第6話  白亜の宮殿とテーマパーク?

高級料亭で食事をした後、王都の宮殿に連れて行ってもらった。まさに白亜の宮殿。お疲れでしょうから宮殿内の説明は翌日にしますと言われ、直ぐに私の私室に案内された。この宮殿は私のお城だそうです。びっくり。

 まるで絵本に出てくるシンデレラ城みたい。

 あまりの立派さにボーっとしつつ、ファンタジックな恰好をした侍女役の精霊さんに連れられて部屋付の大きなお風呂に入ってから、天蓋付きのお姫さまベッドに横たわった。こんなヒラヒラフリルに囲まれて寝てみたいと子供の頃に夢見ていたようなベッドだった。


  勇者たちのコビトはフヨフヨと空中に浮かびながら私の後ろをついてきた。頭や体に乗ったりはしなかった。なんだかとても遠慮しながらおずおずとついてきている感じ。声をかけると一瞬嬉しそうにして、またすぐに小さくなる。そんなに気兼ねしなくていいのに……と思う。


  コビト用に小さなかごにクッションを詰めてベッドにしたものをテーブルの上に用意してもらい、二人に「ここでお休みなさい」と声をかけてみたら、大人しく横になったので私もベッドで寝る事にした。スプリングも心地よいベッドでとても高級な寝心地、ちょっと気後れする気分。


 ……。  ……。  ……。

 羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が沢山……。

 う~ん、眠れない! 色々あったせいか疲れているのに目が冴えてしまった。サイドテーブルの足元には柔らかい光が灯されている。

 テーブルに置いてあった水差しからお水をコップについでゆっくりと飲みほした。美味しいお水。立ち上がって広くて美しい部屋を歩いてみた。ウロウロと。そして、ベッドルームの奥にあったドアを開けてみた。


「ええっ!」


 ドアの向こうは『始まりの森』の、あの大きな木の洞だった。先ほどは洞の部屋をよく見わたす余裕がなかったけど、改めて見ると昔と変わらぬ苔もどきのカーペットに包まれたあの部屋だった。柔らかそうな緑のシングルベッド。

  とても懐かしくて、洞の部屋に入るとそっとベッドに寝転んでみた。ここに来た当初、洞の部屋には緑のベッドだけだったが、暮らしているうちに精霊たちが草で上掛け布団を作ってくれた。

 緑の草がツヤツヤと美しい掛布団。端には複雑な模様がさり気なく刺繍してある。これ、草なのに劣化してないのは不思議。昔、小さな精霊たちがチマチマと編んでくれる様子は……可愛かった。


 当時、木製のテーブルや細工の細かい棚なども次々に増えて、緑の部屋は少しずつ居心地の良い空間に変わっていった。今、横になってみると本当に心地よくてすぐに眠りに引き込まれていく。このベッドの見かけはどうあれ寝心地は極上。本当に気持ちよくて…………。

 …………。 

 …………。


「トントン、トントン」

 ノックの音が聞こえる。いったい何? 柔らかい朝の陽ざしが窓から入ってきて、部屋の中なのにさわやかな高原の風……。

 えっ! 部屋の中……あぁ~思い出した。ここは精霊の国。

 侍女さんが困っているかもしれないので、すぐに飛び起きてドアを開けた。


「おはようございます。姫さま」

「おはようございます。こちらの部屋にいなくて驚いたのではないですか?」

「いいえ、姫さまでしたら『始まりの木』のほうが落ち着かれるのではないかと思っておりました。ただ、せっかくですから姫さまが昔描かれたお部屋で過ごしていただけたらと思って、ご案内させていただいたのですわ」


 そう、この宮殿の内部の部屋は昔、私が描いた部屋にそっくりだった。気づいてはいたけど、忘れようと思ったのに。


「ひょっとして、この宮殿が私の絵をもとに作られたというのは、皆さんご存知なのですか?」

「もちろんでございます。学校でも最初に習う事です。もっとも学校に行く前に精霊たちは皆、姫さまのなされたことを親たちが話して聞かせますのでしっかりと存じております」

