お別れ5
ようやく家に帰って来れた。
いかん! クリスとコレットの気配が起きている! 色々あって帰るのが遅れたから、また寂しい思いをさせてしまった!
「今帰ったよ! クリス! コレット! ごめんねえええ!」
昨日は泣きながら抱き付いてきたんだ。早く安心させてあげないと!
「パパお帰り!」
「おかー」
「おじさんお帰りなさい!」
「ただいま!」
リビングに突入すると、子供達が紙飛行機で遊んでいた。よかった。ソフィアちゃんとリビングで遊んでたから、特に寂しくなかったみたいで、普通に出迎えられた。でも、それはそれで、ほんのちょっぴりパパの方が寂しいというか、複雑なパパ心……。
「お帰りなさい貴方」
「ただいまジネット!」
「コレットもクリスも、パパは帰って来るから寂しくないと言ってましたよ」
リビングにやって来たジネットに、子供達が寂しがってない理由を聞いた。昨日俺が言った、パパは絶対帰って来るって言葉を信じてくれてたんだ!
「コレットおおお! クリスうう! ちーん!」
「逃げる!」
「てっ退」
鼻をかんで子供達を抱き上げようとしたが、すぐに逃げ出されてしまう。しかし、今日の俺は一味違う。
「じゃあ庭に行こうか!」
「あれ!?」
「うん?」
「え!? おじさん!?」
普段なら追いつかないギリギリの速度で追いかけるのだが、逃げ出した子供達を瞬時に抱き上げる。いつの間にか俺の腕に納まっていた子供達とソフィアちゃんが驚きの声を上げるが、このまま庭に行かなきゃならんのだ。
「ジネット、皆を呼んでくれる? 親父とお袋を連れて来たんだ」
「え?」
珍しくジネットがポカンとした表情だ。うーん絵になる。って違う違う。彼女も親父とお袋がとっくに死んでる事を知っているから、訳が分からないだろう。まあ、俺も実際の所よく分かってないんだけど。
「なんでか分からんけど故郷に帰れてね。墓ごと連れて帰って来たんだ」
ともかくまあ、親父とお袋を日当たりのいい場所で寝させてやろう。
◆
「よっと」
屋敷の隣で日当たりもよく、庭も見られる場所を選んで、"倉庫"から取り出した墓を置く。墓石も測事態も大したものじゃないが、それでも親父とお袋が眠っている新島家の墓だ。
「ジネットと申します……」
「ルーです……」
「リリアーナです。是非一度お会いしたかったです」
「義父様、義母様、セラと申します」
「アレクシアでございます」
「新島凜を名乗らせてもらっています……」
「ソフィアです。おじさんにはとってもお世話になってます」
それぞれの祈りの仕方で、両親に挨拶してくれる俺の家族達。
「じーじとばーばがおはかにいるの? パパとママもおはかに入るの?」
「やだ」
クリスとコレットが墓を見て、まだよく分かっていない死を、なんとなくだが考えてしまったようだ。また子供達を不安にさせてしまったな。しかし、親と子の……お別れもいつかきっと来る。そして先に行くのは親の方と決まっているからな。
さてなんと言うべきか。奥さん達も困った表情をしている。
「そうだなあ、コレットとクリスがお婆ちゃんとお爺ちゃんになったくらいかなあ」
「それっていつ?」
「いつ?」
「に、200年? 300年?」
誤魔化しではなく多分その位だと思うんだけど……皆はどうかなとチラリと見る。駄目だ、位階によってかなり寿命が延びるが、それはあいまいなため、皆も多分その位……かも。という様な表情だ。
「300年?」
「うん?」
子供達も、その数字によく分からんと首を傾げている。いや、チャンスだ。
「ま、とにかくじーじとばーばにお名前教えてあげて」
「クーです!」
「コーです」
困惑している子供達に、とりあえず自己紹介させて誤魔化す。いや、誤魔化すというか本当にずっと先の話で、位階が皆高いうちの家族の寿命なんてものは、本当に気の遠くなるほど先だ。
というか俺って、死んでも体の方はどうなるんだ? 火葬しても燃えるのか? つうか微生物って俺の体分解出来るの?
止めよう。それこそまだ先の話だ。
そんじゃ気分転換に
「親父とお袋と、後俺の子供の時の写真あるけど見る?」
答えは全員一致だった。
◆
「パパ、これじーじ?」
「こっちはばーば?」
「そうそう。お爺ちゃんとお婆ちゃん。パパのママとパパだよ」
リビングのソファに座り、お袋と親父の写真をじっと見る我が子達。親父は俺に似ているが角刈りで厳つく、お袋は黒い長い髪の和風美人と言った感じだ。
しかし何度思った分からんが、逝くのが早すぎたな。せめて一度は子供達を抱き上げて欲しかった。
「この方達が義父様と義母様になるのですね」
「ご主人様、お父さんに似られてるんですね!」
「ご挨拶したかったです」
「仲睦まじい夫婦じゃのう」
「はいお嬢様」
「今、凜のお腹にもお孫さんがいます……」
皆も写真を見ている。勿論紹介したかったが、複数と結婚しているのは、流石に顎が外れたかな?
「この赤ちゃんっておじさん?」
「ぬあああ!? ソフィアちゃん見ちゃダメええ!」
「あはははは!」
「フェッフェッ」
ソフィアちゃんが、オムツだけ履いて後はすっぽんぽんな俺の写真を見ていたので、慌ててその目を塞いで見えないようにする! 婆笑うんじゃねえ! ってあれ? 写真はどこに?
「あの人が赤ん坊の時の」
「可愛いです!」
「あらあらまあまあ」
「リンゴの様なほっぺじゃ」
「お世話してさしあげ……はっ!? 私は何を……」
「こ、これ、これが勇吾様の……!」
「パパが赤ちゃん!」
「えっへえっへ」
「み、見ないでえええええ!」
その写真は、いつの間にか我が愛する妻達と、子供達が覗き込んでいた。もうだめだ、おしまいだ。
一家の大黒柱としての、頼れる夫としての、威厳あるパパのイメージが崩れ落ちてしまった……
「そんなものは最初っからないよ」
うっせえぞ婆!
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