お別れ2

 以前から分かっていたことだが、ついに事の時が来たか。となるとコレットもクリスも悲しむし、俺だってそうだ。だがソフィアちゃんがお母さんのところに戻れて、新しく魔法学園に行くための旅立ちなんだ。子供達には納得して貰わないといけない。


「子供達にはこの後伝えてるよ」


「頼んだよ」


 今はポチとタマを相手に訓練しているから、それが終わった後だな。


 さてどうなるか……


 ◆


「やだああああああああ!」


「ねえねえええええええ!」


 こうなるよなあ……。


 前回ソフィアちゃんが帰ることが決まったときの様に、リビングでジネットとリリアーナと一緒に、ソフィアちゃんが帰ることを伝えたが、子供達は大泣きしてリビングを飛び出し、キッチンにいるソフィアちゃんの元へと走り去った。


「はわっ!?」


「ねえねやっぱり行っちゃだめえええ!」


「びええええええ!」


 そのまま子供達は驚いているソフィアちゃんの足にしがみつき、絶対に離さないとばかりに徹底抗戦の構えだ。


 前に伝えた時は泣きながらでもなんとか納得したが、いよいよお別れになると、やっぱり受け入れられないよなあ。


「ほらソフィアちゃんが困ってるよ」


「やだあああ!」


「うええええ!」


 なんとかソフィアちゃんから離そうとしても、子供達は両手どころか両足まで使って、ソフィアちゃんの足にがっしりと抱き付き、大泣きでいやいやと首を横に振る。


「ほらソフィアちゃんに涙と涎と鼻水が付いてるよ。はいちーん」


「ちーん!」


「ぶぼぼぼぼ!」


 子供達の顔中から色々と出ているためティッシュで拭き取る。これは言うこと聞いてくれるのね。


「ごめんねソフィアちゃん」


「ううん! それだけクリス君とコレットちゃんが私の事が好きって事だもん!」


「ソフィアちゃん……」


 ソフィアちゃんの言葉に、俺まで目頭が熱くなってしまう。そう、子供達はソフィアちゃんの事が大好きで、ソフィアちゃんも本当のお姉ちゃんとして子供達に接してくれた。そんな彼女がいなくなるのは、やっぱり俺も悲しい。


「コレット、ソフィアが帰る時はお料理するんでしょ。今から練習しないと」


「クリスもほら。お買い物行かないと」


「するけどやああああ!」


「びええええ!」


 ソフィアちゃんが帰るまでにあと数日あるけど、これは中々難しいな……




 ◆



 ◆



「ふう……」


 リビングでソファに座ってため息をついてしまう。


 子供達のお昼寝の時間であったため、ソフィアちゃんとクリス、コレットは一緒にお昼寝中だ。いや、我が子達は泣き疲れて眠ってしまったような感じだが、それでもソフィアちゃんにはしっかりくっ付いている……。


 む。婆さんがやって来た。


「親ってのは大変みたいだねえ」


「忘れてるみたいだけど親だったでしょうが。あ、最初から婆さんだったか」


「フェッフェッフェッ」


 自分の事を忘れてよく言う婆さんだ。まあ、この皺くちゃ婆さんが子育てしてた時代なんて、旧石器時代とかそんなレベルだろう。忘れていても仕方ない。


「婆さんの子供はこんなことあった?」


「あったよ。忙しい時代だったんだ。今日の別れがそのまま今生の別れなのも珍しくなかった分ひどく嫌がった」


 忙しい時代という言葉には色々込められてるんだろうな。このまま先人の知恵を参考にしよう。


「そんな時はどうしてあげたんだい?」


「普段通りしてやったんだよ」


「はん? ああね。分かったような気がする」


「子供の相手は要領悪いのにねえ」


「うっせえ」


 一瞬意味が分からなかったが、多分婆さんの言いたいことは、普段から愛情を持って接していたなら、変に違う事をするのではなく、いつも通りにしていろという意味だろう。そして俺達は、普段から愛情一杯でクリスとコレットに接しているから問題ない。


「ありきたりな言葉だがね、人には時間っていう薬毒しか効果がない場合があるんだよ」


 確かに時間は、辛い思いを癒す薬にも、大事な事を忘れる毒になり、そしてそれを使って成長していく。


「でもなあ。子供には泣いて欲しくないのが親心なんだわ」


「ま、それもそうだね」


 親ってのはやっぱり難しいなあ。


「さて、私はちょっと小大陸へ出かけてくるよ」


「あれ、ソフィアちゃん寝ちゃったよ?」


 小大陸に行くならソフィアちゃんも連れて行けばいいのに、何故態々お昼寝している今?


