年末商戦 (テーマ:プレゼント)

 八月の終わりの定例会議。殺人的な外の暑さにも関わらず、会議室の雰囲気はどこまでも冷え込んでいた。今年は最大のライバル『B』社の定番特撮シリーズ最新作『仮面戦隊電レンジャー』が過去に例を見ないほどの大ヒット。一年間のTV展開の強みで、関連商品の売上もシリーズ最高を記録することがすでに確実視されている。我が『T』社も看板シリーズ『トラックフォーマー』のハリウッド版映画の大ヒットで関連商品がそれなりのセールスを記録、夏休み商戦ではかなり健闘したのだが、映画の公開が終了に近づいた現在、すでにブームは冷え込みの兆しを見せている。商品展開こそ継続される予定だが、おそらくいつもの通り、一部の熱狂的マニアにしか歓迎はされないだろう。

「今年のクリスマス商戦、特に男児玩具はかなりの苦戦を強いられるだろう。各自、次回の会議までに何かアイデアを考えておくこと。電レンジャーの一人勝ちを、指を咥えて眺めるようなことになれば、我々全員首を吊ることになりかねんぞ!」

 そんな大げさな。だいたい、そんなに簡単にアイデアが思いついたら苦労はしねぇよ……誰もがそんな言葉を胸に秘めたまま、長時間に渡った会議はようやく終了した。

 翌朝、悪夢から目覚めた私の枕元に、何やらきれいにラッピングされた包みが置いてあった。妻が置いたのか?はて、今日は何かの記念日だったかな……などと思いながらとりあえず開封してみると、中には見たこともない『トラックフォーマー』フィギュアと企画書が入っていた。素晴らしい仕上がりに思わずため息が漏れる。売りである変形機構もかなり画期的なもので、斬新な企画と相まって沈滞している人気を一気に突破できるパワーを秘めていることは明白だった。企画書の最後には「全ての子供に夢を。セント・ニコラウス」と手書きで記されていたが、玩具業界に身をおきながらそれがサンタクロースの本名であることを思い出すのに、恥ずかしながらしばしの時間が必要だった。

 社でもこのフィギュアと企画は絶賛され、商品化、アニメ化が即座に決定された。発売された商品は飛ぶように売れ、クリスマス商戦の覇者となることももはや夢ではない。

 そして迎えたクリスマス。サンタに感謝しながら目覚めた私の枕元にあの時と同じラッピングの包みがあった。わくわくしながら開けてみると「請求書」と記された一枚の紙。そこに記載された天文学的な金額と、あまりに一方的な文書の内容に思わず目眩がした。

「アイデアの使用料を請求させていただきます。期日までに指定の口座への振込みが行われなかった場合、担保として私のアイデアを元にした商品とそれを所持する子供たちの身柄を回収させていただきます。悪しからずご了承ください。セント・ニコラウス」

 年が明ける頃には私の息子を含める、この国の三割近くの男児が姿を消していた。

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