余計な事は言わぬが花
結局ね…本当にほんとーーーに音沙汰なしで数年が過ぎました。
え?なんの音沙汰だって?アレアレ…ホラアレ…そうそう、ビィブリュセル神だよ!
ワザと忘れたフリしてみました……いやもうね、それぐらいなーーんのアクションもないんだわ。
私達の秘密兵器の『おまじない』が効いたかな?
私ね、別にビィブリュセル神の登場を待ってる訳じゃないんだよ?ただ一度ぐらいは飛び蹴りかましてやりたいと思うくらいには怒ってたわけよ。
でも私あれから一応、二男一女の母親になったし…もうじきうちの旦那、あ…ベイルガードね?が国王になるから私も国王妃になるし、いつまでもカッカ怒ってばかりじゃいけないと思ってね……
「…ってこらーーー!誰だぁ?!便座の上に…え〜と魔獣?魔獣かな…を置いたやつわぁ!!」
「グエェ…」
トイレの扉を開けた便座の上に、カエルとトカゲの親戚みたいな丸々とした爬虫類が、ドーンとドーンと居座っていた。
これを置いた犯人は分かっている。
「華っ!慧斗っ!アンタ達でしょ!?」
私がトイレから出て、庭に駆け込めばピュッ…と、すばしっこく逃げ去る小さい塊が二つ。
小麦色の髪を靡かせて、笑いながら逃げる長女のハナシーア、私は華と呼んでいる。同じく紺色の髪のベイルガードに瓜二つの長男のケイトリード、慧斗と呼んでいる。二人は転がるように笑い合いながら、子供達付きの近衛の男の子達の後ろに逃げ込んだ。
あいつらっ…本当にいたずらっ子なんだから!
「グエェ…グエェ…」
鳴き声が聞こえたので振り向くと、トイレの中から魔獣がノソノソと這い出て来ていた。
「メルメル~こっちぃ~」
っ…て、おいぃ?!いつの間にこれまたベイルガードにそっくりの次男のアヤトレーデ、綾斗がおいでおいで~と大きなカエルもどきを手招きしている。しかもその魔獣は綾斗の方へノソノソと動いて行く。
「こらっ!綾斗っそんな得体のしれないものに触るんじゃありません!」
私が急いで近付いて行き、カエルもどきを抱え込もうとした綾斗を抱き上げようとしたら、綾斗は一丁前に防御障壁を張ってそのカエルもどきを抱えてヨタヨタしながら、私の手を振り切って逃げようとした。
「助けてぇ~父上〜」
ん〜?魔獣を抱えて綾斗が歩いて行く先にベイルガードが笑顔で手を広げて待っている。綾斗の奴っ!絶対安全圏(父親の傍)に逃げ込む気だな!
「アヤト、父上の所においで~」
「綾斗!そんな変な生き物ポイしなさい!」
私が素早く回り込んで、綾斗が抱えたカエルっぽいものをひったくろうとすると、私の背後に飛び込んで来た慧斗が
「母上だめぇ!メルメルはケイルおじ様に借りたからっ苛めちゃだめっ!」
と叫んだ。
ケイルおじ様…魔術師団のケイルのことか?
「なにそれ?もしかしてこれ、ケイルのペットなの?」
「ペットってなぁに?兄上?」
綾斗が慧斗に聞いているが、流石に慧斗も分からないので私の顔を仰ぎ見た。
「ケイルから借りてきたのなら、返しに行きなさい」
私が怖い顔でそう言うと、綾斗と慧斗は二人してカエルもどきに抱き付いて叫んだ。
「メルメルは僕たちの友達なのっ!」
メルメル……そのデカいカエルの名前か?おまけに息子達はメルメル?を抱えて絶対安全圏(ベイルガード)の背後に隠れてしまった。
「魔術師団長から借りてきたのか?実験用の魔獣かな?」
というベイルガードの言葉に、ギョッとした。
実験動物だって?!ケイルの馬鹿に怪しげな実験をされてあのぶよぶよした体に毒でも持っているんじゃない!?
