執筆中 (テーマ:実話系)

 どういうわけか10月のテーマである『本』にかなり苦戦したので、次のテーマが書きやすいものであることを祈っていたわけですが『実話系』ということでとりあえず安心しました。実はこれまでも何作か実話を元にした作品を投稿しているので、つまりはそういうノリで書けばよいのだろう、と。まず真っ先に思い浮かんだのが先日、職場の上司から聞いた話。これをアレンジしてまずは一作と意気込んで、夜も更けてから私はキーボードに向かいました。

 突然、窓がガタガタと鳴ったので一瞬、地震かと思いましたが、どうもそうではなさそうです。ならば風のせいだろうと思ってカーテンをめくってみても、街路樹のシルエットはそよとも動いていませんでした。今のは何だったのだろう? と思いながらパソコンに戻りかけた時、背後に人の気配を感じました。振り返ると、閉めていたはずのドアが少し、開いています。尿意を催した長男がいつものように「おとーちゃん、オシッコ」と起きてきたのかとも思いましたが、真っ暗な廊下には誰もいませんでした。階下からは「ズピー、ズピー」という、鼻の詰まった次男の寝息が聞こえてきます。

 気を取り直してパソコンに向かい、二行ほど書き進めると今度は階下から「ガチャーン! バリーン!」という食器の砕ける音が。洗い物のカゴが引っくり返ったのかと、慌てて階段を駆け下りてみましたがキッチンに異常はなく、あれだけの音にも関わらず家族は誰も目を覚ましていませんでした。もしや……と思いながら、二階に戻り、再びキーボードを叩き始めると今度はCDラックからCDが雪崩のように崩れてきました。

 こんなことは初めてでしたが、いくら鈍い私でもここまできたら『何か』が作品を書き進めるのを邪魔しようとしていることぐらいは気付きます。しかし、実話を元にしているとは言え、執筆中の作品は純然たるフィクションである上、元ネタとなった上司の話は、実は怪談ですらないのです。なので、いったいどこに問題があるのかが全く分からないのですが……それでもさすがにこれ以上騒がれるのはご免だと考え、その作品はお蔵入りとしました。書くのをやめると、当然のように騒ぎも収まります。

 しかし、このまま虚仮にされっ放しというのも癪に障るので、いっそのこと一連の出来事を作品にしてしまえ! というわけで、この作品を書き始めたのですが……今になってあの騒いでいた『何か』は前の作品を書かせまいとしていたのではなく、実はこの作品を、つまり『自分』のことを私に書かせようと画策し、暴れていたのではないかと気付きました。だとすれば私はまんまと踊らされていることになります。この作品も間もなく完成を見ようとしているわけですが満足感などはなく、むしろ『してやられた』という敗北感だけが押し寄せてきて今、何だか無性に腹立たしい気分です。

 

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