最初は、巨大なシャンデリアかと思った――否。


 それは、

 ――そう、花嫁は、あまりにも長かった。


 人間の体を無理矢理引き伸ばしたかのような歪な人影が、音もなく、静かに、滑るように、階段から、ゆぅっくりと、ゆぅっくりと、降りてくる。


 その体に、幽玄の光を纏いながら。

 その顔を、純白のベールに隠しながら。


 ただ悠然と、エントランスに舞い降りようとしている――その姿が。


 あんまりにも美しくて、得体が知れなくて、俺も、Mも、Kも、ただ、ただ、その場で凍り付くことしかできなかった。


 目の前でなにが起きているのか分からなかった。心臓だけが跳ね上がって、その振動はやがて、体へと伝わり――やがて。


 パキ、と。


 誰かが、ガラス片を踏んでしまった――その瞬間。


 花嫁の動きが、ぴたり、と止まった。


 体が震えるのを、必死で堪えた。声が漏れないように、必死で耐えた。ただ、ただ、あの異形の花嫁が、こちらに気が付いていないと信じて、ただじっとしていることしかできなかった。


 永劫にも思える時間が過ぎ去った後、花嫁の首がとこちらを向いた。


 気が付いた時には、もう、花嫁のベールが目の前で揺れていた。


 ベールの向こう側で、薄紅色の唇がゆぅぅぅぅっくりと動くのを、俺たちはただ、見ていることしかできなかった。


「―――お前じゃない」 


 そう言い放った花嫁の声は、今までに聞いたどんな声よりも、冷たかった。




 



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