嫌がらせしてんじゃねーよ

砦の負傷者や亡くなられた衛兵のご遺体を運んだり…砦の中は人で溢れかえっていた。私は障壁の効果範囲を確認してから、ベイルガード殿下と共に砦から少し離れた所に移動した。


ルーロベルガ帝国…それはマユリ=ササキが移住先に選んだ国だ。神殿の神官長の話では、ルーロベルガ帝国でそこそこ聖女として上手くやっているらしい。


「あちらに移られまして…ホソマッチョとか言うイケメンが多いと叫んでいるようですが、異世界語ですか?」


「はい…美丈夫の美形の男性を称する言葉です」


神官長は苦笑した。


「聖女の本分を忘れないでいて欲しいのですがね…ビィブリュセル神、どうぞお導き下さいませ…」


祈りを捧げているところに申し訳ないけどさ~あのポンコツ聖女を送り込んでくるような神様だよ?導くどころか絶賛迷子中だと思うよ…


何となく神官長の祈りは届いていない…とその時に実感したのだった…


■ □ ■


砦の人気の無い場所で集まって即席の軍法会議が始まった…メンバーはベイルガード殿下とカイルナーガ殿下、そして私と中将閣下と魔術師団長のケイルだ。


「して…先程のローブの男がマユリ=ササキからクリュシナーラが障壁を張った術師だと聞いた、と言っておられたと…?」


中将閣下…名前はラミアス=ギャラクーバ様は、私を見てからベイルガード殿下を見た。見られたベイルガード殿下も頷いている。


「魔剣を取り出したクリュシナーラを見て、聖女より強い魔女だ…と叫んでいた。障壁の術式を視てか、またはクリュシナーラの魔質を視て…判断したのかは分からないなが…」


「ルーロベルガ帝国と言えば先帝が崩御されて、継承争いが起こってますよね?」


魔術師団長のケイルの言葉にベイルガード殿下が頷き返した。


「皇太子殿下と第二皇子殿下で揉めているそうだが…」


「兄上、暗部に探らせようぜ…きな臭い」


カイルナーガ殿下が顔をしかめている。


きな臭い…確かにきな臭い。もしルーロベルガ帝国が何らかの意図をもって、ここの障壁を見に来たのだとしても…死傷者を出してまで何を求めてきているのだろうか…


「この砦の障壁なんて見に来て…何があるんでしょうね?」


そう思わず呟くと、カイルナーガ殿下がすかさず答えてくれた。


「ユリフェンサーの張った障壁…の魔力の塊だよ。アレをたった一人の術者の魔力で動かしている…それを知ったならクリシュナーラを知りたくなるんじゃないか?魔術師ってそういう探求心みたいなのの塊だろう?なっ?」


なっ?と言って魔術師団長のケイルを見たカイルナーガ殿下。ケイルは自分の手をジッと見てから私を見た。


「それは…なれるものなら、クリュシナーラのような魔力を持つ術者になりたいですよね。私は彼女の先祖返りと言われる魔力の根底のは異世界人だから備わっているものだと理解していますが、他国の魔術師にはどう映るのでしょうかね…」


んん?ケイルの言うことがイマイチ分からない?


私がケイルを見ると見られたケイルは苦笑いをしている。


「魔術を使う感覚が違う…というのかな。我々は魔力はあって当たり前のものだからためらいもなく使う。でもクリュシナーラは魔力は本来無いもの…だからより使い勝手の良い使い方、便利になるように普段の生活がより楽になるように…改良をしようとする。これが違うかな?だが他国の術者から見たら、膨大な魔力量を持つ術者…としか分からない。使い方じゃなく、力そのものしか目に入らない」


そうか…私は魔力を使う時に、すぐに異世界ならこれの代用になるな…と直ぐ比較して魔法で便利に使ってやろうという気持ちになる。


体を動かせば、頭を捻れば魔力無しでやれるものにわざわざ魔力を使うことはしない。魔法は…魔術は生活を便利にする力…電気やエネルギーの代わりに使うもの。そういう認識が強い。


これはこちらの世界の人には説明しても理解は出来ないよね…


「という訳で…障壁の術式を盗もうとも、魔剣を盗もうともクリュシナーラのように使いこなせないと思うぜ、それが俺の見解」


カイルナーガ殿下はニヤリと笑いながらベイルガード殿下を見た。


「なるほどな…ルーロベルガ帝国は術式を視て、盗るもしくは転用するつもりだったのかもしれないのか…」


「別に盗ったって構わないのに…言えば教えてあげるわよ。只の障壁じゃない…あの障壁が必要ならいつでも言えばいいのに…」


そう…何も押し入らなくても、人の命を奪ってまでも…そんなことをしなくてもあの術なら教えてあげる。使えるかどうかは分からないけど、皆の命を守る為に開発された人を守る術だ。


「魔剣だって、魔石さえあれば誰でも作れるわよ…時間がかかるけど…そんな難しいことじゃない」


魔剣なんて、ただのファンタジーゲームやそれっぽいものからヒントを得ているだけだ。剣に魔法を乗せる…いけるぜ!


