第17話 事情説明と偽装工作 2
事情があって少年時代をまともに過ごしてなかった為(ほとんど土の中に潜っていたという事は内緒)改めて人生をやり直してみたい……という事と、桐ちゃんの側にずっと付いているためには双子にするのが一番良いのではという旨の説明をした。
寛ちゃんは自分が小さな頃に不幸な目にあったせいか、まともな子供時代をもう一度できるのなら、それはいいことだと諸手をあげて賛成してくれた。
「でも、すでに大人になってしまっているのに、その意識のまま赤ちゃんが……できるのか?」
「カミィの意識を夢うつつの冬眠状態にして、まっさらな意識を上に持ってくるの。で、年齢とともにその人間としての意識と、年齢に応じたカミィの意識が混ざるように魔法をかけるわ」
「そんな事ができるのか」
「ファンタジーの世界ではそういうのもありなのよ」
「そうか、すごいな」
――実は精霊たちと一生懸命考えた。危険がせまった時にはキーワードで本来のカミィが表にでて、危機管理もできるように。赤ちゃんから育てる事で、向こう見ずな性格のカミィもヤンチャくらいにおさまるように育てなおしたいという考えもあるし。
という事でカミィと桐ちゃんは我が家に受け入れてもらえた。ので、まずは晩御飯。
今日はみんなで集まるのでちらし寿司。(私は帰ってからさらに食べる予定だった)ちらし寿司は大量につくるのでカミィがたくさん食べても大丈夫。ハマグリのお吸物や筑前煮、鶏のから揚げ、ポテトサラダ、お浸し、大根のとりそぼろ餡かけ……。
若くてよく食べる二人がいるので食卓の上には沢山の料理が用意されていた。気持ちよいほど料理が消えていく。それでもカミィの食べっぷりに皆、びっくりしていた。カミィは鶏のから揚げがとても気にいったみたい。
「本当に赤ちゃんになって大丈夫なのか?」
寛ちゃんがよく食べるカミィをみながら目を泳がせた。
「なんか、目の前で食べるたびに悪いような気がしてくるような……」
「大丈夫、今だけだから。それに、精霊は本来、食事をしないの」
「じゃあ、何を食べて生きているんだ?」
「マナと光で、あっ、こちらの世界にマナはないよ! ね? どうしよう」
「大丈夫です。宝玉さまからマナをいただいていますから」
カミィがすました顔で言った。
「えっ、私からマナがでているの?」
「えぇ、ですから私も桐さまも十分生きていけます」
「そ、それは良かったな」
「でも、赤ちゃんがその、生理的現象がないとおかしくないか?」
弟が聞きにくい事を聞いてきた。
「そちらも大丈夫です。きちんと食事をいただくとそれなりに生理的現象はおきるようになっていますから」
「じゃぁ、その辺は大丈夫として、カミィ、本当に赤ちゃんになってもいいのね」
「もちろんです。望むところです。宝玉さまに育てていただけるなんて、お母さまとお呼びしてもいいのでしょうか」
カミィの輝くような期待にみちた顔をみて……皆、納得したようだ。そこで……カミィを赤ちゃんにしてみた。ふっくら赤ちゃんになったカミィを見て
「これならちょっと顔の整った赤ちゃんで通るわね」
母は少し残念そうだった。
「あーそれで、きーちゃんにいきなり子供ができるというのは、無理があると思う」
寛ちゃんが言った。
「そうだよ、お腹ペッタンコじゃないか。今はちょっと膨らんでいるけど……」
弟の駿がわたしのお腹を見ていいやがった。失礼な奴。
「遠縁かもしれない人が、双子を家の前に置いていったというのはどう?」
「変だろ」
「きーちゃんと顔がそっくりすぎるわね」
「つまり!」
寛ちゃんがコホンと咳払いをした。
「俺の子にすればいいと思う。俺ときーちゃん、なんとなく顔が似ているし」
えーと、寛ちゃんはイケメンですが、眼鏡を取って女装すると女性に見える。忘年会で女装した写真は美人だった。つまり、寛ちゃんはどちらかというと女顔で、私が男っぽい顔をしているわけではない。
「寛ちゃんが産むほうがおかしいよ」
