学園らぐなろく (テーマ:祭り)
今年の文化祭こそ最優秀賞を! という意気込みで僕達は「長崎おくんち」で有名なあの「蛇踊り」に挑戦することにした。クラス全員で協議した結果、「ありふれた出店はやめて演し物一本で行こう。派手で勇壮な祭りを自分達なりに再現しよう」ということになったのだ。美術部員や女子を中心とする「工作部隊」が素晴らしい龍を完成させ、毎日練習を重ねた「実働部隊」の息もピッタリと合うようになった。だが、誰もが「いける!」という確信を抱いて迎えた文化祭当日、自信満々で向かったグラウンドで僕らは思わぬ強敵に直面した。そこにはすでに、D組製作による巨大な「ねぶた」が佇立していたのだ。誰がモチーフなのだろう? 貫頭衣を纏い、頭の左右で髪を束ねた姿が特徴的だ。一瞬気圧されながらも、僕達は気を取り直して踊りの準備を始めた。それぞれが定位置につき、頭上高く龍を掲げた瞬間……僕達の龍がいきなり咆哮した。
大きく開いた口から、灼熱の火球がD組のねぶたに向かって発射された。直撃! と誰もが思った瞬間、今度はなんとねぶたが動いて巨大な剣を一閃した。弾き返された火球が校舎に命中し、大爆発が砕け散ったコンクリートとガラスを榴弾のように撒き散らす。初弾をかわされた龍は身をよじって僕達の手を振りほどくと、空高く舞い上がって上空から火球を連続発射。ねぶたは再び剣を振るって火球を弾き飛ばしたが、着弾した火球は出店を焼き尽くし、瞬く間に学校は生徒達の逃げ惑う、阿鼻叫喚の煉獄と化した。
もしかして、あれは……おくんちについて調べた時の資料が頭をよぎる。そこら辺で腰を抜かしていたD組の生徒を捕まえて問い質すと、やはり思った通りだった。あれは、タケミカズチ。記紀神話において大国主の息子であるタケミナカタを討ち破り、諏訪の地に封じ込めた天津神の一柱。そして「諏訪神社」の祭りであるおくんちに登場する龍神こそ、タケミナカタの化身に他ならない。僕達の蛇踊りに対抗するため、つまりタケミナカタに勝つためにD組はわざわざタケミカズチのねぶたを作ったのだ。
「何てこった……」
信じがたい話だが、僕らの造形物を依代とし、二柱の神が幾星霜を経てこの世に蘇ったのだ。宿敵である神々の戦いは学校を焼き尽くし、なおその激しさを増している。人の身では到底手出ししようのない、絶望的なラグナロクを前にした僕たちにできることは、果てなき戦いの行く末をただ呆然と見守ることだけだった……
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