本当にこの感覚だけで作ったものだ。玉手箱だってそうだ…無尽蔵に収納出来ればいいよね、この世界のご令嬢って大きな鞄は持ち歩けないしなぁ~から生まれただけだ。


発想の転換…そんなものマユリ=ササキだって持っているはずだ。


その日から少しして…


ルーロベルガ帝国に密偵を忍ばせていた調査結果が出て来た。


ルーロベルガ帝国は現在、病床の皇帝に代わり政務を行っていた皇太子殿下がいる。そして腹違いの第二皇子殿下と皇太子殿下と同腹の第三王子殿下がいる。


そして先帝が崩御し、皇太子殿下派と第二皇子殿下派の派閥争いが起こっており…マユリ=ササキを迎えたのが皇太子殿下だったのだが……マユリ=ササキは最初は皇城の一室を与えられて生活をしていた。だが今は神殿に居を移している。


理由はお察しのようなのだが、皇太子殿下としては聖女としての能力よりは異世界人としての知識などをマユリ=ササキより授かってそれを活用したかったようなのだ。


「あ~つまり、マユリ=ササキは思っていたより使えなかった…という訳ねぇ?そりゃそうよね~異世界じゃまだ学生の年だもの。専門的な知識も無さげだし、あの子の頭の中にはラノベ脳と腐女子脳ぐらいしか詰まってなかったんじゃない?」


「ラノベノウ?フジョシノウ?」


私が調査部の男性隊員の報告を聞きながら、呟いた言葉を聞いてベイルガード殿下はキョトンとした顔を見せたが、殿下には異世界語を簡単に


「残念な考え方しか出来ないことです」


と伝えると、少し前のニジカ=アイダやマユリ=ササキを思い出したのか酸っぱい梅干しを食べたような表情をして、何度か頷いていた。


そんな砦襲撃事件から少し経ち…ベイルガード殿下と私の婚約のお披露目会が開催されることになり、本日はベイルガード殿下と侍従の皆様とお披露目会の打ち合わせをしていた。


「ドレスはこの色にしますか?」


「そうね、腰の所に膨らみ作れます?こう布を重ねて…コルセットは疲れるから」


私がデザイナーのおじさんにデザインを提案して、大いに盛り上がっている所に軍人の方が室内に入って来た。


「あの殿下…またカリータ領で」


「ん?カリータ領で何かあったのか?」


「聖女が見付かった…と」


またかーーーい?!


流石に、ベイルガード殿下は険しい顔をしている。そうそう、聖女は見付かった土地の神殿預かりになるので、ステライトラバン王国内で発見されたら絶対に国がお世話しないといけないらしい。


まあ普通の聖女は魔を祓えるし、怪我も治してくれるし役に立つ人材なわけだけど…


どうにも嫌な予感がする。またポンコツの予感だよ。


婚約式の打ち合わせを切り上げて私とベイルガード殿下はとある場所へ急いでいた。


「詳しくは着いてからは話すけど、こんなに度々聖女が現れるなんて聞いたことが無い。クリュシナーラにまだ伝えていなかったけれど…もしかすると王家の秘匿の伝承が関係しているのかもしれない」


秘匿の伝承?!


ベイルガード殿下はそう言って、お城の奥深く…王族方のプライベートエリアに連れて来てくれた。


魔術防御が幾重にもかけられた、頑丈な黒塗りの扉の前に立った。如何にも何かあります!という感じだが、ベイルガード殿下は扉のノブに手を置いて一瞬、触れただけで多重防御は解術していた。


すごい…


「ステライトラバンの持つ魔力に反応する術を使ってるから…王族しか開けられないんだよ」


なるほど…これ解術出来そうだね、と言わないでいてよかった。チート封印…よし。


開けられた扉の中をベイルガード殿下の先導で続けて入って行った。


中は本棚…と、そして異常な気配を発する何かが部屋の奥、窓際に置かれている箱?から漂っている。


あれ、怖いわ。


ベイルガード殿下は私が奥に入るのを躊躇していることに気が付いたのか


「ああ…やはりクリュシナーラには感じるよね?」


と聞いてきた。


嫌だな~と思いながらもベイルガード殿下は私を呼ぶので仕方なく、奥のその箱に近付いた。


ベイルガード殿下はその箱にも親指の腹を押し当てて、何か聞いたことのない呪文?を唱えている。


そして…箱の蓋を開けた。


箱の中には…大きめの魔石のような?でも怖い気配を感じる半透明の白い石が入っていた。


「見て欲しいのは…コレ。王族だけの秘匿だけどクリュシナーラはもうすぐ王家に連なるからね」


王家に連なる…ドキッとしたけど、そう言っているベイルガード殿下の横顔は真剣な表情だった。


「じゃあ…始めようか。石を見てて…」


こ、怖い…けど。見ろと言われたし…


ベイルガード殿下が石に手を置くと、石が鈍く光り始めた。こえぇぇぇ… 


石が光った後、石の表面に何か模様のようなものが浮き出たと思ったら…突然その石の前に人が立っていた?!