「いやいや、俺、結婚しようと思うんだ」
「「「おめでとう」」」
「ありがとう。それで、彼女が産んだ事にすればいいと思う。」
「それこそ、無理じゃない?」
「いや、偶然、たぶんだが偶然がうまく重なっているからうまくいくと思う」
寛ちゃんがいうには、寛ちゃんの彼女は隣の県で保育士をしていて……そこのお局さまがきつくて、ついにこの5月の始めに保育士を退職したそうだ。彼女は隣の県の保育士の公務員試験に合格したので、彼氏である寛ちゃんとも遠距離恋愛? で離れて暮らしていた。
隣といっても地理的に遠いし、お局さまの要求に応えるのと寛ちゃんと会う時間をつくるので忙しくて、以前の友達とは一切あってないし、お局さまのターゲットになってしまった為、あちらでも孤立して友人ができなくて、さらに複雑な家庭環境のため家族、親族との交流が一切ないとの事。退職後は人に疲れたと山間の貸別荘で引きこもりになってしまっていた。
寛ちゃんと会っているところを見られたくなかったため、二人とも変装してこっそり会っていたので寛ちゃんの友達も彼女にあった事はない……。
「なんだか、秘密の交際だね」と私が言ったら、とにかく二人で一緒に居たいというのが最優先だったので、寛ちゃんも仕事と勉強の合間を縫うようにして会っていたそうだ。
研修医って休みの日でも病院に行って患者さんの様子を見ないといけないし、勉強もかなり大変なのに恋の為なら人は頑張るんだね。
彼女は母親と諸事情で音信不通にしている為、妊娠していなかった事を誰にも知られることはないと……。
うーん。
「今回、この近くの関連病院の先輩が腰を痛めて変わってほしいとの要望が医局にあって、俺がこちらの病院へ勤めることになったんだ。で、ちょうどいいから結婚してこの近くに住もうかなと思っていたのだけど、双子を彼女が産んだ事にして同居したらどうかな?」
「どこで、赤ちゃん産んだことにするの?」
「あっ、それお母さんの知り合いの、ほら、お産婆さん」
「引退して故郷に帰ったのよね」
「そう、そこ神奈川の田舎だから、そこで産んだ事にしてもらうといいわ」
「母子手帳は?」
「月曜日にもらってくる」
寛ちゃんが自信ありげに言った。
「本人でなくていいの?」
「代理人で大丈夫だ。事情があってもらうのが遅れたといえばもらえる」
「その前にお産婆さんに会いにいかないと」
「ちょっと、待って。彼女の気持ちは?」
「今から電話で事情説明して明日、きーちゃんとカミィさんと桐ちゃんと会いにいけばいいんじゃないか。姿は消せるのだろう?」
「そうね。直接見てもらったほうがいいわね。でも、彼女の気持ちが優先よ」
「もし、断られたらどうすんだよ?」
弟がボソッと言った。
「そのときは、仕方ないから拾った事にしよう」
「たぶん、うちの家族構成だと里子ですんなり申請が通ると思うし、その後の養子縁組も問題なくできると思うわ」
法律事務所でパートをしている母が言った。そこの弁護士の先生に頼むつもりかも。
「むしろ、そちらのほうがいいかも」
「いや、後々のことを考えると実子のほうがいいと思う。万が一だが余所にとられてしまう事もありえるからな」
「そうだ、俺の子だと女性に置いて行かれた、という手もあるな」
寛ちゃん、とんでもないことを言い出しました。彼女がいるのに……。
「……」
「寛ちゃん、どうしても自分の子にしたいの?」
「ああ、この子たちに幸せな家庭をあたえたい」
寛ちゃんはどうやら自分に重ねて使命感に燃えてしまったようで……、私の子だと思うのだけど……。ともあれ、今日連絡するところは連絡して、明日彼女に会いにいってからお産婆さんに会いに行くことになった。
そして……結論からいうと、寛ちゃんの彼女はとても喜んで同意してくれた。
「世界平和のために、私で何かお役にたてるのであれば嬉しいです」って言っていたけど、ちょっと違っているような気がしなくもない。