「綾斗っその魔獣をお母様に渡しなさい!」
「やだぁ?!」
「ゲゲッ…」
綾斗がメルメルを抱えながら私に手を振り上げた時、綾斗の腕の中からメルメルが跳躍して私の顔に飛びついてきた。
おっさんの加齢臭みたいな匂いがする…
「グフェ……」
メルメルは私の顔にへばりついたまま、大きなゲップを吐いた。
「臭い…シヌ……」
私はメルメルのおっさんのゲップの匂いのようなものを嗅いでしまって……昏倒した。
流石に悪戯好きの三姉弟達も、私が倒れてたことに仰天したようで…私が目覚めると華に抱き付かれ、慧斗と綾斗は大泣きしながら同じく抱き付いてきた。
「母上、死んじゃうっ…」
「母上ぇ…ビィブリュセル神に連れてかれちゃう…」
「縁起でもないこと言うな!!」
ギャン泣きの慧斗と綾斗に激しくツッコミを浴びせてから、ベッドから起き上がろうとしたら、華に制された。
「お母様、無理しちゃダメよ。だって一人の体では無いものね~ウフフ」
「んん?今なんて言ったの華?」
すると、華の後ろにいたベイルガードが満面の笑顔で答えてくれた。
「クリュシナーラ、お腹に赤子が宿っているって~いやぁ四人目かぁ楽しみだね!」
「!」
「!」
さっきまで泣いていた慧斗と綾斗がサッと表情を変えると、ベイルガードに飛びついていった。
「父上っ僕、妹が欲しい!」
「父上ぇ僕は弟ぉ!」
何故…ベイルガードにお願いするんだ?そうか、ベイルガードは神様の末裔だから、神頼みか?それなら私にお願いしてもいいんじゃない?これでも一応神様の血族だし…
すると、長女の華がニヤニヤしながら私の方を見て言った。
「じゃあ、男女の双子とかがいいんじゃない?おかあ様お願いね♡」
弟二人が姉の発言に歓喜の悲鳴を上げた。
華よ…好き勝手なことを言うなよ…私、あんたの能力知っているよ。あんたも私みたいな先祖返りの能力持ちで『おまじない』つまりは…願えば高確率、ほぼ百パーセントの確率で叶う特殊能力があるんでしょ?
ベイルガードがその特殊な能力に気が付いて、華に願ってくれと頼んでいたことを思い出した。
『ビィブリュセル神が神界から二度と出て来ませんように』
華はその当時まだ七才だったし、その祈りが神に通じるかは分からない。ただ…そのせいかは分からないが、本当にビィブリュセル神からの音沙汰が無いのは事実だ。
本気で『おまじない』が効いているのかな?
華の能力のお陰か、ベイルガードの説の神力不足でぶっ倒れているのか…それとも私の説の牢屋にぶちこまれているのか…それは人間の私達には分からない
子供達の笑い声でベイルガードの方を見ると目が合った。ニヤッと笑う次代の国王陛下……なんとなく自分のお腹を見た。ああ…やっぱり?華のおまじないの力…多分神力かな…私のお腹にかかっているのを感じるよ?
華は何故だか神力使えるんだよね…将来は神殿の本物の聖女になってみる?と聞いてみたら
「私はものすごい美形のすごく素敵な王子様と婚姻する予定だから無理!」
と言われてしまった。何故あんなに口が回る子供になったんだろう?誰に似たのかな…
あ~同じ神力でも、おなかに感じる華の神力は気持ち悪くないんだよね?でもね~華のおまじない効果で双子確定じゃない。ああ、双子って…大変だよこれ。
無事に生まれてくれますように…私も願いを込めて祈っておいた。
言わぬが華 浦 かすみ @tubomix
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