エントランスを通り過ぎ、螺旋らせん状の階段を上って二階に進む。


 一階も相当な荒れ具合だったが、二階はさらにひどかった。通路の窓ガラスはそのほとんど割れていて、地面はガラス片まみれだった。空っぽの花瓶がそこら中で倒れて、近くには必ず枯れた花が転がっている。


 客室はどれも鍵がかかっておらず、好き放題に出入りできた。客室のベッドは時間が経過しているとは思えないほど整っていて、埃をかぶっていることさえ考慮しなければ、そのまま眠れそうだった。


「なんだ。思ったより大したことねーな」と、Mが客室の調度を眺めながら言う。

「まったく、拍子抜けって感じだな」と、Kが肩を竦めた。


 俺は、そんな二人の言葉に決して同調できなかった。寒かったからだ。

 どうして二人は、こんなに普通でいられるんだろうか? 本当に、俺が必要以上に恐怖しているせいで、ありもしない感覚を味わっているだけなのだろうか。


 その後も、探索は何事もなく進んだ。怪しい物音がすることもなければ、人影や、幽霊らしいものも出てこない。


 俺は内心、ホッとしていたね。やっぱり、今まで感じていたのは俺の勝手な錯覚だったんだと。MとKは相変わらず、気さくに喋ったり、笑ったりしているので、いよいよ二人をとても頼もしい存在だと思うようになった。


 二人が言うように、やっぱり俺って女々しいのかもな、なんて。

 勝手に、そう決めつける自分がいて。


 しばらく廃墟を歩き回った後で、そろそろ帰るか、という雰囲気になった。

 俺たちは螺旋階段を下り、エントランスに向かった。


 そして、階段をちょうど降りきったあたりで――Mが、左手側を指さした。


「あれ? あっち側ってあんなに広かったっけ?」


 見れば、確かにMが指した方向には、広いスペースがあった。隅の方に段ボールやら、家電やらが乱雑に置かれていて、手すりの付いた階段が、二階に向かって続いている。


 ――


 その時だった。

 階段から、音もなく――ゆぅっくり、ゆぅっくりと。


 何者かが降りてきたのは。

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