お産婆さんもカミィと桐ちゃんを見て協力してくれることになった。もうお歳なので驚かせるのは心配だったけど、カミィと桐ちゃんを見て眼福だと喜んでもらえたので、良しとしよう。なんというか……美形はお得だと思う。
まず寛ちゃんと彼女の深雪さんの婚姻届を出してから、カミィと桐ちゃんの出生届けを出した。カミィと桐ちゃんの誕生日は、8月1日。そして土曜日、二人は赤ちゃんになったカミィと桐ちゃんを連れて実家に引越してきた。
寛ちゃんの職場には、彼女が複雑な家の事情を抱えていたので子供が生まれるまで秘密にしていたという事にし、結婚式はいずれ、父を交えて海外ですると伝えた。
二人ともいわゆる式場で行う結婚式はあまりしたくないとの事なので、落ち着いたら食事会を職場の人を中心にすることにした。その前に婚礼写真は撮りに行ったけど、今は写真だけの結婚式をする人も結構いるらしくて、二人の仲の良い写真はもう居間に飾ってある。
私も家を出て一人暮らしをしていたけど実家に戻った。
ちょっと遠くなるけど、早めに家をでるようにすれば通勤に問題はないと思う。我が家は一挙に母、弟、寛ちゃん、深雪さん、守唯(カミィ)、桐ちゃん、私プラス海外勤務の父で8人の大家族になった。
「乾杯」
「乾杯」
今日は、皆の引越しが終わったので引越し祝い。
「お疲れ様」
「大変だったね」
「怒涛の一週間だった」
「ちょっと前には考えもしなかった大家族だよな」
弟が感慨深げに言った。大学生だけど夏休みなのでとても役にたった。
「これから、よろしくお願いします」
寛ちゃんのお嫁さんの深雪さんが可愛らしく挨拶してきた。彼女はホンワカしていてとても可愛い。思わず苛めたくなるお局さんの気持ち、ちょっとわかるような気がする。
「こちらこそ、いきなり子持ちということになって申し訳ないのですが、よろしくお願いします」
「いいえ、二人ともほんとうに可愛くて……」
「いや、ほんと、可愛いよ。子供はたくさん欲しいな」
寛ちゃん、お顔がにやけている。カミィが完全に赤ちゃんになってしまったので、双子のお世話は母と私と深雪さんとでする事になったけど……寛ちゃんと弟の駿がすごく面倒をみてくれて私たちの出番がないくらい。
「あ~あ、明日から出勤かぁ」
「子供たちのために頑張って稼いできてね」
「よし、パパ、頑張るぞ」
寛ちゃんが嬉しそうにしている。
そのあと、呼び名を決めるのが大変だった。母が『おばあちゃん』は絶対にいやなので、お母さんと呼んでほしいと言うし。寛ちゃんはパパと呼んでほしいみたい。そうしたら深雪さんがママ。
では、本来の親? である私はお姉さん?
「おばさん」
駿がぼそっと言ったので抓ってやった。
「いたっ! だって一応そうじゃないか」
「おじさん」
「俺は、まだ若い」
「私は本来の親だし、カミィもお母さまと呼びたいみたいだったし、母さまでいいわ」
「お母さん、母さま、ママか……母親が3人というのはいいな」
寛ちゃんが楽しそう。
「じゃぁ、おれは父さまでいいよ」
「20歳で子持ち?」
「いいんだよ。ひとりだけおじさんなんていやだ」
「なんか変だけど、目くらましになってかえっていいかもしれないな。でも、兄さんというのもいいんじゃないか?」
「兄さん、兄さんか、それもいいな」
「そうね、でも、お父さんが帰ってきたら、お祖父さんと呼んであげましょう」
母が笑いながら言った。
「お父さん、すぐ気づくかな?」
「自分だけ、おじいさんって?」
「3日に千円」
「いや、さすがに1日に2千円」
かわいそうに、蚊帳の外の父は賭の対象にされてしまった。ともあれ、父が帰ってくるのはお正月なのでどんな反応をするのか楽しみ。
ちなみに、家族にコビトのことは内緒。コビトが頭の上で踊っているって知らないほうが、精神的に平和でいられると思うから。
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