通夜 (テーマ:艶)

「それじゃあ、後は頼むぞ」

 そう言い残して父は、突然の悲劇に憔悴し切った母を伴って帰っていった。狭い葬儀場の控え室に残ったのは僕と、白い布で顔を覆ったまま横たわる叔母の二人だけ。僕達のほかに身寄りの無い彼女の弔問に大勢の参列者が集まることは考えられなかったので、明日の葬儀もここで簡潔に行われる予定になっている。

 部屋の隅の小さなTVを点けることもなく、僕は若くしてこの世を去った叔母の傍らに膝を抱いて座っていた。彼女は祖父の後妻の娘で、半分だけ血の繋がった母よりも僕の方に年齢が近い……いや、近かったために、僕は小さな頃から姉のように彼女を慕っていた。優しくて、溌溂とした美しい女性だった。

 少しばかり躊躇した後、僕はゆっくりと彼女の顔を覆う布を外した。痩せて頬骨の浮き出た顔は、血の気が失われたために透き通りそうなほど青白いが、それだけにゾクリとした美しさが醸し出されていた。僕の頬を熱いものが流れ伝い、落ちる。そう、いつの頃からか僕は彼女に『優しい親戚のお姉ちゃん』としてではなく、一人の女性として思いを抱くようになっていたのだ。僕はそっと、彼女の冷たい唇に口づけた。瞬間、電流のような何かが僕の全身を貫き、自分では制御しようのない、激しい衝動が胸の奥から奔出してきた。

 あぁ、決して誤解はしないでほしい。僕は決して邪な思いを抱いて両親の留守を預かったわけではなく、ただ、間もなくこの世から消え去ってしまう彼女との時間を少しでも長く共有したかっただけなのだ。勿論彼女を、その死を冒涜するつもりなどは毛頭なかった。それなのに……どういうわけか僕には白装束の紐を解き始める自分の震える手を、どうしても止めることができなかったのだ。

 露わになった豊かな乳房と、下半身の淡い茂みを目の当たりにした瞬間、僕の中の何かが音を立てて砕け散った。夢中で冷たい乳房にしゃぶりつき、先端の突起を舌で転がしながら黒い茂みの奥の、濡れてくるはずもない泉を必死でまさぐる。その指が彼女の秘奥に潜り込んだ瞬間、動くはずのない体がビクンッ! と反応したように思えたのはきっと気の迷いに過ぎないのだろう。動かぬ足を力任せに押し広げ、強引に分け入った腰を力任せに動かしていた時に聞こえた喘ぎ声も幻聴に違いなく、体奥に感じた仄かなぬくもりはただの錯覚であっただろう……気が付けば僕は下半身をさらけ出したまま壁にもたれ、呆然と座り込んでいた。自分が何をしてしまったのか理解はしていたが、不思議と罪悪感は感じなかった。

 翌日、滞りなく葬儀を終えた彼女は荼毘にふされ、僕は彼女が遺していった様々なものに思いを馳せながら、青空へと立ち昇っていく灰色の煙をいつまでも眺めていた。優しさと、笑顔と、愛情と、そして……僕の背中に、いつまでも消えぬ爪痕と痛みを。


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