怪物の死

 ある家の庭で、骨肉相食む悲劇が起きようとしていた……。


「さあ来るんだ!」


 一方は覚悟を決めた表情の男、この家の主にして怪物ユーゴ。


「むむむむ!」


「そろそろおやつ」


 もう一方はその怪物の息子と娘、名をクリスとコレット。クリスはむむむと剣を正眼に構え、コレットは短剣を逆手に握っている。


 今まさに、悲劇が起きようとしていた。


「クーコーコンビネーションアターック!」


「だからコークーコンビネーション」


 とあああああっと掛け声と共にクリスが飛び出し、その陰に重なるようにコレットが追随する。まさに魂の双子ならではの連携。ユーゴでなければ、一人にしか見えなかったであろう。


「えい!」


「ほうわちゃあ」


「うぐっ!?」


 そしてその剣の切っ先がユーゴに届いてしまった! そう、ついにユーゴは、最強は……!


「ぐあああああ! やられたあああああ!」


 敗北してしまったのだ! 大陸の命運が、今、尽きてしまった!


「ぐっはあ……」


 回転しながら地に倒れ伏す怪物。


「しょうり!」


「いえーい」


 その俯せになった怪物の背に馬乗りになる、新たな最強、その名はクリス、コレット!


「パパ復活! ひひーん!


「えへへへへへ!」


「えっへ!」


 しかし怪物はすぐさま復活を果たすと、お馬さん形態となり、庭中を駆け出した!


 そう、怪物は不死身なのである!


「うーむ。戦闘訓練が親子の遊びになってしまっておるのう。これにはジネット殿も苦笑いなのじゃ」


「はいおひい様」


 優雅に庭でお茶を飲んでいたセラとアレクシアが苦笑している。


 実は、そろそろ人間の叩き方を子供達に教えなければとジネットが考えていたところ、当然の様にユーゴが立候補して、ご覧のあり様という訳だ。この男、本当に突っ立ってるだけで、しかも子供達が持っている、魔法で作られた柔らかい剣がちょこんと当たっただけで、今の様に即死してしまうのだ。これならかかしを使った方がまだましである。


「うふふ。まあ、初めての旦那様と子供たちの訓練ですから、あれくらいで丁度いいんです」


「なるほどのう。あれ、未来から来た二人が何か言ってたような……」


 初めての訓練だからと、うふふと笑っているリリアーナだが、未来からやって来たコレットとクリスはこう言っていた。パパ直ぐやーらーれーたーって言うから訓練にならないと。


 このリリアーナの微笑みが苦笑になるのもそう遠くない先の事である。


 以上、ケース1。訓練中の即死!


 ◆


「危ないから、ママのお膝から動いちゃだめだよ?」


「うん!」


「はーい」


「うふふ」


「ちゃんと注意されたら聞くのに、どうして髪を……」


 ユーゴと子供達、そしてその母達がいるのは、ユーゴの作業場である。普段は石や木材、道具などが置かれて危険なため、子供達の立ち入りを禁止していたのだが、パパのお仕事を見たいという子供達の要望に応え、椅子に座っているリリアーナとジネットの膝の上で大人しくしているならと許可したのだ。


「さてやるか!」


 子供達が来たらやる気を出すのがパパと言う生物である。一つ気合いを入れると、目の前に置いていた石材を指で抉り取る。


「パパどうやったの!? ま法なの!?」


「ふおおおおおおお!」


「ほらクリス、落ち着いて」


「ダメよコレット」


「おとなしくするって約束したでしょ。へっへっへっへ」

(子供達の尊敬の視線がああ! し、心臓止まりそう!)


 クリスとコレットからは、パパは何もしていない筈なのに、置かれてある石だけはどんどん違う形となっていくのだ。当然興奮して母親たちの膝から移動しようとするが、両親に抑えられてしまう。尤も、その父親の方は口では窘めつつも、内心は嬉しさ爆発で心臓が止まる寸前であった!


「じゃあパパお仕事に戻るからね」


「パパがんばってー」


「ファイトー」


(止まったかも)


 以上、ケース2。嬉しさのあまり心停止!


「出来た!」


「パパすごい!」


「おおおおお!」


 この時出来た像は、それはもう見事であったという。


 ちなみにこの後、やっぱり危ないわこの作業所と思い直し、子供達をここに入れる事は無くなったせいで、子供達からパパの仕事はなんだっけ? マッサージ師? とか思われちゃったりする。


 ◆


 さて、夜にも怪物の死因は存在する。


「ふぁ……眠たい……」


「ねむねむ。ねる」


 目を擦り始めた子供達。そこに怪物の死因があった。


「よっこいしょ。うっ……!」


 突如気分が悪くなってしまった怪物は、ソファに横になると息を引き取ってしまった! そう、怪物は死んでしまったのだ!


「おやすみなさーい」


「おやすー」


「ちーん」


 わざとらしく言葉を発して、ソファに寝そべって両手を胸の前で組むユーゴ。相変わらず死んだ振りをして、少しでも子供達の気を引こうとしていた。


 だが子供達も慣れたもの。バイバイと手を振るクリスと、シュタっと手を上げたコレットがリビングを後にしようとする。ガン無視である。


「たまには皆で一緒におねんねしようううう!」


 パタン


「……ぐすん」


 ああ無常。追いすがるユーゴを無視して、扉は閉じられてしまった。


 以上、ケース3。突然気分が悪くなって死亡!


 これが一日における怪物の死因であった………。























 ◆


「ふがふが」


「あなた!? 離れんかこのおっぱいお化けええええ!」


「すうすう」


 ケース5! 朝起きたらリリアーナの胸に埋もれて窒息死!


 ケース4はこの間にあったぞ!

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