第3話
駅に向かった。足を一旦止めた。冷静に考えろと自分にいい聞かせる。
足を止め、みんな向く方とは逆に方向に流れ出す。パニックになっているんだ。と自分に言い聞かせて足を進めた。
先程の道には来ていた。もう誰もいない。あれほど騒いでいた保護服を着た男もいない。ただ二つの保護服が置いてあった。それとマスクとゴーグルが置いてあった。
ちらっと見て先程急ぐ。どこかすれ違ったのか、脇道を言ったのか。わからない。
今気にすることではない。目的を明確にした今はそんなことを気にしている意味がない。
自分のバイクだ。それが目的だ。
Keep out規制線を跨ぐ。一番端に置かれていた。シートを被ってる。
シートを取るとZⅡが見えた。ポケットに入れた。定期券に縛りついている鍵がある。
その鍵を引きちぎりにバイクのキーホルダーに入れた。エンジンは深い眠りから覚めるように爆音を立てる。
「メットがない」と呟いた。ノーヘルでいけるほど世界はまだ混乱しているとは思えない。
マンションを見た。人は誰もいそうにない。
今なら行けるかと考え行動に移す。エレベーターは避けて非常階段で上がった。
ここは4階自分の部屋へ急ぐ。階段を駆け上がったせいか疲れか、それとも好奇心か隣の部屋を覗きたくなる。
袖を伸ばしてドアのノブを持つ。そしてゆっくりと回した。部屋の鍵はかかっていなかった。
ドアをゆっくりと引いた。ドアが空いていく。中を覗き込む。
2人で暮らしていたのか。
女性がいだことが考えられる。細々した置き物がある。男性だけ女性だけと言った風景ではない。
それに足元には靴がある。男性もの女性もの靴がある。下駄箱も見た。その中も靴が並んでいる。
下足せず、ビニール貼られた廊下を歩く。消毒液の匂いが鼻をつく。
そして ドアを開けた。そこには血しぶきがあった。なにがあったのか? わかった気がした。
子供がいたんだ。その子が電話をした。そこから始まった。なぜかわからないがその情景が浮かび上がった。
一晩寝れば想定できる気がした。説明できる気がした。
さてと自分の部屋に戻ろうと急いでその場を後にする。部屋に帰っても靴は脱がず、革ジャンとグローブを取り部屋を出て行った。
階段を駆け下り外にでる。鎮まり帰った駐車場に行きつくまで息をしていなかったように大きく息をする。
単車のシートは外れたままだ。ZⅡに跨るとエンジンをかけた。爆音を立ててバイクは右に折れた。右折したのだ。
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