結局なんだってゆーんだよ

太っていたのが原因か、メタボリックシンドローム皇子…こう言えば中二病臭くて笑えるが…ルーロベルガ帝国の第二皇子殿下はステライトラバンの城門前に来た所までは覚えているがそこからは、記憶にない!と騒いでいた。


騒ぐと血圧があがるからヤメロ…


翌日、エルガースメイ皇太子殿下とベイルガード殿下の視察に私は随行した。国営の公所や、職業斡旋所…などの視察の合間にエルガースメイ皇太子殿下が行ってみたいと仰った所へ一緒に出向いた。


それは砦の襲撃事件で亡くなられた衛兵のご遺族と負傷した兵の慰問だった。


表向きの事件はルーロベルガ帝国の一部暴徒が砦に押し入り金品を盗もうとした…ということになっている。それに伴いルーロベルガ帝国からは死傷者遺族には賠償金と補償の提示がなされている。


この慰問はエルガースメイ皇太子殿下のパフォーマンスかもしれない。でも偽善でもやらないよりマシだ。どこかのメタボ聞いてるか?!


今回の砦襲撃事件はルーロベルガ帝国の継承権争いに一石を投じる結果になった。何故ならば我が国ステライトラバン側としては他国のことだし、中立という立場だったのだが、この訪問で皇太子を支持する貴族達が出て来たからだ。


まあ人は見かけが全て…ではないけど、イケメンの影響力は大きいのだ。


「首から上は兎も角としても、全世界の王子様ってシュッとしてて、スラッとしているイメージがあったのに、無いわーーあれは無いわーー」


ヒーラスメイ第二皇子殿下達御一行は倒れて介抱したお礼や謝罪もそこそこに逃げる様にステライトラバン王国から出国してしまったのだ。これも私的には心証が悪い…


私が嘆いているのを聞きながら、近衛のバンクレ卿とリテンジャー卿とメイドのララとエイリンは私が作った肉まんを頬張っている。そこへナニアレイド殿下がやって来た。


「僕にも頂戴!ニクマン?へ~っ…モグッ…ハフゥ…中はふかふかしてて美味しいね!まあいいんじゃないの?水中を歩く運動って太り気味の人に有効な渾身術なんでしょう?そのうち細身になって現れるかもね」


ナニアレイド殿下(ショタ枠)はそう言ってはいるがアレが細身になったところで、性格悪けりゃ意味なくない?と思ったのは内緒だ。


結局の所、メタボが精密検査を拒んだので、神力が後から体に入ったのか、それとも潜在的な神力の判別が付かないままだった。


ベイルガード殿下はニジカ=アイダとリカ=タケジマの体内残っていた神力とヒーラスメイ殿下の神力は同じものか確かめたかった…と言っていた。


リテンジャー卿が先々代の王妹に聞いたことをご実家に再確認してもらう為お話をしたら…な、なんとその元王族の大叔母様がわざわざ王城にお越し頂けるということになったのだ。


ベイルガード殿下と私は貴賓室で元王妹の大叔母様をお迎えした。白髪の綺麗なご婦人は微笑を湛えながら時候のご挨拶の後に


「ベイルガード殿下もご覧になったことはあるかしら?私もお兄様とあの部屋に入って初代王のお話を聞いたのよ」


と仰っていた。そして表情を曇らせると溜め息をつかれた後、口を開かれた。


「お兄様…先々代の国王と私にはもう一人兄弟がいたの…十六才で亡くなったわ」


「…っ!」


「兄…のこんな話は…初めてかしらね。兄は突然、気狂いになってしまってね…そして倒れて亡くなってしまったの。別荘で療養していたのだけど倒れる前は…屋敷の中を彷徨ってばかりでね…」


大叔母様は一旦言葉を切ると、窓から外を見ていた。


「ユキはどこだ…ユキを出せ…そればかり言っていたわ。お兄様もお父様もこう言っていたわ…ビィブリュセル神が取り憑いている…と」


ひぃぃ?!やっぱり?!でも、それって…横に座ったベイルガード殿下の顔を見てしまった。殿下は顔を強張らせている。


「お兄様は…体中の痛みを訴えて最後は意識が朦朧としていたわ…最後にお会いした時にうわ言をずっと言っていたの…私を王にしろ!約束だ!…とね…」


それって…!


「これはお父様…先々代の国王陛下と先代の国王陛下、私の一番上の兄の見解なのだけど、亡くなった兄は生前、ビィブリュセル神とユキ様に関する取引をして…それの見返りにビィブリュセル神に「王にする」ことを約束されてビィブリュセル神に体を貸したのではないか…ということなの。ただ、それにはお兄様の体が弱ってて駄目だったのか…それとも神降ろしは人間には負荷がかかり過ぎて持たなかったのか…あくまで推察なのですがね、だから…」


大叔母様はそう言ってベイルガード殿下を見た。


「先代の国王陛下も甥の現国王陛下も、ベイルガード王太子殿下にはこう伝えていたんじゃないかしら?『もし第二王子、第三王子や周りの者に異変を感じたらすぐに調べて神に体を乗っ取られないようにしろ』…と、どう?」


体がガクガクと震えてしまう。ビィブリュセル神は女性王族の方の夢に出て来る時はそれほどの脅威でもないのに、王子方の前に現れる時は…乗り移ろうとしているということなの?