「学校……ですか」

「始まりの学校は青空のもと、姫さま自ら長老たちに教えさとしたと教科書に載っております。私も姫さまにお目にかかれて本当に嬉しく思います」

「そ、そうですか……」 

「はい。ところで、朝食のご用意ができております。本日はアメリカンブレックファーストでございますが、玉子料理はいかがいたしましょうか?」


 まるで、ホテルの朝食のオーダーみたいね。


「それでは、目玉焼きの軽い両面焼き、ベーコン付きでお願いします」

「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」


 ベッドルームに続く洗面所にいって顔を洗い、若草色のドレスに着替えた。このドレス、光沢があって所々キラキラしていてボレロにも繊細なレースが飾られているのが、まるで何処かのお姫さまみたい。そういえば、私は姫さまと呼ばれているけど、ずっとそう呼ばれていたから慣れてしまったような、いいのかな……。。

 なんて考えながら侍女さんについて食堂へ行った。明るい陽射しの差し込む食堂は庭園の花園に張り出していて、


「おはようございます。姫さま」


 白いコック帽をかぶりこれぞ料理人といった風情の精霊がにっこり笑って挨拶をしてくれた。彼の前には移動式のホットプレートみたいな鉄板があり、ジャガイモ、人参、ブロッコリーが既に焼かれていた。

 こちらの野菜は日本のものと似ているけど少し違っている。見た目は色味が濃くて味も滋養も日本で売っているお野菜よりも深いな~という感じでとても美味しい。


「フライドエッグの両面焼きでございますね」


 なんだか楽しそうに精霊のコックさんはベーコンをカリカリに焼き上げ、目玉焼きの黄身をとろりと私好みに焼き上げてから、目の前の温められた白いお皿にそっとのせてくれた。お皿の小花模様が可愛い。

  勇者たちのコビトも美味しそうに小さく分けられた朝食を食べている……コビト一人に一個の卵は多いと思う。……食べてしまっているけど本当にどこに入っているの?


 料理人付きのアメリカンブレックファースト朝食はとても美味しく心も体も満たされた。やはり食とシュチエーションは大事だと思う。



  食後の紅茶をゆっくりと飲んでいるとノックの音が聞こえた。

「姫さま、リヨンです。よろしいでしょうか」

「どうぞ、お入りください」

 最長老のリヨンがかわいらしい女性の精霊をつれてにこやかに入ってきた。


「おはようございます」

「おはようございます」

「姫さま、昨夜はよくおやすみになれましたか?」

「ええ、おかげさまで。『始まりの木』のベッドは相変わらずよい寝心地でした」

「それはよかったです」


 リヨンはうれしそうに微笑むと、


「本日は精霊の国を簡単にご視察いただきたいと存じますが、その際に姫さまのお側につく精霊を紹介いたします。もちろん私も側におりますが、女性の方が良いかと存じまして、こちらのリーリにおっしゃっていただければ、お世話をさせていただきます」

「リーリと申します。よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いいたします。専属の秘書さんみたいな感じですね」


 リーリは精霊には珍しくとても可愛い顔立ちだった。ちなみに精霊は可愛いよりは美形タイプが多いので、可愛い精霊はかなり人気者になるらしい。

 最長老のリヨンに今日の予定を聞いてから、先ずはこの宮殿の中を案内してもらったが、この宮殿はファンタジーをテーマにしたテーマパークのようだ。過去に私がホテルのスイートルームや古城、宮殿を参考にして描いた『理想の宮殿そのⅠ』そのもの。


 実は高校生のころ『Palace』という名称でホームページを作っていた。世界の宮殿の写真や私の考えた理想の宮殿、天蓋つきお姫さまベッドがお部屋の真ん中に鎮座したマイルームなど私の描いた画像を中心にサイトを作成していた。


 誰にもアドレスは教えなかったしサイトの登録もどこにもしなかったので、訪れる人もいない完全に自己満足の趣味サイトだった。でも、宮殿の絵は写実的、具体的説明入りで創っていったので見ているだけでも楽しくワクワクした。画像編集はフリーのソフトを使い、レイヤーという透明なフィルムのようなものを重ねる事でかなり色々な効果を加える事ができるので、自分の好きなように画像を創る事ができてそれはとても面白かった。


