再び待ち望んだ日2

 sideユーゴ


「リリアーナ殿とジネット殿がクリスとコレットを産んだときのことを参考にしてたから、わし結構覚悟しておったんじゃが」


「私もです」


 ベッドの上のセラと凜が普段とそう変わらない顔色で話し合っている。


 ジネットとリリアーナが子供達を産んだときは、難産という程ではなかったが人並みに苦労はしていた筈。それを参考にしていたセラと凜も、自分の時は同じようになるのだと考えていたようだが、彼女達が思っていた以上に吸血鬼と鬼のお産は軽いらしい。


 これには心配していたアリー、ルー、ジネットもほっとしたようで、お産の準備を終えてその時を待っている。


 一方、我が家の頼れるお婆ちゃんはまた二人になっている。たまに思うんだがこの婆さんどれだけ分身出来るんだ? 婆さん戦隊が結成されたら子供達は喜ぶかもしれんが……うん。目を輝かせてどうなっているか聞くに違いない。


 そうだ。俺も何とかして増えたら子供達が目を輝かせてくれるかな? ちょっと前にもう一人俺がいたからいけるんじゃないか?


「代わりにあちこちで胃がなくなるね」


「なにを言ってるか分からんな。それよりセラ、凜、寒かったりしない?」


「大丈夫じゃ」


「はい。特に問題ありません」


 婆さんの独り言は放っておこう。念のため聞いた室温も大丈夫そうだから、後は婆さんにお願いするしかない。


 あ!?


「む。産まれるやもしれん」


「お、同じくです」


 コレットとクリスが生まれた時のように、同時にお産が始まった!


「こうなる気がしてたんだよ。ほら、最後の最後だから頑張りな」


「むうう」


「ぐう!」


「頑張れセラ! 凛!」


「おひい様! リン様!」


「凜ちゃん! セラちゃん! もう一息だよ!」


「しっかりするのよ」


 いくらお産が軽いと言っても、流石にセラと凜の顔が強張っている。クリスとコレットの時はここからが長かったから腹を括らないと!


 っうん?


「おぎゃあああ! ふぎゃああああああ!」


「ほぎゃ! ほぎゃあ!」


「ほら産まれたよ」


「な、なぬ?」


「え? 本当ですか?」


 他ならぬセラと凜が困惑するほどすんなりと、金の髪を持つ女の子アンドレアと黒い髪を持つ男の子、樹が産まれてきた!


「ふうむ。多分ないとは言ったものの、アンドレアの方はひょっとしたら立つかもしれんと思ってたけどそんなことはなかったね」


 ダブル婆さんとアリー達がてきぱきと動き、へその緒を取ってからアンドレアと樹を産湯で洗う。


「ようございました……ようございました……」


「よかったですね凜ちゃんセラちゃん! 樹君とアンドレアちゃんが産まれましたよ!」


「そうか。産まれたか。にょほほほ」


「ああルー。ありがとう。樹、ああ……」


 感動しているアリーとにこやかに告げるルーの顔で、セラと凜は子供達を産んだ実感が湧いて来たらしい。ほっと一息吐いて笑顔になっている。


 そして俺の方も赤ん坊の顔を見て実感する! 親父! お袋! 樹とアンドレアが産まれたぞ!


「ほら抱いてやりな」


「おおアンドレア! 始めましてじゃな!」


「樹、私が母だぞ」


 布を巻かれてむずかっていた子供達だが、婆さんの手からセラと凜が抱き上げると、本能的に母親が分かるのか落ち着いた。


「実家のナスターセ家の顔じゃが、目元はだんな様に似ておるのう」


「樹は写真で見た勇吾様の赤ん坊の頃にそっくりです」


「そうかな? へっへっへっ。アンドレアー、樹ー。パパですよー」


 子供達の顔を覗き込みながら、俺の顔はにやけてしまう。


「それじゃあ身を清めるよ。その後でリリアーナと子供達を呼んでやりな」


「分かった」


 クリス、コレット。もう少し。もう少しで弟と妹に会えるよ。


 ◆


 婆さんの魔法で色々と綺麗にした後、リビングで待っているリリアーナ、クリス、コレットに知らせに行く。


「アンドレアと樹が無事生まれたよ! セラと凜も大丈夫!」


「ほんと!?」


「すぐ行こう。さあ行こう」


「おっと、静かーにね。凜とセラも疲れてるし、赤ちゃんはびっくりしやすいから」


「うふふ。産声が聞こえたんですけど、それからずっと興奮してて」


 リビングに入りながら知らせると、興奮しているクリスとコレットが飛び出そうとしたので慌てて止める。


「コー静かにね」


「クーが静かに」


「うふふふふ」


 お互い人差し指を唇に当てて、しーっとジェスチャーをし合っている子供達を連れて寝室に向かう。


「おお来たか」


「ようやく会わせることができた」


「セラねーリンねー大丈夫?」


「問題なし?」


「うむうむ。多分、思っているよりずっと大丈夫じゃ」


「ああ大丈夫だ。それでだが、そこにいる右が樹で左がアンドレアだ」


 部屋に入るなりセラと凜を気遣う子供達。そして、凜が視線を向けたベビーベッドの上に樹とアンドレアが眠っていた。


「わああ……」


「ふおお……」


 子供達がものすごい小声で興奮の声を漏らす。


「初めまして。クリスお兄ちゃんですよー……」


「アンちゃんいっくん。コレットお姉ちゃんだよー……」


「パパ、自己紹介した」


「次は起きてるときにする」


 眠っている赤ちゃんを起こさないように、小声で自己紹介をするクリスとコレットは満面の笑みだ。


 そしてコレットとクリスがお姉ちゃんとお兄ちゃんになったように、俺は樹とアンドレアのパパになった。


 ああ……幸せだなあ。

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