「被害は出てないけど、海賊がどうこうビムが言っててね。ちょっと確認するのさ」


「はい?」


 その海賊正気か?


 ◆


 ◆


「あれかね?」


「うわ本当にいたよ」


 皺くちゃ婆一人で海賊云々は腰に辛かろうと付いてきたが……婆さんの魔法で空中にいる俺達のかなり先に、旗もなにも掲げず、明らかに不審船としか言いようのない大型の船、というかぶっちゃけ海賊船がいた。


 狙いは考えるまでもない。小大陸復興のための資源や、そこで働く者達の賃金を満載した輸送船だ。ああ、それと何かを育てたり、生み出す遺物も積まれているだろう。そう考えると、まさに宝の山と言ってもいいな。全く後の事を考えなければ。


「正気じゃねえな。小大陸の復興は大陸の一大事業なんだぞ。その輸送船を襲ったら、祈りの国が血眼になって殺しに来るのによくやるよ」


 だが、この小大陸復興には祈りの国ががっちりと絡んでいるのだ。万が一輸送船を襲うような事をすれば、守護騎士団が目を血走らせて殺しに行くに決まってる。


「坊やに年寄りの知恵ってのを授けてあげようかね。馬鹿に付ける薬はないのさ」


「薬師が言うなら間違いない」


 まさに至言だ。救いようの馬鹿としか言いようが無い。


「じゃあ消そうかね【渦ま】」


「婆さんちょっと待て。本拠地を突き止めないと、また後から湧いて出るぞ」


 あの海賊船が一隻だけという保証はないのだ。どこが拠点になっているか突き止めないと。しかしいきなり魔法をぶっ放そうとするなんて婆さんらしくない様な。あ、ひょっとして。


「ひょっとして怒ってる?」


 ようやくソフィアちゃんのお母さんの仕事が落ち着いて、ソフィアちゃんが帰れるというのに、また忙しくする様な原因に怒ってるんじゃあるまいか?


「そんなことはないよ」


「そう」


「じゃあちゃっちゃと片付けないとね」


「やっぱり怒ってる?」


「早くしな」


 やっぱ怒ってるわ。


 っていかんいかん。婆さんが一人で船の甲板に立ったところで、海賊達に舐められるのは目に見えてる。俺も早くいかないと。


 婆さんの魔法から抜け出して海を走り、一足早く海賊船に向かう。


「こんにちは皆さん」


「あ!?」

「誰だてめえ!?」


 甲板に着地して挨拶するが、どいつもこいつも武器を持った、堅気とは到底言えそうにない連中だ。しかも、目が嫌な濁り方をしている。


「一応言っておくんですけど、小大陸への輸送船を襲うと、祈りの国が殺しに来るのでお勧めはしません」


「そいつを殺せ!」


 ひょっとしたら分かってないのかもしれないと思って、輸送船を襲うとどうなるか教えたのだが、船長らしき男のお返事はご丁寧に、周りの奴等へ俺を殺せという命令だった。


「は!?」


「船長さん、いくつか質問があるでのお答えくださいね」


 だが当然ながら、単なる剣で俺の頭を切るのは不可能だ。むしろ粉々に壊れた剣を見て呆然とする海賊を消し飛ばし、船長らしき男の前まで移動する。


「人員! 拠点! 全部喋ってもらうぞ!」


「ぐぎっ!?」


 船長の首を締めあげながら、他の襲い掛かってくる海賊達も全て消し飛ばす。


「あの子が! ソフィアちゃんが! ようやく母親の所へ帰れるっていうのにそれを邪魔しやがって! 何年あの子が待ってたと思うんだ!? ああ!? それをてめえ!」


 む。婆さんが到着した。


「ひょっとして怒ってるのかい?」


「んなことはない」


「ま、怒ってくれてありがとうと言っておくよ」


「だから怒ってないって」


「じゃあ後は私がやるよ」


 やっぱ怒ってんじゃん。


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆



『総長、こちらマイクです。海賊が拠点にしていた小島に踏み入りましたが、船が船首から浜に突き刺さって、海賊達は全員氷ってます。多分、6は唱えている超高等魔法です。はい。訳も分からず消滅しているのではなく氷っています。はい、その、ユーゴ殿といった感じでは……いやでも、船の感じはユーゴ殿の様な気も……至急調査を!? 総長どうされました!? ベルトルド総長!? え、今直接会った? 会ったです、か? え!? 今謝りにこっちに来る!? ちょ、総長それはいいですって! 何とか引き留めてください! 総長? 総長!?』

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