 でも……こうして私の理想が現実の形になっていると、なんだかアトラクションを見て回っている感じがする。……それはそれで感慨深いものがあるけど。

 本音を言うと……かなり楽しかった。ファンタジーなファッションを身につけた美形な精霊たちとすれ違うのは眼福で、小物に丁寧にかざり細工がしてあるのも目に美しく「夢の世界を歩いている」という雰囲気は楽しいものだ。でも、お城のあちらこちらに大きな肖像画があるのはかなり困りもの。その肖像画は美化された私の絵だから……。色んな場面の色んな表情を切り取って飾ってくれているけど。

 ――ちょっとこれは、止めてほしい。


 そして、よーく、見覚えのある部屋にきた。かなり頑張って彫刻とか創りこんでインテリアもこだわった部屋だ。そこで、その部屋の肖像画を横からずらすように押してみる。……動いた。そして、そこには地下へと続く隠し階段がある。まさかここまで再現しているとは……驚き。階段の内側に置いてある移動用のランプを持って、その地下への階段をそろりそろりと降りていくと美しく装飾された木の扉があった。扉の横には扉のカギがおいてあるし。――カギの意味がないよね。


 カギを鍵穴に差し込んでカチッと回してみると開いた。そして、そこには宝物の山。これ、どこから持ってきたの? まさに金銀財宝が積みあがっている。床に金貨が散らばっているけど……。精霊たちには物欲はないはずだから……単に宝物庫を再現するために集めたのかもしれない。

 私の描いた絵も床に金貨をばら撒いていたし。

 奥にはキラキラ光る大きな石が鎮座していて、その石に美しい剣が刺さっている。この剣抜いたら『あなたが選ばれた勇者です』とファンファーレがなるのかも。いえ、私が昔描いたのだけど……見なかった事にしてそっと扉を閉めた。案内してくれた精霊のリーリは特に何も言わなかったのでなかった事にしよう。

 うん、私は何も見なかった。


 今日もいいお天気でさわやかな風が心地よい。精霊の国は湿度が低いし過ごしやすい気候になっている。 

 アフタヌーンティーセットを揃えて空中庭園のテラスでお茶をする事にした。外に視察に行くはずだったけど、宮殿見学が思いのほか時間がかかってしまって疲れたのと小腹がすいたので、少しだけ休憩。……宝物庫は、精神的に疲れた。


 三段になったハイティースタンドの一番下にサンドイッチ、二番目にスコーン、一番上には一口サイズのケーキが五種類のっている。クロテッドクリームやジャムも各種取り揃えて、サンドイッチは胡瓜とハムと玉子。シンプルで美味しいし胡瓜のぱりぱり感がくせになる。これは定番。まだ10時半ぐらいだけどアフタヌーンティーセットではなく、10時のお茶セットと呼んだ方がいいのかも? 


 こんなに食べて大丈夫かなとは思うけど、たまには良いと思う。後からダイエットすればいいんだし。

 ちなみに、勇者と巫女のコビトたちも一緒に食べている。君たち、結構な量を食べているけれど大丈夫?


 なんだか精霊の国へ来てから食べてばかり。でも前回100年ほど絶食しているのを見ていたせいか、精霊たちが事あるごとに食べ物や飲み物を勧めてくる。通りすがりの精霊さえポケットから飴やお菓子を取り出して勧めてくる。


 あっ、コビトたちがまた受け取って飴を食べている。どうしよう、餌付けされて嬉しそうだけど太らない?

 コビトは痩せてるのもいれば太っているのもいて、ほとんどは付いている人と同じ体型だけど、中には痩せてる人に太ったコビトとか、人は太っているのに痩せているコビトとかもいる。

 コビトは小さいからコロンと転がりそうな体型でも、それはそれで、可愛いけど……。


 服のセンスはコビト様々で、人とは違うことが多いような気がする。

 

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