「ひぃぃ………あれ?」


よく見るとそれは…映像だった。ホログラフィーだ!


「立体映像だ!」


「知ってるの?」 


この石から浮かんでいる映像?が何かの力で映し出されているのは分かる。


「異世界によく似たのがあったよ」


ベイルガード殿下はホッと息を吐いた。


「良かった…これの説明をするのをどうしようかと思ってた…説明難しいからさ」


「分かるわ…私も立体映像の説明しろ…て言われても、そういうものです!としか答えられない」


と、ベイルガード殿下と頷き合っていたらそのホログラフィーから声が聞こえ始めた。ホログラフィーに映る人は…20代半ばくらいの紺色の長髪の綺麗な綺麗な男性だ。


『ステライトラバンの末裔よ…我の子達よ。今から語ることを後世に伝え、よくよく気を付けて欲しい。我はフェザリッデル…ビィブリュセルの兄弟神だ』


なっなんと!え?え?確か弟って異界の神になったとか…本に書いてなかった?


『我は兄と共にこの世界を見守っていた。その時に異世界から舞い降りた人間の女性と愛し合い…その女性を伴侶とし、人界に降りたのだ。その時に人に過ぎたる神力を所持していて命を危険を感じた我は、伴侶と神力を分け合って半神同士の夫婦になったのだ。我の神力は子達、孫達に受け継がれていた。そして…ステライトラバンの王族にその血脈が受け継がれている』


「えええっ?!」


「質問は後で、まだ続きがあるから…次が重要」


驚いてベイルガード殿下をガン見したが、殿下にそう言われたので、慌ててホログラフィーを見た。


『そう我は異世界人の伴侶を得て…幸せであった。ところがそれから奇妙なことが起こった。兄、ビィブリュセルの神力を所持している異世界人の女性が現れたのだ。神力を所持しているので、聖魔法が使えるその女性は神の遣い、聖女として人間の信仰を集め出した。そして神力を有する異世界人が次々と地上に現れだしたのだ。おかしいと思い、我は兄のビィブリュセルに問い質した』


ホログラフィーの中の弟神は、そこで一度目を瞑った。私も唾を飲み込んで次の言葉を待った。ホログラフィーの中の映像の神様?なのに目が合っている気がしている。


『兄は言った。神力を有している異世界人の女を沢山用意した。だから我の妻…半神になった我のユキはもういらないだろう、私によこせ…と言ってきたのだ』


「は?はっえ?どういうこと?」


思わずホログラフィーの中の神様に問い掛けてしまった。


『神力を所持した異世界人の女をお前にやる。だからユキを…兄はユキを引き渡せと言ってきたのだ』


そ、それって…それって?!



『我もユキも拒絶した。我は兄神に言った…ユキは我の伴侶だと、誰にもやらんと…ビィブリュセル神は…異世界人の女をお前に全てやる。だからユキをくれ…と言ってきた。兄はユキに執着していたのだ、愛なのか恋なのか…ただ我から見たら間違いだらけだった。誰でも良いわけではない。ユキだからこそ伴侶に選んだ。だがビィブリュセル神は信じない。我は異世界人の女なら誰でもいいはずだ。もう代わりは沢山いる。ユキももういらないはずだ…と。神でも狂うのかもしれない…今はそう思っている』


「三角関係…いや、この場合は横恋慕になるのか…」


ベイルガード殿下が頷いている。


『ステライトラバンの末裔よ。我の血を受けし子達よ。今以てビィブリュセル神はユキを引き渡せと言ってきている。我もユキもそろそろ寿命が付きる。ユキが死ねばこのビィブリュセル神の愚行は治まるやもしれん。しかしこれがステライトラバンの血が途絶えるまで続くかもしれない…禍根を残すようなことになり申し訳なく思う』


そこでホログラフィーの映像が消えた。


私は驚愕の事実とそして今起こっているポンコツ聖女のアレコレが一つの線に繋がりそして、その現象につける名称に気が付いたのだが、そう呼んでいいのか…戸惑いながらベイルガード殿下に尋ねてみた。


「ベイルガード殿下……今、世界に神力を持って異世界人の女性が現れるのって…ビィブリュセル神が弟神のフェザリッデル様に対する、え~と嫉妬からの嫌がらせでしょうか?」


ベイルガード殿下は大きな溜め息をついた。


「そうだな…そうとも言う」


やっぱり!神様のくせに嫌がらせしてんじゃねーよ!

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