亭主と店主 それと必殺技

「クーパーンチ!」


「コーキック。コーキック」


 今日も頑張って訓練している我が子たち。勿論その相手は……。


 ただの案山子だ……どうしてこんな事になってしまったんだ……。


 いや原因は分かっている。あの婆が、呆れるほどダメ親父だね、とか何とか言いながら、かなり人に似ている案山子を作ったせいだ。あの案山子のせいで俺は父親としての立場を失ってしまった。


 でもしょうがないじゃないか。子供達が真剣な目でチャンバラをして来たら、やられるのが父親としての役目だ。俺はこれっぽっちも悪くない。全世界のお父さんも同意してくれるはずだ。


「クーチョーップ!」


「コーキック。コーキック。股間キック」


 だがコレットよ。さっきからずっと案山子の股間を狙って飛び蹴りしているのはパパどうかと……いや、大変合理的なのだが、こう、男として……。


 あ、そうだ! 残念ながらパパ友はいないけど、いや、よくタマとポチと夜中に密会してるあのお父さんとなら……まあそれは今度だ。爺いになった知り合いはいたな。今もたまに行ってるけど、最近寄ってなかったから顔を出すか。


「コレットー、クリスー。パパとお昼食べに行こうかー」


「行くー!」


「野菜炒め野菜抜きで」


 子供自慢もしてやろっと。まあ、向こうは孫自慢してくるだろうけど。


「ジネット、ごめんだけどちょっと旧交を温めて来るね」


「はい行ってらっしゃい」


 あそこはそれほど広くないからな。皆で行くとパンクする。


 ◆


「あ、お客さんお久しぶりですー!」


「おいっす」


「クーちゃんもコーちゃんもお久しー!」


「こんにちわ!」


「おひさしー」


 商店街でちょくちょく会ってるが、最近は会ってなかった看板娘に軽く手を上げる。いや、もう娘とは言えんな。なんたって結婚もして一児の母だ。時間が経つのは早いもんだ。


「おう久しぶりだな」


「邪魔するよ。奥さんの料理が美味しくてね」


「言ってろ」


「こんにちわ!」


「こんにちわ」


「坊主たちも久しぶりだな」


 何とか空いていたカウンターの席に座る。

 そう。行く所とは昔の馴染み、ジネットとルーに出会う前はよく通っていた酒場だ。尤も酒場と言っても、昼は飯屋をやっている。


 そして目の前の不死鳥、もしくはゾンビが俺と意見が同じはずの店主だ。


「お孫さんは元気かい?」


「ああ。やんちゃで困るくらいだ」


「そりゃ結構」


 厳つい癖にデロりと顔が崩れた。そう、この生きた屍は看板娘の親父で、彼女が結婚した時に間違いなく死んだ筈なのだ。いや待てよ? ジネットに見惚れてた時に女将さんに殺された筈。こいつ不死身か?


 だが看板娘の妊娠が分かるとすぐさま墓から飛び起き、今では立派な爺バカになっているという訳である。まあ、俺もひ孫の代にはくたばってるだろうけど、玄孫が生まれたら棺桶を蹴飛ばして飛び起きる自信がある。


「まあ聞け。この間はお爺ちゃん大好きって言ってくれてだな」


「女将さん注文おねがーい」


「はいよ!」


「クーはお肉!」


「コーは肉炒めで」


「無視かコラ」


 爺バカがなんか言ってるけど、夜に酒場が開かれるまで自慢されるのは間違いないから無視だ。


「いや聞いてくれ。子供達とチャンバラやって即死したら、婆さんに駄目親父めって言われたんだよ」


 だがこっちの話は聞いてもらう。


「なに? 魔女の婆さんめ分かってないな。そりゃやられるだろう」


 ふ、流石は同士だ。首を横に振っているゾンビに満足する。やっぱりあの婆は分かっていないんだよ。


「でもクーはもっとパパとチャンバラしたい」


「同じく」


「クリス……! コレット……! ちーん!」


 ご、ごめんよ! パ、パパが間違っていた! そりゃ子供はパパと長く遊びたいよね! はっ! きっと婆さんはその事に気づかせようとしてたんだな! それならそうと言えばいいのに回りくどいなあ。


 あ、でも一応注意しとかないと。


「でもあれは、コレットとクリスの身を守るための訓練だから、遊びじゃなくて真面目にやるんだよ? パパも……頑張るから」


「うん!」


「りょ」


 俺、自信ねえなあ……絶対やれちゃいそうだなあ……。


「はいよお待ちどう」


「お、ありがと女将さん。それじゃあ頂きます」


「いただきます!」


「いただきます」


 うーん全員肉、肉である。なんかでガキの頃、痛風結晶の写真を見たことがあるが、あんな針の塊が出来たらそりゃ痛いわと思ったことがある。まあ、普段の子供達のメニューは皆が栄養バランス整えてくれてるから大丈夫か。


 問題は俺の方だ。親父が痛風だったからな……。


 ま、今は気にしない気にしない。


「うん。流石女将さん」


 やっぱり肉だな!


 ◆


「さあ……来るんだ子供達よ!」


「むむむむむ!」


「かなり大マジメと見た。ここはひっさつわざを使うべき」


 ゾンビの墓場から帰った後、案山子から父の尊厳を取り戻すため、訓練用の柔らかい剣を両手に持って、我が子達と相対する。


 大丈夫、大丈夫。ツンってされても倒れなかったらいいんだ。そうだ。出来るはずだ。


 来たっ!


「とああああああ!」


「パパ大好き」


「パパもだよおおおおおお! はっ!?」


「かわされた!」


「おしい」


 あ、危ねええええええええええ! コレットの言葉に一瞬意識を失っていた! 身体能力はそこら辺の人間にまで落としているから、とんでもなくギリギリでクリスの剣と、挟む様に回り込んでいたコレットの短剣を躱せた!


「コレット……あなたって子は……」


「あはは。確かに効果的なんだけどねえ」


「ママも大好き」


「私もよ……」


 頭を抑えているジネットと、苦笑しているルー。


 い、いかんぞこれは! このままではまた即死してしまう!


「じゃあクーもよろしく」


「りょうかい!」


 待ってええええええ! 二人同時に言われたらパパはああああああ!?


「パパ大好き! とおおおおおお!」


「パパ大好き」


「パパもだよおおおおおお! あっ!?」


 あああああああああああああああああああああ無理だあああああああああ!

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