最高の贈り物 (テーマ:プレゼント)
「サンタさんには何をお願いするんだい?」
朝刊の折込に玩具店の広告が入っていた。クリスマス……もうそんな時期か。プレゼントを用意するために訊ねると、保育園の制服を着た敬一は齧っていたパンをコクリと飲み込んで、遠慮がちに何かをモゴモゴと呟いた。「おかあさん」と、そう聞こえた。私達を裏切って姿を消した女を、敬一はまだ慕っているというのか。
「……そうだな……早く帰ってきて欲しいよな」
心にもない私の言葉が、食卓に虚しく響いた。
数日後のクリスマスイヴ、深夜にドアを叩く音で起こされた。誰だ、こんな時間に。上着を羽織り、冷え切った廊下を玄関へと向かう。小さな覗き窓から外を窺うとポーチに黒々とした影が佇んでいて、思わず息を呑んだ。暗くて顔は判別できないが、間違いなくあの女だ。一年前、私が殺して山に埋めた、あの女が帰ってきたのだ。
静かに玄関脇のクローゼットから木刀を取り出す。誰のものとも知れぬ子供を孕んでいた淫売を殺した得物を、まさかもう一度同じ相手に使うことになろうとは。いいだろう、何度でも殺してやるさ。
だが、勢いよく開けたドアの先、月光に照らされるポーチに人影はなく、真冬の冷たい空気が屋内に流れ込んでくるだけだった。気のせいだったのか?大きく息をついた私の耳に、床の軋むギシリという音が飛び込んできた。二階だ!敬一の所へ行くつもりか!一気に階段を駆け上がりながら、これがクリスマスの奇跡というやつなのかもしれないと思った。しかし、いくら愛息の望みでもあの女だけは許せない。二階に着くなり、寝室のドアノブに手を掛けていた女の首筋めがけ、短い気合と共に木刀を思いっきり振り下ろした。ボグッ!あの時と同じだ。鈍い音も、頚骨の砕ける嫌な感触も。
翌朝、目が覚めると妙に体が重く感じられた。まるで自分の体ではないようだ。きっと昨夜の騒ぎで風邪でもひいたのだろう。……しかし、あれは現実にあったことなのだろうか。気がつけばあの女の姿は無く、私は暗く寒々しい廊下に一人立ち尽くしていた。夢にしてはやけにリアルな感触がまだ手に残っているが、現実にしてはあまりに異様な体験だ。熱のせいで悪夢を見たのかもしれない。そう思いながら額に当てた手が長い髪にバサリと触れ、思いがけない感触に心臓がドキンと跳ね上がった。まさか、私の髪がこんなに長いはずは……何か異常なことが起きていると直感が告げる。激しい動悸を何とか抑えようと胸に当てた手に、ふにゃりと柔らかな感触が。これは、まさか……予想だにしない変化に戸惑う私の隣で、眠っていた敬一が目を覚まして声を上げた。
「……おかあさん……?おかあさんだ!」
最高のプレゼントを貰った時のような、満面の笑みで敬一が胸に飛び込んできた。
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