な属性の魔力を溜め込んでおけるこのペンダントは、魔法使いの必須アイテムと言っても過言ではない。
ライラも青い立派なものを一つ持っていた。紛失防止のチェーン付きで、いつもライラの胸元に輝いている。
魔法士団に所属していた父の形見だ。
ライラにとっては、大切ではあるものの魔道具であったそれもーーー学園の生徒の間の認識は大きく異なることがわかったのだ。
中心の魔石の形やカット方法、周囲の金属がどんな素材でできているか、石を何個つけるかーーー生徒たちの間では、あの先輩のものがかっこいいだとか、あの店で新作が出ただとか…ライラはついていけなかったのだが、とにかく様々な種類の装飾が施されたものを皆がつけていた。
ライラの青魔石のペンダントが、その青魔素濃度の高さと大きさから、密かに上級生の間で話題になっていたことも、ライラは知らない。
どこのブランドか、いくらしたのかという推測がなされーーー父親が亡くなった際の形見魔石だということが、学園在籍中のライラの親戚によりバラされ、納得の声や同情の声が上がっていた。
繰り返すようだが、当の本人は全く知らない。
他にライラが気になったのには、魔法使いの移動手段である魔石プレートだろうか?
ライラは、国内産の庶民的なケイマ社のケイマプレートが一番だと思っているのだが、学生たちの間では、外国産のものや王室専用のものなどが話題だった。
サークルペンダント以上にライラは関心がなかったため、あまり詳しくは聞いていなかったのだが…ともかく、学園内を爆速で通過するプレートがあることへの納得がいったライラだった。
そんな学園生活を楽しめているのかいないのか怪しいライラは、魔法学校でミシェーラと共に行動することが多くなっていた。
一、二年のうちは全員が同じ授業を選択するために、同じ学年の生徒は1クラスに集められている。
入学者の人数が三十名ほどだから分ける必要も無いのだ。
アメリアイアハート魔法学園はグレイトブリテン唯一の魔法学校なので、魔力保持者の少なさが伺えるというものだろう。
隣国の大国になると、入学者が何百人もいたりするらしいが…外国に行く予定のないライラには、今のところ関係のない話だった。
筋肉愛がすごすぎることを除けば、ライラにとってミシェーラは理想的な同室者だった。
多くの生徒がライラのことを無視したり、嘲笑したりする中で、彼女はごく普通の友人としてライラに接してくれたからだ。
彼女は恐らくとても育ちがいい。(日々、ライラでも知っているような高級ブランドのロゴが入ったサークルペンダントをつけている。また、種類も多い。ライラはこっそり自分で調べたのだが、一つ一つが国家魔法士の年収くらいの額だった。)
顔も黙っていればかわいいし、魔力も豊富で成績もいい。
つまり、人を恨む必要がないのだ。心の余裕って大事だなとライラは思っている。
ちなみに、ミシェーラはペガサス部なるものに入ったらしい。
ペガサスを乗りこなす練習を日々しているのだとか。
ペガサスは、上流階級の間で人気のある魔獣だ。
空を飛べるため、機動力に優れているしーーーなにより見た目がいい。
この国では、ペガサスに乗った王子様が迎えにくる童話があるくらいだ。
ペガサス部は、ミシェーラの話を聞く限り、いわゆる「お金持ち」の生徒が多く所属していそうだ。ミシェーラは商家の知り合いに誘われたと言っていた。
ライラもミシェーラに誘われたが丁重に断った。どうみても浮きそうだったからだ。
ミシェーラは残念そうだったが、ライラは授業の課題に忙しく、部活をしている余裕がないという理由もあった。
授業の方はーーーライラは、座学はいいのだが…実技は常に最下位だった。
魔法が発動しないのだから当たり前なのだが…なんとか対策を見つけないと一年目の前期から試験で不可をもらってしまう。
そして、在学中に二回不可をくらったら、退学だ。
この点、ものすごくシビアである。猶予処置などは一切ないらしい。
大体3割程度の生徒が卒業できないと聞かされーーーライラは頭を抱えた。
まあ、すぐに切り替えて、せめて座学はしっかりやろうと勉強し始めるあたり、ライラは「大人」だったが。
一番苦手とする攻撃魔法の授業があった夜、アルフ先生から出た課題レポートを自室の共有スペースでげっそりしながらこなしていると…
通りがかったミシェーラがレポートを覗き込んできた。
「アルフ先生って文字まで力強いのね…本当に素敵だわ。」
ふう、とため息をつく彼女は非常に可憐なのだが発言が相変わらずの残念さである。
攻撃魔法のアルフ先生は「ザ・脳筋」というタイプで、ライラは苦手なのだが…ミシェーラとしては上腕二頭筋がたまらないらしい。
以前、既婚者だよ?と言ったら、知ってるわよ、だからニュートの生徒に声をかけてるんじゃない、と真顔で言われてしまった。
要は騒いでいるだけらしい。
夢見るフィメルのようで、彼女は意外と現実的である。
「課題のレポートを毎日遅くまでやるライラは可哀そうだけど、アルフ先生とたくさんお話しできるのだけはうらやましいわ。」
「じゃあ変わってほしい…このままじゃ中間試験通らないし、早速ピンチだよ。」
はあ、とため息をつくライラに、ミシェーラが不思議そうな顔で言った。
「---思っていたのだけど、ライラは杖…の購入はしてたわね。…後は魔法陣を早めに習得した方がいいのじゃない?あれなら魔力があれば発動するわよ?」
ミシェーラの言葉にライラは頷いていた。
後半には首を傾げることになったが。
杖は入学式の日に購買で買った。
3000ポンの出費だった。祖母からお小遣いを最小限しかもらえていないライラはその日の昼食を抜いていた。ミシェーラが哀れんで、パンを分けるというやりとりがあったので、二人はその日のことをよく覚えている。
ライラを驚かせたのは、この世界で杖を使うのは落ちこぼれの証だということだ。
魔法使いの杖は、前世でいうプールのビート板のようなものなのだ。
あれば魔法が使いやすくなる。でも、発動は遅れるし、何より戦闘時は邪魔だ。
しかし、ライラは杖がなくては体の中で自由に魔素を動かすことすらできない。
杖を用いて、なんとか魔素をひねり出しても、魔法の発動ができていないのが現状なのだが。
「---魔法陣?それって3年から必修になる?」
「ええ、でもライラは普通の発動ができないから、魔法陣を描くのが必須だと思うのよね。魔力変換効率は悪いし、実際の戦闘には不向きかもしれないけど、1、2年の授業くらいならどうにかなると思うわ。」
「---ミシェーラ、君は天才だよ!筋肉にしか興味がないって思っててごめんね!」
「…ライラ、最後の一言は余計だわ。魔法陣の担当はちょうど明日、基礎魔法学の授業があるフレイザー先生よ。授業の後に聞いてみたら?」
ミシェーラの言葉に、ライラは腕をばっと広げる。
ミシェーラは抵抗することなくライラのハグを受け入れた。
しかし、ミシェーラは不満顔だ。
ライラは胸筋が足りないと言われた。
毎日筋トレしているが、ミシェーラのお眼鏡には叶わないのだった。
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