入口の扉はびついていたが、人が一人通り抜けるには十分な隙間が空いていた。

 廃墟の中に足を踏み入れると、外とはまったく違う空気が漂っていて、思わず足を強張らせた。


 空気――そう、空気が違う。埃とカビが混じった重苦しい匂いは、この場所がずっと停滞していることを無言のうちに語っている。


 なのにどうしてこんなにも、ひんやりとした空気が漂っているんだろう。

 たとえば、この季節。川の近くを通りかかると、ふとした拍子に涼しい風の吹くことがある。

 ここは常に――そんな、薄ら寒さが漂っている。


「ははっ、なんだお前――もう鳥肌たってるじゃん」と、Mが呆れる。

「ビビるの早すぎだろ! 女々しいなぁ」と、Kが笑う。


「いや、なにも感じないお前らの方がおかしいんだって。分かるだろ? この雰囲気というか、肌感というか――」


「はぁ? お前なに言ってんだ? 外と大して変わりゃしねぇだろ」とMが言うと、Kも当然のように頷いた。


 二人はどんどん廃墟の中を進んでいくので、仕方なく二人のあとを追った。

 床には割れたガラスの破片が散らばっていたので、それを踏まないように、慎重に。


 背中には、薄ら寒い空気がずっと張り付いたままで。




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