ワープゾーン (テーマ:修学旅行)
異論があるかどうかは知らないが、枕投げ抜きに修学旅行の夜は語れないと僕は思う。大抵の場合は禁止行為とされているので、実行に移すと教師の大目玉を食らうという多大なリスクを抱えているのだが、その程度でやめられないのが男子という生物の愚かしさ。まぁそんな調子で今まさに、この部屋では縦横無尽に枕が飛び交っているというわけだ。
さて、ここに田村という男がいる。根っからのお調子者でウケるか引かれるかのギリギリラインのギャグに挑戦することを生き甲斐とする男だ。今回もこの男が枕の直撃を受けた際に「いや~ん、もっとぉ♡」などと言い出し、オカマキャラになりきって部屋中を逃げ回り始めたので面白がったみんなの攻撃を一身に受けるハメになった。そんな田村が「もう、イ・ケ・ズ♡」という台詞を残して押入れに逃げ込んで襖を閉め切ったのと同時に、「ゴルァッ!お前らぁっ!」と引率の体育教師がドスの効いた怒鳴り声を上げながら姿を現し、凄まじく噴き上がる怒りのオーラで僕達を瞬時に鎮圧してしまった。
この枕投げに参加した者全員、部屋の前の廊下に正座&果てることの無い説教の刑に処されることになったのだが、気が付けば田村がいない。タイミングよく押入れに隠れたヤツだけが上手く難を逃れるというのも癪な話なので、僕達は薄情にも田村の参加と現在の所在を教師に訴えた。ところが押入れにも室内にも田村の姿は無く、念のために見て回った他の部屋も同じだった。ドサクサ紛れに逃走したのか?いや、そんな隙は無かった筈だ。大体、旅先では逃げて行く場所も無いだろう。事は生徒が一人行方不明になったということで大騒動へと発展、説教どころではなくなって僕達も田村を探して宿の中を駆け回った。
「キャアァァァッ!」響き渡る叫び声を聞きつけて本来は立ち入りが禁止されている女子のフロアへと駆け上がった僕達は、何故かパンツ一丁で部屋から叩き出されている田村をついに発見した。訊けば、押入れに逃げ込んだ田村はストリップネタを思いついて服を脱ぎ、誰かが押入れを開けるのを待っていたそうだ。しばらくして押入れが開いたので、精一杯色っぽいポーズで「うっふ~ん♡」とやったら、どういう訳かそこにいたのは女子ばかり……。訳の分からぬまま、女子部屋に潜入した罪で教師にしょっ引かれた田村だったが、当然ながらどんなに追求を受けても侵入方法については説明できず、教師連中を納得させることのできぬままにようやく解放されたのは夜中を過ぎてからだった。
いかなる現象がヤツを女子部屋に転送したのか?あわよくば自分も、という下心に突き動かされて押入れに入り込み、何とか事象が再現することを願いながらも不発に終わった僕達にできることは「なんかね、いい匂いがした」と女子部屋の感想を語る田村を羨ましがることだけだった。
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