二章

 プロポーズをされた日のことだ。

 その日も私達はいつものように美味しいお店に出かけていた。

 武蔵野の緑豊かな道に、夕陽がきれいに色を付けている。

 手をつないで歩いていると、急に彼は足を止めた。

 「どうしたの、蒼さん?」と声かけてみたけど、返事はない。

 そして、突然彼が「柚(ゆず)。僕とこれから先も、東京で暮らしてくれませんか?」と言い、私を抱き寄せてきた。

 175cmと背が高い彼の胸に、私は顔を埋める。

 筋肉質というより少し痩せた体型なのに、しっかり私を支えてくれる。

 私は最初どういう意味かわからなかった。

 だって、なんの脈絡もなかったから。

 でも、見上げると彼の顔が赤くなっていて、プロポーズなんだと気づき、私も胸が急に熱くなった。

 それは不器用で、でも真っ直ぐな彼らしいプロボーズだった。

 

「はい。よろしくお願いします」


 私は、笑顔でそう答えた。

 あの瞬間、私は世界で一番幸せだと感じたのだった。

 これから何も怖いものなどないと思えた。

 だって好きな人と、これから先もずっと一緒にいられるのだから。  

 

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