幕間 クリスマス

 sideユーゴ


 少し寒い季節になって来た。


 つまりサンタの出番だ。もっと言えばパパサンタ。そうに違いない。


「すいません。上下共に赤い服ってあります? 所々白があればもっと嬉しいんですけど」


「ないねえ。作る?」


「お願いします」


 ジネットとのあれこれでしょっちゅう世話になっている、ナイスミドルが経営している服屋に突撃して尋ねたが、流石にそんな奇抜な服はなかった。


 まあ、上下が赤い服とか変わり者の特級冒険者がひょっとしたら? ってレベルの話だから仕方ない。しかしナイスミドルは俺の記憶を再現することに関してプロの領域であり、今まで様々な服をげふんげふん。


「故郷じゃいい子にしていると赤い服を着たおっ……妖精さんがプレゼントをしてくれる風習がありましてね」


「ふむふむ」


 危ない。赤い服を着たおっさんが人の家に無断侵入して、物を置いていくと説明したら色々誤解されそうだ。


 はて、そういえば俺はいつまでサンタの存在を信じていただろうか。


 サンタの正体を突き止めるため、結構遅くまで起きていた記憶はある。次の日にはお菓子のプレゼントが置かれていたから、親父に付き合わせてしまったな。


「こんな感じかな?」


「完璧です」


 ナイスミドルが俺のあやふやな説明を聞きながら軽く絵を描くと、そこには想像した通りのサンタ服が。


 流石の一言である。


 あ。


「ついでに鹿っぽい小さい角を作れます?」


「余裕だね」


 やはり……流石である。


 ◆


「パパはなにしてるの?」


 それから数日。本番に向けて柔軟体操をしているとクリスが首を傾げた。


「パパは体が硬いから、ちょっと運動しようと思って」


「へー」


「うごっ⁉ 思った以上に硬い⁉」


 リビングのカーペットに座り、股を開こうと思ったら全く動かない! これが老化に伴う筋肉の硬直⁉


「急にそんなことをする……怪しい。なにか企んでると見た」


「ハハハハ。ソンナコトナイヨ」


 やはり普段と違うことをするべきではなかったか……コレットにジーっと見られて、かなり怪しまれてしまった。


「あ、あ」


「アンちゃんどうした?」


 その時、コレットが抱っこしているアンがなにやら言いたそうに口を動かすと、企みに対する注意が逸れた。


 ふう……凌げたか。


「んん……」


「あ、イツキが起きたよ」


 更にクリスの腕で寝ていた樹も目覚めたことで、サンタ計画の露見は完全に防がれるのであった。


 さて……気合入れていくぞ!


 ◆


「珍しい風習があるのですね」


「寒い地方が発祥だったかな? いや、違ったかな」


 赤い服に帽子、白い付け髭を装着してパーフェクトサンタ状態を確認すると、ジネットが物珍しそうにしていた。


 しかし……なんかサーフィンしてるサンタ姿がちらついたぞ。間違いなくサンタは寒い地方の筈なんだが、なんでそんな光景を見た覚えがあるんだ?


「こっそり忍び込んでプレゼントだけを渡すなんて、凄腕の暗殺者が引退して生き甲斐を見つけたんでしょうね!」


「言われてみれば……」


 ルーの断言に思わず納得してしまった。確かに人の家に勝手に侵入してプレゼントを置くのは並大抵の技量じゃない。そう考えるとサンタのルーツはかなり物騒だったのか? 中卒の俺には分からん。


「皆きっと喜んでくれますよ」


「うん。俺も子供達のために頑張るよ」


 微笑むリリアーナに強く頷く。

 サンタとはパパの義務であり、地球でも世界中のお父さんが頑張っていることだろう。間違いない!


「頃合いかと」


「ありがとうアリー。じゃあ行ってくるよ」


 子供達が寝静まったのを察知したアリーが、サンタの出動時間を教えてくれた。


 袋よし! プレゼントよし!


「ポチ、タマ。出動!」


「わん!」


「にゃー」


 トナカイの角を装着したポチ、タマと共にパパサンタ出動!


 まずはセラとアンがいる部屋だ。


「入るよー……」


「にょほほ。この子は夜に寝たら起きんからのう」


 こっそり部屋に侵入すると、セラがワインを飲みながら微笑んでいた。


 そしてベビーベッドで眠るアンは彼女の言う通り、全く起きる気配がなく堂々たる眠りっぷりだ。


「熊さんは……あった。よし、それじゃあ凛と樹の部屋に行くから」


「うむ」


 暫く見続けたいが今の俺はサンタだ。袋から熊のぬいぐるみを取り出してアンの隣に置き、次は凛の部屋に向かう。


「入るよー……」


「はい。起きる気配は全くありませんよ」


 同じ様に小声で部屋に入ると、凛が樹のベビーベッドの近くにいた。


 樹もまたアンと同じ様に。いや、更に堂々と寝ている。ちょっと昔のコレットを思い出すマイペースさを感じるな。


「熊さんを置いてっと……じゃあクリスとコレットの部屋に向かうね」


「分かりました」


 任務はまだ途中だ。クリスとコレットにプレゼントを渡す必要がある。


「よし、行くのだポチ、タマ……」


「ワン……」


「にゃー……」


 小声で話すサンタ隊。


 締めの任務は我が家の番犬と番猫に託す。お年頃になり始めた子供達の部屋に、親父がずかずか入っていたら迷惑だろう。


 ってな訳で、購入した色々動く図鑑のようなものの最新バージョンをポチとタマが咥えると、俺に出来るのは無事を願うことだけだ。


 クリスは結構熟睡するけど、コレットはかなり鋭いから頑張ってくれタマ。


 結果は……。


 全国のお父さん。俺はやり遂げたよ。

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