日焼け (テーマ:海)

 ホテルに戻るなり、私達は大浴場へと直行した。ベタつく海水とサンオイルを洗い流し、さっぱりとした気分でこのホテルの「売り」である展望大浴場からの眺望を堪能する。大きな風呂につかりながら、海に沈む夕陽を眺めるのは最高の気分だった。

「どうしたの? それ」

 脱衣場で浴衣に着替えようとしていた時の事だ。何気なく目を向けた麻美の胸元に、奇妙な日焼けムラができていた。確か水着の時には無かった筈だけど……と訝しんでいると、麻美は「え? ううん、なんでもないよ」とぎこちない笑みを浮かべながら、そそくさと浴衣を着てしまった。必要を感じなかったのでそれ以上追求することはしなかったが、どことなく若い男性の横顔に見えたその日焼けムラが妙に気にかかったのは確かだ。

 その夜、真夜中過ぎに目が覚めた。噎せ返るような潮の臭いと麻美のか細いあえぎ声が、夢うつつの私を一気に現実に引き戻す。

(え? えぇ~!?)

 思わず声を上げるところだった。目を開けると、隣で寝ている麻美の上に覆いかぶさった黒い影がリズミカル、かつ力強く体を揺さぶっているのがぼんやり見えた。しかも、影の動きに合わせるように麻美が艶っぽい声を上げている。何をしているかは一目瞭然だ。

(じょ、冗談でしょ!?)

 友人と一緒の部屋に男を連れ込む麻美の非常識加減はとりあえず置いておくとして、いくら親友と言えども見てはならぬシーンであることは確かだ。影に絡みつく白い太腿から視線を逸らし、私は固く目を瞑る。それでも伝わってくる行為の気配はしばらく続き、私たちの部屋が再び元の静けさを取り戻したのは、麻美の押し殺した叫びの後だった。

「アンタ何考えてるのよ!」

 翌朝、本気で腹を立てていた私が詰め寄ると。麻美は困った顔で「ゴメン」と頭を下げた。

「ホントにゴメン。まさかこんな所で拾っちゃうとは思わなかったんだ……多分ナンパ目的で遊びに来て、溺死しちゃった人だと思うんだけど……ちょっとイイ男だったからつい、ね。もう大丈夫。心残りもなくなって、ちゃんと成仏したはずだから」

 は? 溺死? 成仏? いったい何のことだろう?

「あ、気付いてなかったんだ。起きてたんだったら、あの人が出て行くところは見た?」

 そういえば、あの男が出て行く気配すら私は知らない。それに、朝起きたら部屋の鍵もちゃんと閉まっていた。と、いうことは……

「心配しなくてもいいよ。多分、妊娠はしないと思うから」

 麻美はにっこり微笑むけど……そういう問題なわけ?

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