第5話

新宿トンネルを出て富沢西の交差点に向かう。ここはいつか見た道だった気がした。


交差点には止まりたくない。減速し交差点の信号のタイミングに合わせる。


左手車線を走って左右の道路を見た。右から走ってくる車がいないとわかるとスピードを抑えていた。


バイクのスピードを上げた。サイドストーム 前輪をロックさせて後輪を回転させる。空回りをさせる。


爆音と共にバイクを横にさせていく。サイド ストームは彼の言い方を始めた。


後ろを見ると物凄い人の流れが見える。なぜ 彼は信号を守るのか 疑問だ。


赤から青に変わった。前をロックしているブレーキを外した。バイクは物凄いスピードでコーナーを出て行く。後ろから来る人を置き去りにしていく。


一気に加速していく。エキゾーストを尾にして引き離していく。ムラサキの尾を従えてガードを漕ぐる。


大ガードを漕ぐっていく。あっちこっちにパトカーが止まり、お巡りさんはどこかに消えている。


そのままに青梅街道に入った。道幅はグウと狭くなる。脇を通おうろにも狭くて走れない。左折して甲州街道に移動する。


道は通常のように流れている。安心したのか太樹は前のテールを見て走る。前の車の室内に室内犬がいた。


信号で止まると、後部座席にいて睨みつけている。人ではなく犬が低い声で唸っている。


ヨダレを垂らし、唸り声を上げている。

「なんだろうねぇ こんな声で吠えたことがない

静かにしなさい」と手を差し出すとその手に被りついた。


強く強く噛み砕くつもりだ。鼻から鼻水を垂らし、汚ならしい。鼻が使えないのだろう。首を使って手を噛み砕かという男の喉元を喰らいつく。


そして その妻だろう。喉元に食らいつく。


前の車が移動しているのに、その車は移動しない。その車を運転する男は絶命しているのだから当たり前だ。


その状況から犬は感染したことが想像できる。決して吠えない室内犬だ。太樹はすぐ様にその状況に車を抜き去っていく。


助けることがなど考えるはずもない。己のことさえ考えて生きて行けばいいだろうと周りのことなど考える暇がない。


寂しさを覚えながら走り続ける。川を通り過ぎると煙突が見えてきた。右に曲がる。


単車を止めた。サイドスタンドを立てた。

玄関の引き戸を引いた。


「おばあちゃん 元気かい?」

「あぁ 太樹かい? どうしただい こんな時間に」


「おばあちゃんのことが心配だった」

「そうかい そんなこといいから それより自分のことを心配しなよ」


「上がるよ」

「大丈夫だよ」


「お婆ちゃん テレビ見てないの?」

「テレビで何をやってるの」


「なんだいこれは 太樹」

「俺聞かれてもわからないよ」


「電話を使いたい 電気貸してくれる」

「いいよ」


ポケットにいれたコードをつないで電源に入れた。

電話をかける。

「もしもし アキナかい」

「なによ それより 明日何時に来るの?」


「今から会えないかい」

「今から 別に用事ないけど」


「じゃあ 行くよ いいね それと別に自分が行くからといって特別な格好しなくていいから」

「別に特別な格好しないよ 太樹でしょう」


「じゃあまた」

「じゃあ」

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