ベイルガード殿下は大きく息を吐き出した。


「いつからなのでしょうか…恐らく神は少しづつ常軌を逸してきているのだと思います。最初は夢でしか接触しなかった…それではユキに会うことが出来ない、今度はユキの子供達に近付こう…そして人間の体を借りよう。段々所業がおかしくなっていますね…大叔母様貴重なお話、ありがとうございます」


大叔母様は泣きそうな顔をされている。


「お兄様のようなことにはならないように気を付けてね…」


大叔母様をお見送りしてベイルガード殿下を見ると殿下は頷いた。私はベイルガード殿下と向かい合わせのソファに腰かけて、殿下が話し出すのを待った。


ベイルガード殿下は何度か深呼吸をした後にゆっくりと口を開いた。


「クリシュナーラの予想している通りだと思うよ。ビィブリュセル神は地上で自由に動く為に人間の体を使おうとした。だが失敗して大叔父は。次は聖女に目を付けた。そしてたまたまか…聖女に引っ付いて只の異世界人が転移して来た。異世界人なら体に乗り移れるんじゃないか?…試してみたがやはり。そして今度はルーロベルガ帝国の第二皇子殿下に接触した…だがこれも上手くいかない…今はこんな所だろうと思う」


ベイルガード殿下の推察は恐ろしいけれど、恐らく当たっていると思う。ニジカ=アイダもリカ=タケジマも乗っ取りの実験体にされたかもしれないんだ…!


「ビィブリュセル神は試しているのよね?何とかして人界に降りてユキ様を捜そうとしていると……じゃあ、ユキ様はもう亡くなられてます…と言ってみるのはどうなんだろう?」


ベイルガード殿下は険しい顔をしている。


「夢でビィブリュセル神に直接会うことの出来る女性王族全員に、説明はお願いはしている。しかしビィブリュセル神が現れる法則性は無いのだ。女性で未婚くらいの条件だが、最近は王族に女子が少なくて男性王族の数が多いのだ。こればかりはどうしようもない…」


確かにベイルガード殿下の上のお姉様以外は殿下達は三兄弟だし…先代は女子なしの二人兄弟…王弟殿下の辺境伯の従姉妹が直系で唯一の女子だ。末端の王族で少しでも血が入っていれば現れるという法則も分からないから結局はこちらからの接触は難しいんだ。


ん?だったら私はなんでビィブリュセル神の夢を見たの?


「あの……だったら私は何故ビィブリュセル神の夢を見たの?」


ベイルガード殿下は顎を擦りながら、ああそれね~と呟いた。


「ああ…それは初代の血族じゃないからかな?初代魔術師団の団長は初代王フェザリッデル様とユキ様の三番目の息子、第三王子だし…その後のユリフェンサー家に随分前にも王族から降嫁しているはずだよ」


か…家系図とかじっくり見たこと無かったから知らなかった!


それから数日後


私とベイルガード殿下は国王陛下以下王族の方達と『打倒!ビィブリュセル神(冒涜上等かかってこいや!)』の作戦会議をしていた。


結局決まったことは、女性王族は夢にビィブリュセル神が現れたら慌てず騒がず、ユキ様の事を伝える事と、夢を見たと必ず周りに報告する事。


男性王族方は自分を律して付け入る隙を与えずに、万が一神の囁き(悪魔の囁き)が聞こえたら必ず周りに報告し、監視を受ける事。


以上が義務付けられた。そしてこの親族会議で私は初めて辺境伯令嬢のシファーリアナ様にお会いした。ベイルガード殿下の女子版だよ!紺色の髪の迫力美人だった。


「お聞きしましたよ~クリシュナーラ様。夢でビィブリュセル神が接触してきたんですって?ほらね、ベイル言ったとおりでしょう?絶対ビィブリュセル神が狙うって…」


なんですと?それはあまりうれしくない狙われですが……?シファーリアナ様とベイルガード殿下を交互に見てしまう。


ベイルガード殿下は咳払いをしながら説明してくれた。


「なんというか…クリシュナーラはユキ様に似ているんだよ」


「え?私、金髪で瞳は青ですが?」


「外見という訳じゃないんだ…実はフェザリッデル様が残された、姿の映る石は他にもあってその他の石にユキ様の姿が出て来るのもあるのだ。その時のユキ様の雰囲気が……クリシュナーラに似ていると言うか…」


「あ~元は同じ国の出身ですからね~」


「そうだね、内から滲み出る何か、かな?」


ん?内から滲み出ているのはド庶民根性と、勿体ない~勿体ない~精神だと思うけど…


シファーリアナ様はまた辺境伯に戻るのは面倒なので、婚約式まで王都にいるわ~と言っていた。そう色々あったけどベイルガード殿下と私の婚約式まで後、十日を切っていた。


何事もなければいいのだけど…とベイルガード殿下と二人して神に祈っていた。因みに王族の方達は祈りを捧げる時は、初代王のフェザリッデル様にしているんだって!


そりゃそうか…

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