お別れ1
なんでか分からんけど、朝起きたら寝汗が凄かった。全く覚えが無いけど悪夢でも見たのかね? いや、正夢の日で悪夢という事は、かなりまずい事態が将来起こるんじゃないか……うーん思い出そうとしても思い出せない……一体未来で何が起こるというんだ……。
「いくよクリスくん! コレットちゃん!」
「うん!」
「りょ」
おっといけない。今はクリスとコレット、ソフィアちゃんが戦闘訓練してるんだった。それに何故だか、夢について思い出さない方がいい様な直感が働いている……。
ま、まあいい。
さて子供達のお相手は
「わんわん!」
(やるぞー!)
「にゃあ」
(いざ尋常に勝負)
わんにゃん警備隊のポチとタマである。
唐草模様のスカーフを巻いた柴犬と猫がやる気に満ちているが、俺の故郷で二人を叩こうものなら、動物愛護団体の人がすっ飛んでくるだろう。だが悲しいかな、これにはちゃんとした理由があるのだ。
なぜならこの世界、人の最大の敵は人であることに違いは無いのだが、魔力なんて訳の分からんものがあるため、故郷の野生動物とは比べ物にならないほどの戦闘力を持つ生物が、多種多様に存在するのだ。そのため人間の叩き方も大事だが、それと同じように人以外の生物の叩き方も重要なのである。
そしてその訓練も、とジネットが考えているところに、我らがわんにゃん警備隊長であるポチとタマが立候補したのだ。それはもう大ジャンプしながら。
かくして我が家の庭で、子供達と猛犬猛猫の戦いが始まろうとしていた。
「【光よ 当たれ】!」
子供達は、まずソフィアちゃんが魔法を唱えて、ポチとタマの機先を制そうとする。これは単なる訓練だから痛みも感じないただの光の玉だが、顔先で強烈に輝き、一瞬だけ視界が塞がってしまうのだ。
「ねーねクーコーコンビネーションアターック!」
「むげんに増えそう。あとねーねコークーだから」
その光の玉を追いかけるように、クリスとコレットが剣を持って突撃する。いや、コレットはクリスの後ろに隠れる形となり、何処からの攻撃からでもクリスをフォローできるようにしている。
しかしコレットの言う通り、クリスのコンビネーションアタックは、家族と組んだら無限のバリエーションが生まれそうだ。そ、その中にパパの名前も……! いや、そんな攻撃の技を使わないならそれに越したことはないのだ。でもちょっとだけ、ちょっとだけそのコンビネーションの名前にパパを入れて……!
思考が逸れた。とにかく人よりも圧倒的に運動能力が高い四足動物を相手に、子供達は慣れる所から始める必要があああああ!?
ピカ
「きゃいん!」
(やられたー!)
「にゃあ」
(我敗北す)
ポ、ポチ隊長ーーー! タマ隊長ーーー!
ピカッと光った光の玉に、一瞬視力を失ってしまったポチとタマは、そのままコレットとクリスが持っている剣をブスリと、いや実際はフニャリだが、とにかく刺されてやられてしまったのだ!
「勝ったよ!」
「ねーねクーコーコンビの勝ち!」
「勝利のブイ。あとコークーだから」
「ポチ! タマ! しっかりするんだ!」
「きゅーん……」
(しーん)
「にゃあ」
(しーん)
喜んでいる子供達の傍で、ポチとタマがぐったりと地に倒れ伏している!
「駄目じゃないか二人とも! 全く訓練になってないよ!」
「きゅーん……」
(しーん)
「にゃあ」
(しーん)
倒れ伏した二人を揺さぶるが反応がない。それにしても駄目。これぽっちも子供達の訓練になっていない。
「いつも見ている光景……」
「あらあらうふふ」
「フェッフェッフェッ。そういやダメ親父の血から生まれてたね」
困ったようにしているジネットとリリアーナ。そしてニヤニヤ笑っている婆さん。
確かにタマとポチは俺の血から生まれたことを考えると、この結果は最早必然だったのだろう。
「だけど将来、子供達が魔物に襲われたらどうするんだい! そのために訓練してるんだよ隊長達!」
「わんわん!」
(その時は僕がいるから大丈夫!)
「にゃあ」
(以下同文)
「それもそうか」
確かに。
納得した。
竜達の長が相手でも、真っ向から殴り合いが出来るポチとタマがいれば大丈夫だろう。
「わんわん!」
(そこにご主人も駆けつけるから完璧!)
「にゃあ」
(証明完了)
「それもそうか」
確かに。
納得した。
俺が子供達のピンチを感じない筈がないな。最悪でもポチとタマが足止めしている間に俺が駆け付ければいいんだ。ポチとタマなりに考えてやられたんだなあ。
「精霊とはいえ、犬猫に納得させられる奴があるかい。ほらちゃんとやりな」
「きゃん!?」
「にゃあ」
ぬお!? ポチとタマが婆さんの魔法で生み出された風に浮かされる。婆さん無詠唱で魔法を使うんじゃねえびっくりするだろ!
「わん!」
(じゃあ頑張る!)
「にゃあ」
(獅子は我が子を谷へ落とす)
やる気が出たらしいポチとタマが再び大地に立った。これは今度こそまともな訓練となるだろう。
「もう一回行くよクリスくんコレットちゃん!」
「うん!」
「りょ」
それに応えるよう、子供達も戦闘態勢に入るのであった。
「ちょっといいかい?」
「何だい婆さん?」
子供達の様子を見ていたら婆さんが小声で話しかけて来た。
「ソフィアの母親の方で、迎える準備が出来たんだよ」
「そうか……」
いよいよソフィアちゃんとお別れか……。
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