一晩経って

 sideセラ


 アンドレアを産んで夜が明けたようじゃ。それほど疲れたとは思わなかったのじゃが、精神的に緊張していたせいか直ぐに眠ってしまったらしい。


 とは言え、種族的に頑強じゃから回復するのも早い。ドロテア殿に調子を見てもらった後、リビングのベビーベッドで眠っている筈の我が子を見に行く。


「ありがとうのう。寝ずに面倒を見てもらって」


「皆さんありがとうございます」


「そんな。家族のことじゃないか」


 リンと共に、リビングで寝ずの番をしてくれていただんな様達にお礼を言うが、家族のことじゃと言われた。にょほほ。


「おひい様、リン様どうぞこちらへ」


 アレクシアに促されてベビーベッドへ向かうのじゃが、その表情は気のせいではなく頬が緩んでおる。儂も姉と言えるアレクシアに娘を見せることができてよかった。


「いやあ可愛いです」

 

 ベビーベッドの傍ではルーがニコニコ顔じゃ。


 さて、その我が娘アンドレアとリンの息子であるイツキじゃが……。


「こちらは寝るのが仕事じゃの」


「そうですね」


 当然寝ておった。


 アンドレアもイツキもすやすやと寝ておるが、アンドレアは若干むずがった後のような表情じゃ。正夢の日が本当かは分からんが、おてんばの片鱗が見えているかもしれんのう。にょほほほほほ。


 む。できるだけ足音を立てないようにしながら、それでいて急いでやって来る気配がする。これはクリスとコレットじゃな。ジネット殿が教えておったダークエルフの歩法を習得しておるが、どうもアンドレアとイツキを起こさないようにしておるらしい。


「あの子達は……」


 それを感じたジネット殿が苦笑する。生きるために教え術が、まさか赤子を起こさないために活用されるとはの。


「はははは。昨日は寝かしつけるのが大変だったね」


「うふふ。クリスもコレットちゃんも、ずっと起きているつもりだったみたいです」


 だんな様とリリアーナ殿が言うには、クリスとコレットは寝ないつもりだったらしい。じゃがそんな訳にもいかず、なんとかベッドまで連れて行って寝かしつけたようじゃ。妹と弟を大事にしてくれる気持ちは嬉しいのじゃが、それで体を壊したら困るのう。


「突入……」


「お姉ちゃん衛兵とお兄ちゃん衛兵だ……アンちゃんといっくんの様子を確認しに来た……」


 そんなコレット曰くお姉ちゃん衛兵とお兄ちゃん衛兵とやらが、ものすっごい小声でリビングにやって来た。


「おはようコレット、クリス」


「おはよう。リンねー、セラねーはもう立っていいの?」


「異常なしと見た」


「うむ。元気いっぱいじゃ」


「心配をかけたな」


 皆が子供達に声を掛けるが、二人はすぐにわしらのことを心配してくれた。本当に優しい子達じゃ。


「今、樹とアンドレアを見ていい?」


「うむ。と言っても寝ておるぞ」


「本当だ。ねえコー、ひょっとして赤ちゃんってずっと寝てる?」


「その可能性はあるかもしれないし、ないかもしれない。こういう時はお婆ちゃんに聞く」


「フェッフェッ。来週くらいには目が開くからそれまで待つんだね」


「へー」


「ほうほう」


 アンドレア達は産まれた直後から変わっておらん。ドロテア殿の言う通り変化があるのは少し先のことになるじゃろう。


「お兄ちゃんって呼んでくれるのはいつ頃?」


「ねーねも」


「それは色々と差があるから分からんね。それにもっと先の話になるから、今は気にせず顔を洗ってきな」


「はーい」


「りょ」


「流石だ婆さん……」


 素直に顔を洗いに行った子供達を見て、カメラを片手にしただんな様が呟いた。わしも母と呼ばれるときが待ち遠しい。


(ポチ警備隊長が報告! 見回り終了!)


(タマ警備隊長が報告。異常なし)


 子供達が部屋を出て行ったあと、入れ替わるようにポチとタマがやって来た。最初は精霊の言語が分からなかったものの、今ではなんとなく理解できるようになった。


 それにしてもクリス達と一緒に行動しておるからか、言動がそっくりじゃ。


(ところでポチって呼んでくれるのはいつ頃?)


(タマもよろしく)


 これもじゃのう。にょほほほ。


「ふえ。ふえええ!」


 おっと、アンドレアが泣き出してしもうた。しかしイツキは我関せず寝ておるところを見るに、中々肝が据わっておるわ。


「どうしたアンドレアよ。母はここじゃぞ。お腹がすいたかの? それともオムツか?」


「先ほど私がしましたので、なにか別の理由かもしれません」


 ふむ、アレクシアがどちらもしてくれたらしい。本当に頼りになる姉じゃ。しかし、それなら気温かの?


「ふえ……すう……」


「寝入ってしもうた。ひょっとしたらわしとアレクシアの声を聞きたかったのかもしれん」


「そうだね。きっと安心したんだよ」


「おひい様……ユーゴ様……」


 にょほほほ。わしとだんな様がアンドレアが泣き止んだ理由を話すと、アレクシアの目元が赤くなっておる。


 昔お爺様に言われたことを思い出すのう。わしの幼いころは寂しがり屋の甘えん坊だったようで、母上かアレクシアがおらんとよく泣いたらしい。


「ふえええええ!」


「ぬお。今度はどうしたのじゃ?」


 再びアンドレアが泣き出したのじゃが……。


「アンー。パパはここだよー」


「すう……」


 だんな様の声を聞いたらまた眠ってしまった。


 にょほほほ。やっぱり甘えん坊じゃのう。

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