ロバートソンの走馬灯 狂犬ユーゴ

 大商会“満ち潮”の会長ロバートソンは走馬灯を見てしまう。これは怪物と遭遇したら毎度のことで、強烈な体験と合わさり、実際に体感しているかのような臨場感あるものだ。


 パッとしない行商人だった彼が、巨万の富を求めて古代ドワーフが秘宝を隠しているとか、かつてのドラゴンが残した超強力な遺物が眠っていると噂されている、ドワーフ達の故郷、北方山脈に商談をしに行った時の話だ。


『なんだここは!? 洞窟の奥に遺跡が!?』


 行商の道中で大雨に見舞われたロバートソン達は洞窟に避難したが、偶然隠された仕掛けを起動してしまい、遺跡を発見したのだ。


『間違いない! 古代ドワーフ達の遺跡だ!』


 この遺跡をロバートソンは、古代ドワーフの遺跡だと誤認したが、これは仕方ない。財宝が大好きで、それを保管することに余念がなかった古代ドワーフ達は、北方山脈のあちこちに秘密の遺跡を作り、財宝を隠していることで有名だった。そのため、ロバートソンは黄金に輝く自分の未来を幻視した。


 だが、専門家でないロバートソン達は気が付かなかった。遺跡の様式は、古代ドワーフ達が最盛期を迎えた時代より、更に古かったのだ。


 そう。なんとその遺跡は、古代の神々と竜達が覇権を争った時代において、竜に味方した裏切り者の神、悪神の一柱が眠っている地だったのである。


 とは言え、一部の業界関係者にしてみれば稀によくある話だった。神々の本拠地であった、大陸西部に位置するエルフの森のほぼ反対。北方山脈東部の場所は、かつて竜達の一大拠点が存在しており、広大すぎるために調査が終わっていないこともあり、厄ネタと出くわす可能性が高かった。


 現に、魔法の国のトップであるエベレッドも研究にやって来た時に、復活した竜と遭遇してしまい、厄ネタに生涯に渡るトラウマを植え付けられている。


 その悪神が、ロバートソン達が遺跡に足を踏み入れたことで目を覚ましてしまい、彼にもトラウマを植え付けてしまった。


『オオオオオオオオオオオオオオ!』


『ひいいい!? きょ、巨人だああああ!』


 遺跡をぶち壊しながら現れた、北方山脈の標高の高い山々に劣らぬ巨躯にして極。特殊な力は持たなかったが、圧倒的質量はそれだけで戦略兵器であると証明できる悪神の名を、ルウォンルーン。


 ただし。ロバートソンにトラウマを植え付けたのはルウォンルーンではないし、魔法の国のエベレッドにトラウマを植え付けたのは竜ではない。


 一部の業界の更に極一部の業界では、北方山脈は完全に足を踏み入れてはいけない土地だった。古代ドワーフの秘宝や、竜が残した遺物が存在すると噂されていたということは、これを求めて当時活発に動いていた厄ネタの中の厄ネタと、この地で出くわす可能性が非常に高かったのだ。


『おいボケ。なにメンチ切ってんだコラ。ああ? やんのかおい? ぶっ殺すぞ』


 故郷へ戻る手掛かりを求めていた若き日のユーゴと。


 しかも、たった一人この世界に迷い込まされ、帰るための手掛かりが見つからずイライラしている上に力の制御が甘いという、悪条件が重なっていた正真正銘の恐るべき怪物だった頃の彼と。


 余談だが、現在でこそ落ち着くを通り越して燃え尽きた中年のようになっているが、当時はそれはもう口が悪かった。それこそ、数十年ぶりに再会した祈りの国のベルトルドとドナートが、丁寧な口調になっていることを驚いたほどに。


『貴様のその力はなんだ!? この世にあっていいものではない!』


『てめえの同類が呼ばなかったらそもそもいなかったんだよクソボケが!』


 ついでに言うと、現在のようなブチ切れる逆鱗こそないものの非情に怒りっぽいときたものだ。しかしまあ、この時ばかりはユーゴが怒るのも無理はない。彼にしてみればルウォンルーンの同類に連れてこられたのに、この世にあってはならないと言われたら、くたばれと思うのは当然だろう。


『死ね! あってはならない者よ!』


『お! ま! え! が! 死! ね!』


 命からがら遺跡から逃げ出したロバートソンは見てしまった。


 山脈に匹敵する巨人と、ちっぽけな人間の拳が重なった瞬間を。


『ぎゃ!?』


 そしてあろうことかルウォンルーンの方が弾かれるどころか、腕は肩の付け根まで粉砕され、彼の巨体は山を巻き込んで遠くに吹っ飛んでしまった。


 それだけではない。ユーゴの拳の直線状にあった山の上部はごっそりと消え失せ、雲すら僅かに流される。


『おのれええええええええ!』


 ルウォンルーンは吹っ飛んだ先にあった山に激突して悪態を吐くが……呑気なことである。


『くたばれやボケカスが!』


『ぐびゃ』


 一瞬で追いついたユーゴの拳がルウォンルーンの頭部に着弾。妙な音を断末魔として消滅するが、そのままユーゴの拳は底がないと錯覚してしまうような大穴をこさえてしまった。


 まだ人知を超えて、宇宙という世界の枠組みを潰し、中身である概念現象理生を消滅させることが可能な、世界の破壊者たる超重力の化身ではない。


 だがである。若かろうがイライラしていようが力の制御が甘かろうが、怪物は怪物であり暴力の化身だったのだ。


 ◆


 ロバートソンはそのすぐあと助けられ、遺跡を掘り返して財宝を持ち帰ることに成功したが、そんなものを直視してトラウマにならない訳がない。


「これは、いつぞや以来ですな」


「そ、そうですな!」


「お元気そうで何よりですロバートソンさん」


「ユ、ユーゴ様こそお変わりないようで!」


 走馬灯から復帰したロバートソンの未来は、神のみぞ知ることだろう。


後書き

ほったらかして申し訳ありません。

完全にモチベーションがなくなってたので、もしよかったら評価していただけると泣くほど嬉しいです。

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