完全にとばっちりを食らう被害者の会一同1

(これはよくない)


 ユーゴがリビングのソファに座りながら腕を組み、なにやら頭を悩ませていた。


(コレットもクリスも、誰かに引っ付いてべったりだ。しかしどうする……。ソフィアちゃんも色々忙しいみたいだから、急に会いに行くわけにもいかない)


 その悩みとは我が子達の事だ。姉ともいえるソフィアがいなくなったことで、子供達は常に寂しがってしまい、家族の誰かにくっ付いて過ごしていた。それをユーゴはこのままではいけないと悩んでいたのだが、本人曰く学のない彼には、いい案が中々思いつかなかった。


(そうだ!)


 そこで彼は、愚者らしく素直に自分の経験を習うことにした。


(デパートに行こう!)


 まだ自分が幼かったころ、偶に行くデパートに胸を躍らせていた事を思い出し、子供達の気分転換にお出かけしようと思い立ったのだ。


 しかし、この世界でデパートなんてものが出来るのは、まだまだ遠い遠い未来の話。そこで彼が白羽の矢を立てたのは。


("満ち潮"の本店なら色々珍しいものがあったな!)


 満ち潮という商店は、大陸において非常に有名である。まず店舗の数が桁違いだ。広大な大陸で多種多様に存在する国家全てに支店があり、買えないものは無いとまで謳われている、まさにこの世界において最も力ある大商店なのだ。


 そして会長もまた有名人だ。殆ど一文無しの状態から、ドワーフの故郷である山の国で隠された古代の財宝を見つけ出し、それを売り払って満ち潮を一から築き上げたその人物は、立身伝の中の傑物と言っていいだろう。


(単に商店の中で買い物するだけだし、忙しいだろうからロバートソンさんには会わなくてもいいか)


 その会長の名前はロバートソン。


 そう! 湖の国の戴冠式に出席して、怪物と出くわしてしまった、哀れな被害者の一人が会長を務めている商店こそ、その満ち潮だったのだ!


 しかも付き合いも長い! なにせそのドワーフの秘宝を探し出している最中に、復活した山よりも大きな悪神の拳を、怪物ユーゴが真っ正面から粉砕し、天の雲すら割ったところに、バッチリと居合わせていたのだ!


「コレットー! クリスー! パパとお出かけしようかー!」


 実に名案だとルンルン気分となったユーゴは、早速子供達を連れて、満ち潮の本店があり、砂の国と並んで交易国家として有名な、道の国へと出かけることにしたのである。


 なお余談であるがこの国、商談をするために国を飛び越えて動き回る者が多く、それは昔も今も変わっておらず、他の大きな商会の会長も、若い頃は大陸中を飛び回っていた者が多い。つまりどういうことかと言うと、同じく若い頃は、活発にあちこち旅していたユーゴと出くわす可能性が高いという事であり、今現在も、ユーゴ被害者の会の名簿に載っている者が数多くいる国なのであった。


 つまりである。


 道の国に危機が訪れようとしていたのだ。


 そう、超弩級の怪物と、その子供達が上陸を果たそうとしていた。


 ◆


 ◆


 ◆


 大陸北東に位置するドワーフが住む山の国と、大陸中央との間に存在する道の国は、古来からその中間地点として、祈りの国や騎士の国にドワーフ製の武器や鎧を卸し、その逆に山の国へは中央の産物を持っていく事で栄えた、まさに商売の国家であった。


 そして現在でも、東方との交易で栄えている港の国を通して、世界の物流と商売に大きな影響を与えており、道の国で名を馳せる商人は、まさに世界に影響を与えることが出来るのだ。


 そんな穏やかな草原地帯が多いこの国に、とある親子が観光にやって来た。


「パパここどこ!?」


「私はクー」


「ここが道の国で一番大きな街さ」


 その親子こそ怪物親子、ユーゴ、クリス、コレットであった。


(本当は皆で来たかったけど、セラと凜の事も心配だしなあ)


 ユーゴとしては、家族皆で出かけたかったのだが、もう臨月と言ってもいい状態のセラと凜を、ルーとアレクシアだけに任せて放っておく訳には当然いかず、母親であるジネットやリリアーナに身重な彼女達の事をお願いして、自分一人で子供達を連れて来たのだ。


「パパ早く!」


「時は金なり。ここは成金の匂い」


「よーしそれじゃあ行こうか! でもコレット、成金なんてお言葉使うんじゃありません」

(元気になってよかったよかった)


「うい」


 ユーゴが子供達を誘ったときは、クリスも、普段は独特な気質のコレットも、それぞれ母親にべったり引っ付いていたが、今は普段と違う場所に興奮して、彼の手を引き急かしていた。


「はっはっは!」

(来て正解だった!)


 そんな子供達の様子にユーゴは上機嫌で笑いながら、道の国に来たのは正解だったと一人満足していた。


 ◆


 ◆


 一方。


「うっ!?」


「はわっ!?」


「ごっほごっほっ!?」


 道の国に存在する幾つかの大商店の主が、急に真っ青になったり、震えたり、飲んでいたものを噴き出したりと、騒動が起こっていた。


 商人たるもの機を見るに敏でなければならない。そうして彼らはのし上がって来たのだ。しかしながら、まさか大怪獣が何の脈絡もなしにやって来ようとは、流石の彼等でも予想が出来なかった。


 今、かつての加害者と被害者達が、出くわそうとしていた。

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